人工知能の基本を知る!シンギュラリティの現実味やビッグデータでの適用 

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機会か、脅威か? ~人工知能が変える生活、ビジネス、社会~[1]

72ebeb952b1dcf9f4060a813e4377c52 鈴木健氏

鈴木健氏(以下、敬称略):今、人工知能(AI)の分野が大変盛り上がっている。そこで今日はディープラーニングやビッグデータあるいはシンギュラリティといった概念を含め、人工知能の議論をするにあたって日本で最高レベルの方々にお集まりいただいた。まず簡単に自己紹介をしたいが、「スマートニュース」を使っている方は会場にどれほどいらっしゃるだろう。…ありがとうございます。ダウンロード数およそ1000万となるニュースアプリ「スマートニュース」の裏側も、機械学習や人工知能の塊だ。だから僕自身も日々勉強しているし、会社にいる20人ほどのエンジニアのうち5人ぐらいは機械学習や人工知能の研究者またはエンジニアとなっている。人工知能の力を使って、インターネット上から記事のURLを無数に取ってきて、それらを分類したり、どの記事が面白いかを判定したりしている。

では、パネリストをご紹介したい。中島先生は人工知能と認知科学の分野で日本を代表する研究者であり、創世記から同分野に関わっていらっしゃる。一方、中林さんはIBMでビッグデータとアナリティクスのアーキテクトでいらっしゃるほか、筑波大学大学院で客員准教授も務めていらっしゃる。最近はデータベースの専門家を超えて、IBMの人工知能「Watson」のプロジェクトにも関わっている。先般はそのWatsonがクイズ王を破ったとのことで話題になった。そして、東京大学の准教授を務めていらっしゃる松尾さんは、実は僕と大学の同級生。博士課程のとき、人工知能学会の学生編集委員第1期生を一緒にやって以来、15年ほどの仲だ。その後もいろいろなプロジェクトも一緒にやったりしている。今はウェブマイニングの世界で活躍していて、当然その手法として機械学習も人工知能も使っていらっしゃる。で、今はさらにそれを超える「強いAI」の実現も目指しているところだ。

人工知能の定義とは?

3cb3b088151ffecaf4508634b4df8c62 松尾豊氏

さて、人工知能を議論する背景として、最近、シンギュラリティという概念が話題なっているということがある。この言葉を聞いたことがある方はどれほどいらっしゃるだろう。あ、結構いらっしゃる。では、ビッグデータに興味があるという方はどうだろう。…なるほど。では、ディープラーニングは? …結構いる。本セッションは恐らく今回のG1で唯一の理系セッション(会場笑)。かなり専門用語が飛び交うと思う。ただ、今伺った感じではあまり一般向けの話にせず、一定のレベルを保った議論ができると思う。まず、具体的な議論を始める前に人工知能の定義を伺ってみたい。専門家のあいだでもさまざまな意見があるが、御三方はどのような定義をしていらっしゃるだろう。

松尾豊氏(以下、敬称略):一般の方々が考える人工知能と専門家が考える人工知能は大きく違う。元々、「コンピュータを使って人間のような知能を実現するにはどうしたらいいか」ということで専門家がいろいろと考えてきた領域だ。だから人間のような知能についてもいろいろな意見がある。僕の場合は「予測性」。恐らく、生物の脳は外界で次に何が起こるかを予測するためにできている。人間はそれが極端に発達していて、次に何が起こるか、ほかの生物に比べて圧倒的によく分かる。従って、僕にとって人工知能をつくることは予測力が非常に高いマシンをつくることと同義だ。ただ、一般の人々が考える人工知能の定義は、「ふるまいが賢い」という話になることが多い。外界の状況に応じてふるまいを変えるその程度が大きくなればなるほど、人工知能もより賢く見える、と。つまり、人や時代によっても定義は変わるのだと思う。

66689fc80b0d4e6b2994914e205b476c 中林紀彦氏

中林紀彦氏(以下、敬称略):松尾先生がお話ししていたのは左脳のことだと思う。実際、分析的に考える、あるいは言語を理解するといった領域で、今は機械学習を含めた人工知能的なものを実現しようとしている方がたくさんいらっしゃる。そのなかで私個人は…、会社としてもそうだけれども、今後は右脳の部分がもっと出てくると思っている。では、右脳とは何かといえば、感じたり認識したりするほう。画像認識等、いろいろなものを感じる右脳の部分は、学問的にもテクノロジー的にも今後まだまだ研究が進んでいくと思う。左脳の働きに右脳の働きを組み合わせ、それらを上手く使い分けながら、さらに人工知能を賢くできるんじゃないかなと思っている。

中島秀之氏(以下、敬称略):長らく人工知能の研究をしている。昔は「人工知能なんて嫌いだ」と言う教授たちから隠れて影で研究していた世代だ。私としては先ほど松尾さんが言っていた通りで、まず人間を知りたいというのがある。この研究をしていて最も強く思うのは、「やっぱり人間ってすごい」ということ。人間にも頭の良い人と悪い人という区別があるけれど、AIから見るとどちらもすごく頭がいい。100と99で争っているようなものだ。今のAIは1とか10ぐらい。2045年にシンギュラリティを迎えて、人工知能が人間を超えるんじゃないかと心配している人はいる。でも、現状を考えると…、超えたらラッキーだと思うけれども、たぶん超えないと思う。

589abaf136e425cf696507052135b271 中島秀之氏

人間の何がすごいのかというと、世の中の状況が次々と変わるなか、どの情報が大事でどの情報が不要かを瞬時に判断するところだ。…「判断」という言い方も変だな。考えもせず必要な情報だけをきちんと見ている。それに対してコンピュータは、基本的にはすべてを見てから考えないと何が必要か分からない。人間はそこで何を見ていないかすら意識せず、必要なものだけを見る。状況依存性という言い方になるが、それが非常に上手い。これが柔軟性の素だと思う。たとえば私がここで「5時」と言ったとき、誰も「日本時間の5時だね」と思わない。よくよく考えると日本時間の5時だけれど、「5時」だけで通じる。で、アメリカに行ったり国際電話をしたりするとき、やっとそれを考える。これを意識せず行えるAIはまだつくることができていない気がする。

で、AIの定義というと考え方は二つ。人間のようにきちんと理解して考えるAIをつくるというのがまずひとつ。で、もう一つは「賢いことができたらなんでもいいだろう」という考え方だ。鳥と飛行機のような感じで、鳥のように飛ぶものをつくるのか、「飛べば飛行機でいいや」と思うのかの違いになる。今世の中に出ているのは飛行機のほう。計算なら人間より速いとか、そういったものは数多く出てきている。で、研究者の立場で言うと、実用化するとAIの分野から離れてしまうという感覚がある。

シンギュラリティとは?

鈴木:このように、とにかくいろいろな定義がある。ただ、人工知能という分野自体は1956年に開催されたダートマス会議というところに専門家が集まって確立したものだ。で、そのあと「人工知能、できるんじゃないか?」となっては批判を浴び、また「いけるんじゃないか?」となっては批判を浴び、そういうことをなんども繰り返して現在に至っている。今回は第3次ブームのような状態だ。さて、いよいよ本題に入りたい。人工知能が現在大きな注目を集めている理由は大きく分けて二つ。ひとつは産業界で実際に使われ始めているためだ。当然、人工知能を最も使って大成功しているのはグーグル。人工知能や機械学習のサイエンティストまたはエンジニアが、グーグルには恐らく数千人規模でいる。

で、もう一つが2005年に書かれた『The Singularity is Near: When Humans Transcend Biology』という本の存在。これが、より大きな文脈で人工知能を注目させることになった。日本語版は『ポスト・ヒューマン誕生』という謎のタイトルだけれども(会場笑)。シンギュラリティとは「技術的特異点」と訳される。これは人工知能が人工知能自身をさらに改善していくことができるようになるポイントだ。それによって線形的成長から指数関数的成長へと変化し、双曲線でゼロに近づくと無限に上がっていくようにブレークスルーが起きるのではないかと言われている。そうした、カンブリア大爆発のような知能の大爆発が起きて、人間を超えるだけなく、「超知能」というか、圧倒的な知能が生まれると同著には書かれている。

この本を読み進んでいくと話がだんだんSFのようになって、もう人類が生み出した知能が宇宙全体を埋め尽くすといったことまで書かれている。著者はレイ・カーツワイルという人で、普通なら馬鹿にされるような内容だけれども彼自身はOCRソフトの発明者でもある。かなり専門的なことも分かったうえでこの本を書いていて、専門家からも、「これは真面目な議論として受け取るべきだ」と考えられている。あの『ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環』を書いたダグラス・ホフスタッターも、「カーツワイルの議論は本気で受け止めなければいけない」と言っていた。そのようにして世界中の専門家が影響を受けはじめている状態だ。で、カーツワイル自身は現在グーグルに所属しているけれども、とにかく同著ではシンギュラリティが今から30年後の2045年に起こると書かれている。「それによって知能が大増幅する」と。同著のサブタイトルは「生物を超える」。つまり、40億年前に生命が誕生したのと同じぐらいすごいことが起きるというわけだ。それで今は大論争が起きている。

元々、AIの世界には「Strong AI」と「Week AI」という考え方があった。強いAIと弱いAI。強いAIとは、「人間と同じまたはそれ以上の知能をつくることができるし、それを目指すべき」という考え方。で、弱いAIとは、「知能にはいろいろな形があるから別に人間の知能を特別視する必要はなく、産業応用を含めて必ずしも人間を目指す必要はない」という考え方だ。ただ、シンギュラリティはそれらを超えて…、両方の概念が合体している面もあるけれども、人間の知能をはるかに超えて、それ自身が自己増殖的に知能を獲得していくというもの。それで、「人間の仕事がなくなるんじゃないか?」等々、ビル・ゲイツのような人たちがいろいろなことを言って話題になっている。そこで、シンギュラリティについても御三方にそれぞれご意見を伺ってみたい。

中島:先ほどの話で例えると、強いAIは「鳥型で空を飛びたい」という話で、弱いAIは「飛行機でもなんでもいい」という話だ。で、そう考えると実はシンギュラリティは飛行機型の先にあると思う。鳥と飛行機なら明らかに飛行機のほうが速いわけだし、そういう方向で人間を超えていくと私は捉えている。ただ、カーツワイルの議論ではコンピュータの処理速度が倍々に速くなるという前提が根底にある。10年で2倍になるという処理速度向上が続いたら…、実際に続いているが、それなら2045年に人間の処理能力を超えるというものだ。極端に言えばスピードだけの話と言える。

ただ、コンピュータに最も欠けているものは何かというと、身体性。体を持っていないことだと私は思っている。昔、「マイシン」という感染症の診断プログラムがあった。これはインターンレベルの医者よりは良かったが、実用化していない。なぜなら子どもに注射を打つと痛がることが分からない。「じゃあ、それを教えたらいいじゃないか」と思うところだけれども、教えなきゃいけないことはやたらとある。人間は体を持っているからいろいろなことが自然と分かるけれど、コンピュータにはその都度、「体を持つことがどういうことか」「痛みとは何か」といったことを教えないといけない。そうしないと、人間と同じような知能というほうには行かないだろうと思っている。

中林:ただ、今はIoTで各種センサーデバイスが発達してきた。ある程度の知覚的なもの、特に耳や目の機能はコンピュータの解析等で実現しつつあるので…。

中島:ここで言う「身体性」は人間と同じ体を持っていないという意味で。

中林:あ、すいません。いずれにせよ、そういった部分でセンシングが発達すると、針を刺されて「痛い」というのは分からないにしても、そのときの脳波や体温の反応を察知して、それをまた学習することはできると思う。なので、私は中島さんよりもう少しストロングAIの立場を取らせていただいている。とはいえ、モデルやアルゴリズムは人間が与えるもの。機械がアルゴリズムを考えて自ら賢くなっていくという状態は、僕にはまだ想像できない。今はまだ限界点が見えている状態なので、シンギュラリティにはほど遠いのかなというのが僕の感覚だ。

松尾:僕は人間の知能を圧倒的に超えると思う。ただ、それをシンギュラリティと表現するかどうかは別。僕は、シンギュラリティというのは圧倒的な知能に加えて生命性を指していると考えている。それは生命としての自己保存だったり、自分と同じものを増やすという生殖の本能。それは進化の過程でしかできないので、人工知能が人工知能を生み出すことはできないと思う。ただ、一つの個体として圧倒的知能を持つというのは、比較的すぐに来ると僕は思っている。

鈴木:シンギュラリティというのは簡単に説明できない概念だけれども、今はそれが2045年までには起きないだろうという見方が専門家のあいだでは優勢だ。ただ、この30年間で相当なレベルに行くという見解は多い。実際、ビッグデータというパラダイムがあるし、ディープラーニングという、ここ数十年間のなかで最も大きなブレークスルーも最近はあった。この辺も具体的に伺っていきたいが、その前に、ここまでで会場の皆さんから何か質問等はあるだろうか。

会場(アレン・マイナー氏:サンブリッジグループCEO):人工知能はいずれSelf-re-creationやSelf-enhancementといったところまで行くと思う。ただ、カーツワイルは同著で、「そのとき人工知能にどんな倫理観を持たせるかが大変重要な課題になる」と書いている。僕はそこで、アメリカ型または中国型社会の倫理観が生み出した人工知能と、日本社会の倫理観が生み出した人工知能とで、そのあとの人間社会が極端に分かれる危険性があると思った。そうした人工知能の倫理観について研究の世界ではどのような議論がなされているのだろう。日本のIT業界を応援する人間として、私は日本にシンギュラリティを起こして欲しいと思っている。

会場:現在のインターネットは基本的には人間がやったことに反応して返すだけ。そこで、今後は人工知能によってより積極的に情報を取っていけるようなことになると思う。そのとき、ネット上にデータが蓄積されていくとすごい世界が広がると思うが、そのデータを管理する人について何か議論はなされているのだろうか。

会場(梅澤高明氏:A.T.カーニー日本法人会長):いつかはシンギュラリティが起こるという前提に立つと、最後、人間に残る競争優位性は何になるとお考えだろう。(26:27)

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人工知能×ビッグデータは今後どうなる?

鈴木:ご質問内容は後々の議論にも関係してくるので、まずは次のテーマに進み、のちほど改めて今のご質問にもお答えいただきたい。次のテーマはビッグデータ。これはIBMさんも力強く進めていて、そうしたデータを人工知能に適用しようということでWatsonというプロジェクトもある。Watsonはクイズに限らず幅広い分野での展開を目指していると思うが、この辺について中林さんからご説明をいただきたい。

中林:ビッグデータについてお話をする際は、それは単なるデータの集まりでしかないので貯めておくだけでは価値がないということを、まず議論のポイントにしている。大企業の方々もベンチャーの方々もビッグデータについていろいろとお話をなさるけれども、データだけでは単なるお荷物。そこからどんな価値を見出すかという視点が必要で、そのための道具の一つが人工知能だ。データを処理して、そこから何か新しいものを見つけ、ビジネスに生かして競争力につなげなければいけない。

それともう一つ。一言で「ビッグデータ」と言っても漠然とし過ぎて想像が難しいと思う。恐らく業界によっても違う。金融や保険のビッグデータと製造業のビッグデータは違うと思う。たとえば保険屋さんならDNA等に興味がある。遺伝子検査で乳がん等がかなりの確立で分かったりするためだ。それで、保険屋が知らないことを個人が知っているという情報格差がある。それをどうするかという観点があると思う。

あと、最近では自動車での利用がある。車には100~200個のセンサーが搭載されていて、そこから数十ミリ秒の単位でデータが次々生まれている。それらがネットワーク上にはまだそれほど出ていないけれども、2015~2016年ぐらいからは車に溜まったそのようなデータがリアルタイムで吸い上げられていく。そのとき、車屋さんはそれらデータをどのようにして安全面で生かすかのか。あるいはどのようにマネタイズしてBtoBで売っていくかを考えていたりする。だから、とにかく幅が広い。溜まったデータを分析または解析して、付加価値を乗せることが重要だ。

鈴木:ビッグデータとなると、データもめちゃくちゃ重くなるから体力勝負のようになる面も若干ある。グーグルの売上は年間およそ6兆円だけれども、彼らは年間8000億から1兆円をデータセンター等に使っている。松尾さんは産業界にも関わっているが、それでアメリカと日本の体力差みたいなものは感じることはあるだろうか。

松尾:感じるけれども、こと人工知能に関してはまだアルゴリズムの発展段階だから問題なく戦えると思う。ただ、恐らく数年のうち、体力勝負になる。そのときになっても現状から逆転できないままでいると、負けが確定してしまうと思う。

鈴木:結局のところ、アルゴリズムの勝負と、「そのアルゴリズムをどれほどぶん回せるか」という体力勝負の両方がある。

→機会か、脅威か? ~人工知能が変える生活、ビジネス、社会~[2]は8/18公開予定

※開催日:2015年3月20日~22日

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