ダイバーシティニュース 社会(8/2)土井香苗【9/30までの限定公開】

土井香苗:国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表
1998年東京大学法学部卒業。2006年ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)。2000年弁護士登録。2006年にヒューマン・ライツ・ウォッチのニューヨーク本部のフェロー、2008年9月から現職。紛争地や独裁国家の人権侵害を調査して知らせるとともに、世界中の人権問題を解決するため、日本を人権大国にするため活動を続ける。Twitter 

土井香苗さんのニュースピックアップ

1. 「助けを求めている」 ベラルーシ選手が亡命を希望

背景にはルカシェンコ大統領による独裁と反対派への大弾圧がある。コーチの不手際をSNSで指摘しただけだが、「国を背負った代表選手がコーチを公に批判した」と、出場もすべて取り消され帰国を命じられていた。街で政権批判のプラカードを掲げるだけで逮捕される国だ。帰国すれば大変なことになるのは間違いない。本件については日本政府の役割も大きいと考えているし、万が一にも帰国させることがあってはならない。

2. 米議会が北京五輪のスポンサー企業を強く非難

平和の祭典である五輪は世界の人権状況と無関係でいられないことを示したニュースだ。ウイグル、チベット、香港、あるいは中国本土で起きていることを考えれば中国政府が批判されないわけはないし、今後はその協賛企業を含めて関係者もさまざまな批判に晒されると思う。日本にもワールドワイドな五輪協賛企業があるので、その責任を国会でしっかり追求する必要がある。

3. 「ゲイであることは誇り」 英国選手が高飛び込みで金

性的少数者であることをカミングアウトしたアスリートが、東京大会には五輪史上最多となる180人ほど参加している。その1人であるトム・デイリー選手が、「僕はゲイで五輪金メダリスト」と胸を張っていたことが素晴らしい。ただ、前述した180人のうち日本人はゼロで、まだまだ国内はカミングアウトできる状況にない。デイリー選手のようなロールモデルが次々出ることで、日本の、特に若いLGBTQアスリートの背中を押してくれることを期待している。

4. 五輪史上初、トランスジェンダー選手が重量挙げで出場

(前半のスナッチが失敗して)今回は「記録なし」となったローレル・ハバード選手だが、トランスジェンダー選手がありのままの性自認で五輪出場の権利を行使できたのは非常に大きなことだと思う。他方、日本は罰則規定のない「LGBT理解増進法」すら成立させることができていない。「スポーツをすることはすべての人に与えられた権利である」という五輪憲章やスポーツ基本法のベースに立った議論が、本件をきっかけに日本でも進むようになればと思う。

5. 「日本企業も人権対応を」 経産省政務官が談話

ビジネスでも人権を尊重するよう2010年代から法制化を進めていた欧米諸国に対し、日本には同様の法律が何もない状態だった。しかし、今回は政務官が「対応しなければリスクに直面する」と明言しており、省内では「ビジネス・人権政策調整室」も発足された。省として本格的に取り組む姿勢だと思うので、諸外国と同様の法制化を期待したい。経済団体からは「法律でなくガイドラインで良いのでは?」との声もあるが、支援とセットにしつつ一定のルールを設けることで、中小企業も含めて世界市場でしっかり戦えるようになるのだと思う。

【スペシャルトーク】テーマ:「五輪があぶりだした日本と世界の人権スタンダードのギャップ」

スペシャルトークでは引き続き土井香苗さんに、五輪開催で明らかになった日本と世界の人権スタンダードのギャップについて、その背景や解決方法を掘り下げていただいた。

開会式に関しては、音楽担当の小山田圭吾さんが、演出担当の小林賢太郎さんにいたっては開会式前日に、過去の言動をめぐって辞任または解任となった。半年前には森喜朗さんも女性蔑視発言で会長を辞任している。世界と日本で人権スタンダードに大きなギャップがあるのだと思う。

なぜか。日本は人権に関して国際社会からピアプレッシャーを受ける機会が少ないことも影響していると感じる。ヨーロッパ、南北アメリカ、そしてアフリカには地域の人権裁判所および人権機構があって、その国における最高裁判所の判決を受けて申し立てを行うこともできる。これは自国による独自の人権解釈が許されない国際機構。「国際社会でこれが許されるのか」と、日々議論できるよう不断の努力を続けているという話なのだと思う。その制度がアジアにはなく、日本の独自解釈が国際的プレッシャーを受けることもないわけだ。

こうした状況のなか、我々ヒューマン・ライツ・ウォッチは東京五輪を取材する海外記者の方々向けに「記者ガイドブック」を作成した。ネットでも検索できるのでぜひ読んでいただきたい。このガイドのなかで、たとえば日本にLGBT法がないことや、スポーツ指導における体罰等、五輪に関連する問題を含めてさまざまな人権上の課題を伝えている。東京大会をきっかけにして、次の世代に向けてそうした負の連鎖を止めるレガシーを打ち立てて欲しい。

このほか、同ガイドでは五輪と直接関係ないものの、世界と比べて遅れているとされるいくつかの問題も指摘させていただいた。たとえばトランスジェンダーの方が戸籍上の性別を変えるために手術が必要となる点。女性の地位についても「ジェンダーギャップ指数」で毎年恥をかいている通りだ。さらには、推定無罪の原則がおよびにくい刑事司法の問題、難民受け入れが大変少ない問題、そして今や先進国でほぼ日本だけとなった死刑制度の存続についても書いている。

とにかく、人権という観点で日本が世界に水をあけられている現状をまず認識したうえで、五輪をきっかけに日本も国際水準へとアップデートされたと言えるような社会の変化が起きればいいと考えている。私たち1人ひとりが意識を変えるかどうかにもかかっているのだと思う。

ダイバーシティニュース視聴方法

1.LuckyFM茨城放送のラジオ FM88.1/94.6MHz
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