ダイバーシティニュース 社会(12/27)乙武洋匡【1/31までの限定公開】

乙武洋匡(おとたけ・ひろただ):作家
1976年生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』(講談社)がベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍したのち、新宿区教育委員会非常勤職員「子どもの生き方パートナー」、杉並区立杉並第四小学校教諭を経て、2013年には東京都教育委員に就任。『だから、僕は学校へ行く!』(講談社)、『オトことば。』(文藝春秋)、『オトタケ先生の3つの授業』(講談社)など著書多数。Twitter 公式サイト

乙武洋匡さんのニュースピックアップ

1. 車いすバスケの鳥海連志選手にベストドレッサー賞

名だたる著名人が受賞する煌びやかなイメージがあったベストドレッサー賞に障害者が選ばれたことは、良い意味で衝撃的。「オリパラがあった年にパラリンピアンである僕を選んでいただけたことに意味がある。パラスポーツのアイコンになれるよう頑張りたい」といったコメントをなさっていた。むちゃくちゃ格好良い人だ。障害を持つ子どものなかから、鳥海選手のようになりたいと考える子どもが増えたらと思う。

2. 神奈川県知事、障害福祉宣言の文言で批判受け修正検討

「当事者目線の障がい福祉実現宣言」内の「人間らしい扱い」という文言に関し、「人間に対して“扱う”とは」との批判があるという。揚げ足取りにも思えるが、文言を考える過程で本当に“当事者”の障害者が参加していたら「障害者の方々と一緒に考えたのだから」と突っぱねることもできたと思う。実際はどうだったのか。制度や商品をつくるときはマイノリティ等当事者の声を反映させることが大切になると、改めて感じた。

3. 障害者への痴漢行為等で電車の乗降介助放送が取り止め

介助する駅員の方による「○番車両の車椅子のお客様は○駅で降車予定」といったアナウンスを自分に置き換えると、「私の個人情報、駅にいる何百人に伝える必要ある?」と、恥ずかしかったり不安になる方もいると思う。感じ方には個人差があるし、音声を頼りにする視覚障害者の方もいるので、サービス手法は一概に統一しづらく鉄道会社としても悩ましいと思う。議論の材料が出揃ったのは良いことだと感じるが。

4. JR西、車椅子でも1人で乗降可能な稼働スロープを試作

先ほどのニュースにも関連するが、乗降で介助が不要になればアナウンスも不要になる。近年バリアフリー化が進んできた鉄道駅で、ラストワンマイルはホームと電車との段差や隙間。今回の試作機は、ホーム側のセンサーが車椅子を関知することでスロープが自動で盛り上がり、その段差や隙間をなくすという。物理的な段差の解消と人々の意識改革に加えて、テクノロジーの力もバリアフリーの進展に向けて重要な鍵になる。

5. 知的障害持つ長男殺害の母親に懲役3年、執行猶予5年

ネット上では母親に同情的な声が多い。その気持ちも分かるが、罪もなく失われていい命はない。こうしたニュースがあったときは「社会の支援が大切」といった声も一時的に大きくなるが、実際には障害者支援の予算拡充等に力を入れる政治家に票が集まるわけではないという現実もある。悲劇を繰り返さないためにどんな制度が必要で、どんな政治家を選ばなければいけないのか、私たち一人ひとりが問われていると思う。

【スペシャルトーク】旧優生保護法による強制不妊手術の被害者支援条例

スペシャルトークでは、兵庫県明石市で、旧優生保護法による強制不妊手術の被害者支援条例が可決されたことについて、乙武洋匡さんに掘り下げていただいた。

かつての日本には「障害の遺伝子は後世に残すべきでない」との趣旨で、国が障害を持つ人に不妊手術を強制できる法律があった。今は国もその過去が誤りであったと認め、謝罪するとともに、2019年には被害者の方々に320万円を一律支給する救済法も施行された。ただ、失ったものの大きさを考えれば微々たる補償額であり、今はさらなる補償を求めて訴訟を起こしている方もいる。

しかし、そうした一連の経緯に対してネット上では「障害者に子育てができるのか」「今以上に障害者が増えたらどうするのか」といったコメントが垂れ流されている。優生思想そのものだ。もし旧優生保護法が肯定されて世の中から障害者がいなくなったら、次にはじまるのは「健常者でも能力の低い人間は生まれないようにしよう」という世界だと思う。

そんななかで明石市は、自治体として本件の被害者に補償金を出す全国初の条例を可決した。補償額は国とほぼ同じ300万円で、配偶者等、本人以外にも補償がなされる。画期的な条例だと思う。制定を進めた泉房穂市長は弟さんに障害があり、障害者に冷たい社会への怒りが政治家を志した原点だったという。本件に関する市長のツイートに心を揺さぶられたのでご紹介したい。

私の著書『五体不満足』には、手足のない私と初めて対面した母が「かわいい」と言ってくれたエピソードを書いたが、実は後年、母と話してぞっとしたことがある。私が生まれた当時はエコー技術もあまり普及しておらず、私に手足がないことは分からなかったという。そこで母に、「もしエコーで手足がないと分かっていても産んだ?」と訊くと、「うーん、産んでいなかったかもしれないね」と。事実、今の日本で障害を持つ子を育てていくのは本当に大変だし、誰であってもそう考えてしまうのは仕方のないことだと思う。

では、そうした社会にあって、私たちは障害者が生まれにくい国をつくるのか、それとも障害のある子どもも育てやすい国にしていくのか。ネットの論調を見ていると前者の価値観でものを言う人が多いと感じて恐ろしい。しかし、今日ご紹介した母親による息子殺害のニュースに触れて皆が悲しいと思うなら、あるいは泉市長のように社会へ怒りを抱く人を減らすのなら、やはり後者を目指すべきではないか。私自身の表現活動や生き方が、少しでも障害者やマイノリティの生きやすい世界へ進むことに役立てばと思う。

ダイバーシティニュース視聴方法

1.LuckyFM茨城放送のラジオ FM88.1/94.6MHz
2. YouTubeライブ配信(アーカイブでも視聴可能です)https://www.youtube.com/channel/UCOyTwjQoiUJXxJ8IjKNORmA
3. radikoでも聴取可能です

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