メドレー代表がスタートアップ起業家に語る、「成長」の軌跡

ユニコーン企業を100社輩出するプラットフォームの構築を目指す、グロービスのアクセラレータープログラム「G-STARTUP」。採択企業を中心としたスタートアップの起業家に向け、現役キャピタリストによる資金調達を目指した伴走のほか、成功した起業家ファカルティを招いたセミナーやMBAのケース講座など、ユニコーンを目指すために必要な視点や最新の経営知を授ける講義を通じた支援を行っている。
今回は、第5期採択企業に向け実施されたセミナーの中から、株式会社メドレーの瀧口浩平氏をお招きした回の様子をお届けする。高校時代から起業を経験した瀧口氏から、現在は人材プラットフォーム事業と医療プラットフォーム事業を中心に展開する同社の成長の軌跡について、グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナーの今野 穣が聞いた。

長期での成長産業だと判断

今野:初めての起業は、高校生の時だったそうですね。

瀧口: 2002年、高校3年生になったばかりの頃に最初の起業をしました。企業当初は、得意な数学を使うことを想定していましたが、大企業のニーズが頭を動かすことではなくて手を動かすことにあったので、柔軟さとハードワークで対応していました。中小企業を数年間経営する中で、インターネット企業らが資金調達をして沢山の仲間を集めて著しく成長していくのを見て、悔しさなのか憧れなのか、そういう気持ちを抱きました。そこで、インターネット企業を作ろうと思い、2009年に現在のメドレーを起業しました。

今野:領域は医療ヘルスケア、と決めていたんですか?

瀧口:自動車関連の領域を第一選択として考えていたのですが、自分の大切な家族や友人の医療体験もいくつか重なり、医療ヘルスケアの業界の課題を解決したいと考えました。

最初は患者が医療選択において後悔することを無くすようなプロダクトを作りたいと考えましたが、持続可能なビジネスプランがどうしても作れませんでした。そこで、初期のビジネスプランはマーケット・インで検討していくこととし、デスクトップリサーチ以外に病院で短期間お手伝いをさせていただいたのですが、その時期は、患者7人に対して看護師が1人いると診療報酬(入院基本料)が上がるという「7対1の看護」体制により、都会や立地条件の良い病院が看護師をかき集め、反対に地方は人手不足になっていました。ビジネスモデル上、人材紹介会社が都会に偏在しやすいということもあり、特に地方の病院は人員獲得に苦労されていました。そこで、医療業界×人材、という領域で、日本全国にサービス提供できるビジネスモデルを選択しました。まずは医療機関の人材課題を解決し、そこでできる業界のステークホルダーと一緒に、患者が医療選択において後悔することを無くそうと考えていました。

当時、グローバルに名だたる企業を作るというような高い目標は現実味がなかったものの、最低でも1000億円企業は作りたいと思っていたので、それが叶うビジネスプランかどうかは、しっかり考えました。成長産業であれば、産業の成長率程度は会社が伸ばせるものです。高成長が短期的に見込まれる領域ではなく、緩やかな成長が長期で続く産業を選びました。

競争の激しい領域で、どう戦うか

瀧口:医療ヘルスケアの人材事業領域にまずは挑むと決めた頃、この領域ではエス・エム・エス社が2008年に上場していましたが、それ以外の大手が目立っていませんでした。しかしリーマンショック後ということもあり、2009年6月に登記し、11月にジョブメドレーを開始したときには、ほぼ全ての人材大手が参入してきたんです。競争環境が全然変わってしまった。レッドオーシャンというのは、一般的には高成長が短期的に見込まれる産業で起きるものだと思っていたので、想定外のシチュエーションでしたね。

今野:いち起業家が良いオポチュニティだと思っているということは、他もそう思うということですね。ですがピボットせずに4、5年続けていった。そこはどういった考えでアクションしたんでしょうか。

瀧口: 薬剤師と看護師の領域はレッドオーシャン化したので、短期シェアは諦めました。

というのも、ビジネスモデルとして求人数を多く集めるために、成果報酬を安価に設定する必要があったのですが、成果報酬を安くするためには、求職者を集める広告コストを他社より低くする必要があったのです。CPAが毎週上がっていく競争環境の中で、安価な成果報酬のまま、短期シェアを取りに行くほどの資金力もチーム力もありません。そして、はじめの数年間は、スタートアップ企業の調達環境は悲惨なものでした。

当社は、全国型で医療福祉関連職種を全て対応していたため、競合が少ない領域、ECでいうとテールと呼ばれる領域で、医療機関の求人を集めていきました。

求人サイトはECサイトに似ていて、品揃えが豊富であれば、ユーザー価値が高まり、ユーザーが集まれば更に品揃えを増やすことが容易になります。つまり、短期的には、求職者集めで競合に負けたとしても、最も多くの求人情報を集めることに成功すれば何とかなると信じていました。そのためには資金が必要です。そのため、ビジネスモデルを曲げて、いわゆる職業紹介業を並行したり、エンジェル投資家に少しずつ出していただいたりして、何とか続けました。4-5年ほどで資金調達の環境が改善し、そこからは大分楽になりましたが、今があるのは当時の仲間と投資家のおかげです。

今野:「簡単にピボットするな」というのは大事なメッセージでもあると思っています。というのもVCとして起業家を見ていると「2回目のピボット後のビジネスのほうが情熱を持ってやっている」というケースはあまりないんです。自分の意思でピボットするならまだしも、人に言われて変えるとどうしても「やらされている」と感じて熱量は下がる。それだけで成功確率は下がりかねません。そういった意味では今回のお話を伺っていても、自分が信じているのであれば、続けていく方が結果正解に近いこともあるのではないか、と感じました。

瀧口:シリアルアントレプレナーに投資する投資家の方は「この人がやるなら」と投資しますよね。それは、結局何をやってもその人は成功すると思っているからではないでしょうか。もちろん、事業開始前の想定と大きく異るものもあると思います。余程の要因でない限り、そこでも成功させられないのであればより大きい市場に行っても当然難しい。自分やチームの能力をアップデートすることが企業作りとして大切だと思います。

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