日本障がい者サッカー連盟 山本氏「教育と組織づくりが意識改革の鍵になる」

同一日本代表ユニフォーム着用にあたり、重要だったプロセスとタイミング

西村:選考においてポイントになった、JIFFでの取り組みについて伺っていければと思います。はじめに、共生社会実現に向け大きなメッセージとなった、東京2020オリンピック・パラリンピックでのサッカーに出場した日本代表3チーム(U-24日本代表、なでしこジャパン、ブラインドサッカー男子日本代表)の同一ユニフォーム着用への取り組みについて伺えますでしょうか。

山本:もともと各障がい者サッカーの日本代表選手から「<SAMURAI BLUE>や<なでしこジャパン>と同じユニフォームを着用したい」という声はずっと上がっていました。ですが、各障がい者サッカーはそれらの代表チームを組織するJFAとは組織が異なるため、当然ながら異なるユニフォームを着用していました。もちろん同一ユニフォームの着用は目指すゴールのひとつでしたが、前提としてサッカーファミリー全体が「障がい者サッカーも同じサッカーであることが当たり前」との意識改革が必要であると考えていました。そこで尽力したのは「教育を通じたインクルーシブな場づくり」「組織づくり」です。

西村:障がい者サッカーを横断的に管轄する都道府県内の組織を、スポーツ庁と連携し、当初ほぼゼロだったところから31の都道府県での設立まで果たされました。

山本:「教育を通じたインクルーシブな場づくり」では、場づくりのキーマンとなるJFAの8万人を超えるサッカー有資格指導者たちに向けて、障がい者サッカーについて学んでもらうプログラムをJFAと一緒につくって提供開始しました。「組織づくり」では、一般のサッカーと障がい者サッカーが同じようにプレーできる環境を、いつでもどこでも実現できるよう、JFAの傘下にある47都道府県サッカー協会や、Jリーグクラブ、地域の障がい者サッカーチームに働きかけていきました。インクルーシブな場をつくるとともに、その活動が継続的に行われていく仕組みづくりを並行して地域から変革に取り組み、同じサッカーであることが当たり前になってこそ、同一ユニフォームの着用が実現された時に応援してもらえる存在になると考えました。

ただ、サッカー界は東京2020オリンピック・パラリンピックの前にビックイベントであるFIFAワールドカップロシア大会を控えていました。そのため、ワールドカップへ向けた機運醸成の期間は場づくりと組織づくりに専念し、大会以降東京2020オリンピック・パラリンピックに向け本格的に動いていきました。

西村まず土壌づくりから始め、機運が高まってきた時に効率的に働きかけていく戦略的なアプローチをとったと。組織づくりを経て一気に全国で連携組織が増えたかと思いますが、どのように進めていったのでしょうか。

山本:全国には既に素晴らしい取り組みをしている団体や活動は多くありました。それらの情報を丁寧に拾いあげ、ナレッジを共有できる場をつくっていきました。そして、各地域に活動を推進していけるキーマンを見つけ、その方々を中心に連携しながら進めました。

また、地域を動かすにはトップダウンのメッセージがポイントになります。2014年、サッカー界では「誰もが、いつでも、どこでもサッカーを楽しめる環境をつくっていく」という主旨の「JFAグラスルーツ宣言」が行われていました。JIFFとしてもスポーツ庁と連携した上で事業を進めることで、スポーツ界全体としての方向性を開示して共有しながら進めていきました。

非営利ならではの組織運営

西村:次にポイントになったのが、日本ブラインドサッカー協会での事業型非営利組織の確立で、財源を確保し代表強化活動の環境や体制を大きく改善された点です。中でも資金調達に向けた取り組みについて、あらためてどのように動いていたのか教えてください。

山本:障がい者スポーツの競技団体のほとんどは、資金の9割を国からの助成金で、残り1割程度を寄付金で賄っています。日本ブラインドサッカー協会は、助成金以外に早くからパートナー企業からの収入によって活動していましたが、もうひとつの柱として、障がい者サッカーを活用した体験型研修を事業にし、企業に販売することで資金調達をしたのです。
具体的には視覚を閉じた状態でプレーする=見えない中でコミュニケーションを取る必要のあるブラインドサッカーを使った研修です。チームビルディングや組織の円滑なコミュニケーション、部門/職掌/職種を超えたチームワークの活性化をはかったりするなどの研修があります。

西村:非営利団体が事業化によって資金調達を行う、というのは今では広がりつつありますが、当時は例がほとんどなかった取り組みかと思います。苦労や何か意識した点はありましたか。

山本:非営利団体は人員が限られ、正規職員も少なくボランティア人材も多く関わる組織です。そのため、全体として資金調達の方向性の合意形成はできたとしても、実際のアクションの段階で、各自の負担が増えることで時に停滞してしまったりする点には苦労しました。仕事を任せる時は属人化しないよう、分解して部分的にお願いしたり、広く共有したりすることを意識しました。

また、非営利の組織はそれぞれが強い想いを持って団体の業務に関わっています。貢献意欲高く、「やりたくてやっている」からこそ、フィードバックには工夫が必要になります。そこで、選手との接点を積極的につくり直接感謝を伝えてもらったり、あるいは携わっていただいているものがメディアを通じて本人に届くよう広報活動にも注力し、モチベーションや良いサイクルを生み出せるように意識しましたね。

後編に続く)

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