事業ポートフォリオとは
事業ポートフォリオとは、一つの企業が手がける複数の事業の組み合わせのことです。単一事業だけでなく、関連する複数の事業を展開することで、企業としてのリスクを分散し、持続的な成長を目指す経営戦略の考え方といえます。
たとえば、ビールメーカーがビール事業に加えて他の飲料事業や食品事業を展開したり、発酵技術を活かしてバイオ事業に参入したりするのも、事業ポートフォリオの一例です。このように、企業が複数の事業分野に展開することを「多角化」と呼び、その結果として形成される事業の組み合わせが事業ポートフォリオなのです。
なぜ事業ポートフォリオが重要なのか - 変化する市場で生き残るために
事業ポートフォリオが注目される理由は、単一事業のみに依存することの危険性にあります。どんなに成功している事業でも、市場環境の変化や技術の進歩、消費者ニーズの変化によって、いつかは成長の限界に直面する可能性があります。
①将来への備えとしての意義
製品やサービスには必ずライフサイクルがあります。導入期から成長期、成熟期を経て衰退期に向かうのが一般的な流れです。単一事業だけでは、その事業が衰退期に入った時に企業全体の成長が止まってしまうリスクがあります。そこで、異なる成長段階にある複数の事業を組み合わせることで、企業全体としての持続的成長を目指すのです。
②競争優位性の強化
複数の事業を展開することで、事業間でのシナジー効果を期待できます。たとえば、共通の技術やノウハウ、顧客基盤、販売チャネルなどを活用することで、個々の事業の競争力を高めることが可能になります。これを「範囲の経済性」と呼び、多角化の重要なメリットの一つとされています。
事業ポートフォリオの詳しい解説 - 戦略の光と影を理解する
事業ポートフォリオの構築には、明確な目的と慎重な検討が必要です。多角化を進める理由は大きく分けて4つあります。
①既存事業の限界への対応
企業が多角化を進める最も分かりやすい理由は、既存事業の成長限界への備えです。どんなに優れた製品やサービスでも、市場の飽和や技術の陳腐化により、いずれは成長が鈍化します。この時に備えて、新たな成長の種をまくのが多角化の役割です。
ビールメーカーの例で見ると、ビール市場だけでは限界があるため、他の飲料事業や食品事業に進出し、企業全体の成長を維持しようとしています。
②シナジー効果による本業強化
範囲の経済性を活かした多角化では、複数の事業が相互に補完し合い、本業をさらに強化することができます。
歴史的な例として、テレビ放送の黎明期に新聞社がテレビ事業に参入したケースがあります。読売新聞は読売ジャイアンツというコンテンツを活用し、日本テレビの事業成功と新聞の販売部数増加の両方を実現しました。これは異なるメディア事業間のシナジーが効果的に機能した例といえます。
③コングロマリット・ディスカウントという落とし穴
しかし、事業ポートフォリオには大きな課題もあります。「コングロマリット・ディスカウント」という現象が起こる可能性があるのです。これは、多角化企業の株価や企業価値が、それぞれの事業を個別企業として運営した場合の価値の合計よりも低くなる現象です。
この現象が起こる主な原因には以下があります:
- 多様な事業すべてを適切に管理することの困難さ
- 事業の多様性が増すほど効きにくくなる範囲の経済性
- 共通の経営理念やビジョンでまとめることの難しさ
- 限りある経営資源の無駄な分散
- 事業間の連携不足や重複の発生
- 本来淘汰されるべき事業の延命による全体収益性の悪化
事業ポートフォリオを実務で活かす方法 - 成功への実践アプローチ
事業ポートフォリオを効果的に活用するためには、理論的な理解だけでなく、実践的なアプローチが重要です。
①リスク分散の正しい考え方
資産運用では分散投資が基本とされますが、事業ポートフォリオにおけるリスク分散は、金融資産の分散投資ほど単純ではありません。
食品メーカーが外食店舗も運営する例を考えてみましょう。景気が良い時は外食需要が増え、景気が悪い時は家庭での調理が増えるため、どちらに転んでもある程度安定した売上が期待できるという考え方です。
しかし、株主の視点から見ると、ポートフォリオの組み替えは株式レベルで行う方がはるかに効率的です。企業が事業ポートフォリオを再構築するには多大な労力と時間がかかるため、必要以上の多角化は株主にとって歓迎されない場合もあります。
②成功のための実践的なポイント
事業ポートフォリオを成功させるためには、コングロマリット・ディスカウントの落とし穴を避けることが重要です。すべての落とし穴を完全に回避するのは困難ですが、6つの主要な課題のうち3つ以上に該当していないかを定期的に確認し、該当する場合は勇気を持って事業ポートフォリオの再構築を検討すべきです。
また、リスク分散の意義は理解しつつも、「リスク=悪、ゆえに多角化」という単純な思い込みは避ける必要があります。コマツの例のように、事業多角化よりもグローバル展開による地理的市場分散でリスクを低減する方法もあります。
重要なのは、自社がどこまでリスクを取るべきか、リスク分散の方法として多角化が最適なのかを慎重に検討し、最初からリスク分散ありきの多角化にならないよう注意することです。




















