パネリスト:
西川 隆博氏 株式会社ル・スティル 代表取締役
高島 宏平氏 オイシックス株式会社 代表取締役社長
志村 なるみ氏 株式会社ABC Cooking Studio 代表取締役
ファシリテーター:
鷲巣 大輔氏 株式会社カラーズ 取締役兼最高財務責任者(CFO)
西川 隆博氏 株式会社ル・スティル 代表取締役
高島 宏平氏 オイシックス株式会社 代表取締役社長
志村 なるみ氏 株式会社ABC Cooking Studio 代表取締役
ファシリテーター:
鷲巣 大輔氏 株式会社カラーズ 取締役兼最高財務責任者(CFO)
作り手が安全とおいしさを追求できる業界構造を求めて
西川:こんにちは。私は兵庫県加古川市のパン屋の3代目です。(パンや洋菓子の製造・販売を手がけるニシカワ食品の子会社として)2003年にル・スティルを設立。フランスから小麦粉を買ってきて、東京・渋谷と丸の内にパンの店(VIRON)を開いています。
「食」というテーマについて、いろいろ思うところはありますが、どれほど一所懸命に作った食べ物も安値で売らざるを得ない業界構造が、最大の問題点と考えています。ル・スティルを設立して、「日本一高いパンを作ろう」とした背景は、そこにあります。詳しくはおってお話ししていかれればと思いますが、「食」と「コスト」が私のライフワークです。
高島:有機栽培の野菜などの安全な食品を取り扱う、オイシックスという会社を経営しています。小さなお子さんをかかえる30歳代の家庭がインターネット通販を利用されるのに対し、ネットに慣れない方もいらっしゃいますので、そうした(例えば高齢の)方には牛乳宅配店のルートを通じて、商品を届けています。
私自身は以前、マッキンゼー・アンド・カンパニーで主にB to C企業のコンサルテーションを担当していたのですが、その際、日本の食流通のバリューチェーンの長さを痛感しました。日本では(流通構造が深く)、生産者と消費者の距離が離れすぎているために、双方が正しく理解し合えていない側面があると思っています。だから、テレビの情報番組などで「納豆がカラダに良い」というと、(消費者が、そうした情報にすがって)店頭から納豆が一気に消えたりするのです。人によって、カラダに良い食べ方というのは異なります。だから本来、食流通は1対1のやりとりであることが理想と思う。オイシックスは、この理想に向かい「食のコンシェルジュ」のような存在を目指しています。
それから、安心して食べられるものに、徹底してこだわりたい。買い物をしながら、「これは安全かな」と考えなければいけないのは、不便ですよね。そんなことを考え、日々、いろいろと悩んだりもしながら仕事を進めています。
志村:ABC Cooking Studioという料理教室を全国92カ所に展開しています。今年、ついにお客様の在籍数が20万人を超える見込みです。
私は実は、会社勤めの経験はなく、1987年に3名でABC Cooking Studioを起業して以来、ヒト・モノ・カネ・情報のうちカネ以外の大半を、自社で見てきました。起業当時は、専門性の高い料理教室しか世の中に存在せず、ゼロから料理を学びたい人には(そういった料理教室は)敷居が高すぎた。それで、初心者を対象にした教室を作りたいと考えました。世の中に存在しないものを探し、実現するのが自分の役割であると思っています。
皆さん、それぞれに食に携わる新しいビジネスを興されたわけですが、なぜ「食」だったのですか。そこに情熱を持たれた背景から、まずは教えてください。
西川:私たちは小麦粉からパンを作ってお客様に届けるのですが、小麦というのは事実上、国の管理貿易が続いており、それを製粉会社が粉にしたものを、私たちメーカーが使っています。端的に言えば、どこの国のどういう小麦を使った粉であるかということが、正確に把握できない構造となっているのです。
また、流通業者さんが「食パン1斤でこのくらいの値段」という販売価格の目安を示し、メーカーはその範囲内に収まるよう、逆算して原料などを決めていくため、安全・安心や、おいしさを、メーカー側で徹底追求することが難しいという側面もあります。日本では、公正取引委員会が(不正を食い止める機能として)置かれ、最低限のこと以外は「市場の判断に委ねなさい」ということになっていますが、そこで市場が追求するのが「安さ」のみであると、究極的には北海道のあの精肉業者のようなことになっていきます。彼らを擁護するつもりはありませんが、メーカーがそれだけ追い詰められているということは申し上げたいと思います。
私が「日本一高いパン屋を作る」と宣言して、VIRONを立ち上げたのには、この悪循環を何とか断ち切りたかったからです。日本一高いパンを売るためには、当たり前のことですが、それがおいしいものでなければお客様には受け入れてはいただけない。そこで、フランスから自分たちで選び抜いた小麦粉を直接輸入して使うことにしました。今後は牛乳も、放牧で健康に育った、生産者の顔が見えるものに切り換えていく計画です。
幸いお客様の支持を得られてVIRONは何とか利益を創出しており、よりおいしく、より安全なものを、適正な価格で販売するという一つの事例を作れたと思っています。
原料の安全性という話が出ましたが、トレーサビリティ(生産履歴の追跡)を担保しようとすると、商品の販売価格は高くならざるを得ないのでしょうか。
高島:それは、とても難しい質問です。「おいしいものを手に入れようと思ったら、コストがかかる」というのが、普通の発想だとは思うのですが、そもそも農協の仕組みがそのようにはなっていないという点から議論しなければなりません。例えばトマトの価格というのは、重さで決まります。味が良くても、悪くても、買い取り価格が同じであれば、生産者が「たくさん作ること」に注力するのは、ある意味、当然です。肥料を山ほどやって、効率よく育てる。結果として、重量はあるけれど、味の薄い野菜が流通することになります。これまでの仕組みは、極めて社会主義的なのです。まずは、こうした画一的な価格設定のされ方から変えていかなければならない。ですから、オイシックスでは生産者と直接、取引をして、「おいしい」ことに対して付加価値をつける挑戦をしています。
価格や味、安全性など、買い手のニーズに応じてさまざまな流通形態や価格があって良いということですね。では買い手となる消費者の意識というのは、変化しているのでしょうか。
志村:直近の10年間で、大きく変化したと思います。飛躍という表現を用いたほうがいいかもしれません。
ABC Cooking Studioの中心的な顧客はF1層(集計区分の俗称で20〜34歳の女性のこと)ですよね。
志村:そのとおりです。その中でも、経済的にも精神的にも、やや豊かなOLさんが多いですね。かつては料理教室というと花嫁修業に来られる方が多かったのですが、今はそういう方はあまりおらず、「自分探し」というか、何か熱中できるものを見つけたいと思って来られる方が目立ちます。
私から見て、お客様(消費者)の意識の変化は、供給側のそれよりもずっと速く、大きいです。だから常に、お客様の変化と我々の商品開発のスピードの競争です。というより、正直、私たちのほうが負けている感じです。特にパンやケーキについては、パンと言えば柔らかいコッペパン、ケーキと言えばバタークリームのショートケーキぐらいしか知らなかった日本人が、わすか数十年の間に物凄いバリエーションを手にしたわけです。(教室で教える)メニューの開発や食材の調達には、それなりの工数がかかりますから、お客様の嗜好の変化についていくのは大変です。




