ダイバーシティニュース 社会(5/2)土井香苗【6/30までの限定公開】

土井香苗(どい・かなえ):国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表
1998年東京大学法学部卒業。2006年ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)。2000年弁護士登録。2006年にヒューマン・ライツ・ウォッチのニューヨーク本部のフェロー、2008年9月から現職。紛争地や独裁国家の人権侵害を調査して知らせるとともに、世界中の人権問題を解決するため、日本を人権大国にするため活動を続ける。Twitter

土井香苗さんのニュースピックアップ

1. 子どもの権利「名前だけ知ってる」「全く知らない」教員は3割

「意見を聴かれる権利」「遊ぶ・休む権利」などの権利に基づきすべての意思決定を行うというのが国連の定める子どもの権利条約だが、日本ではこの権利意識が希薄だ。子どもが本来持っている権利を社会が持っていないかのように扱うと、子ども自身が声をあげられなくなる。こども家庭庁創設と子ども基本法制定を契機に大転換を図らなければいけない。逆に言えば今後大きく変わる伸びしろがあるとも言える。

2. アフガンのイスラム宗派対立、自爆テロで多くの子ども犠牲に

2015~2019年にかけてアフガニスタンで起きた学校や子どもへの攻撃は1,000回超とされる。今はタリバン政権が女子に対する中等以上の教育を禁止している。女の子は政府からもイスラミック・ステート(IS)などの武装組織からも抑圧・攻撃を受けている状況だ。海外には日本の援助でつくられた学校も多く、日本からの働きかけは重みがあるはず。日本政府は学校への攻撃を止めるよう積極的に働きかけを行ってほしい。

3. 「バージン・テスト」は性暴力 インドネシア軍が全面廃止

2014年に初めて知ったときは衝撃だったが、当時は採用に向けたWebサイトの募集要項にも「バージン・テスト」を行うとの記載等があり、ある意味、当たり前のことだったのかもしれない。科学的根拠のないジェンダー暴力であり、我々ヒューマン・ライツ・ウォッチを含む各国のNGOや現地の女性団体による活動や国際的な圧力の結果、廃止に至った。時間はかかったが、軍が公式に全面廃止したのは意味があると思う。

4. ウクライナとミャンマー 日本政府による難民対応の差に批判

避難民、難民への対応格差に焦点が当たるのは良いことだと思うが、日本は今まで、各国で起きている人権侵害への対応が欧米に比べて生ぬるい面はあった。そのなかで、ウクライナに関しては国民の高い関心もあり良い対応になったと思う。「ミャンマーやアフガンの対応と違うからずるい」という話にせず、今回の対応は評価したうえで、他の事例にも横展開していくという方向で人権侵害への関心が一層高まればと思う。

5. 国連人権理事会でロシアの理事国資格停止が可決

ウクライナ侵攻で戦争犯罪、あるいはジェノサイドの疑いもかけられているロシアが国連人権理事会の理事国であってはならないわけで、理事会の対応は評価すべきだと思う。一方で、今回の侵攻は人権理事会および人権高等弁務官事務所という、人権を司る国連機関が日本で注目される結果にもなった。ここで日本政府の発言力や存在感が高まるよう、日本人が高い関心を持って政府に行動を促す流れになってほしい。

【スペシャルトーク】奴隷労働

スペシャルトークでは、タイの漁船における奴隷労働を描いた映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇(以下、ゴースト・フリート)』についてお話を聞きながら、奴隷労働について土井香苗さんに掘り下げていただいた。

『ゴースト・フリート』は、世界有数の水産大国であるタイで起きている人身売買や奴隷労働の実態を捉えた貴重なドキュメンタリー映画だ。本編では問題を解決すべく活動するタイ人女性パティマ・タンプチャヤクル氏に焦点を当てるほか、奴隷となった当事者たちの話も生々しく語られている。現場にカメラが入るわけではないが、運良く逃げ出した人々から後日聞かれる奴隷労働の体験談は、ホラー映画のように恐ろしく、衝撃的だ。

歴史上の話のように感じられる奴隷労働は現代も行われている。乗船させられる漁船は、水揚げのためにほかの船に近づくことはあっても、陸には近づかないため逃げ出すことは不可能だ。生き延びるため、何年にもわたって危険かつ暴力的な環境で奴隷労働を強いられる。長時間働かせるために薬物を打たれたり、子どもたちが連れてこられたりもしている。

こうした奴隷労働などの人権侵害だけでなく、水産資源の枯渇につながる乱獲を含めて、世界では水産業の抱えるさまざまな問題が長年指摘されてきた。「違法・無報告・無規制(Illegal, Unreported and Unregulated、以下IUU)漁業」に対する規制の機運が今は世界的に高まっている状況だ。

日本でもIUU漁業規制への関心が高まってほしい。IUU漁業による漁獲は世界漁獲量の約3割を占めると推定されている。私たちは奴隷労働によって獲られた魚を食べている可能性もあるわけで、この問題は世界2位の水産物消費大国である日本自身の課題とも言えるのではないか。奴隷労働の実態を知れば誰もが驚き、IUU漁業による海産物を求めないようになると思う。

すでに世界ではさまざまなIUU漁業規制が設けられているし、日本でも遅ればせながら2020年に水産流通適正化法が制定され、今年12月に施行される。それ自体は画期的だが、輸入業者などからの抵抗もあったのか、対象魚種は国内3種、輸入4種と、非常に限定的。欧州では全魚種が対象だし、アメリカも今は規制魚種拡大の方向にある。水産流通適正化法は2年後に見直しが行われる予定だ。『ゴースト・フリート』公開を契機に問題が広く知られ、関心が高まるなかで2年後を迎え、規制対象の魚種拡大につながってほしい。

ダイバーシティニュース視聴方法

1.LuckyFM茨城放送のラジオ FM88.1/94.6MHz
2. YouTubeライブ配信(アーカイブでも視聴可能です)https://www.youtube.com/channel/UCOyTwjQoiUJXxJ8IjKNORmA
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