2023年の注目トピック――組織・リーダーシップ編

人的資本経営の情報開示と実装/リスキリング・アップスキリング/リバースメンタリング

林 恭子

昨年の同記事で、2022年のキーワードとして今年と殆ど同じ「人的資本経営」、「非財務情報」、「ISO30414」を挙げた。

まさにその通り、昨年の日本では、まず4月に「高いガバナンス水準」「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」への要求をベースとする東証の市場区分変更が、続いて5月に経済産業省が「人材版伊藤レポート2.0」として人的資本経営の実現に向けた検討結果を公表している。更に6月には岸田政権による「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」が閣議決定され、特に成長分野での「人への投資」では、100万人の能力開発に3年間で4000億円規模の投資がなされることが決まった。

毎日のようにメディアで「人的資本経営」という言葉が取り上げられ、これを意識しない経営者はいなかったと思う。

<関連記事:「新しい資本主義」における能力開発支援 未来を描く「人への投資」のあり方とは

しかしいよいよ昨年11月に、金融庁より、2023年3月期決算以降の有価証券報告書に、人材投資額や社員満足度といった非財務情報の記載を求める、という方針が発表された。今現在で約4000社の大企業がこの対象となる。いずれ開示が求められると知ってはいただろうが、この中で一体どれくらいの企業が、本気で「従業員はコストではなく、付加価値を生みだす資本であり、彼らの能力開発やエンゲージメントを高めることが企業の未来を決めることになる」と考え、取り組んできただろうか?その本気度と実態が、2023年からの人的資本経営の情報開示と実装で、日のもとにさらされることになるだろう。

その人的資本への重要な投資対象のひとつが、DX やGXといった成長分野での能力開発だ。現在の業務での能力をより高めるための学習は、アップスキリング。また、例えば現在はデジタル分野とは関係のない仕事をしている人材に、成長分野への労働移動を目的にデジタルを学習してもらうことなどをリスキリングと呼ぶ。
これも2022年から言われ続けてきたキーワードだが、人的資本の情報開示が進むことで、各企業で社員の能力開発にどの程度取り組んでいるかが明らかとなる。そのため、掛け声だけでなく実装が進むことが期待される。

一方で、新しいテクノロジーへの適応力には年代差もあると考えられる。人生100年時代を迎え、改正高年齢者雇用安定法では「70歳までの定年引上げ」、もしくは「70歳までの継続雇用制度」が努力義務化された。今後も長く働くことになるミドルシニア人材をデジタル弱者だとして、「テクハラ」などの困った現象も起きつつある。
こうした非生産的風潮を排除するためにも期待したいのが、リバースメンタリングだ。リバースとは逆転や反転。つまり、一般的なメンタリングとは逆に、若手の社員がメンターとなって、上司や先輩社員にアドバイスや指導を行う育成方法である。

企業に所属する全ての社員を大切な資本と認識し、その資本が豊かに価値を生み出せるよう、あらゆる方面からアプローチをしていく時代が、今、幕を開けようとしている。

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