2008年11月18日

経営いろは #06

アンゾフのマトリクスと成長戦略

アンゾフの事業拡大マトリクス

経営戦略を検討する著名なフレームワークの一つに「アンゾフの事業拡大マトリクス」(図1)があります。これは、縦軸に「市場」、横軸に「製品」を取り、それぞれ「既存」、「新規」の2区分を設け、4象限のマトリクスとしたものです。この4象限から企業の成長戦略オプションを数多く抽出しようとするもので、経営学者のH.I.アンゾフが提唱しました。

図1 アンゾフの事業拡大マトリクス

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具体的には、例えば第1象限「市場浸透」では、既存の商品を使って既存の市場で成長しようと考えた場合、企業は同一顧客の購入頻度を高めるとか、販売ボリュームを増やすとかの工夫が必要になります。かつてコカ・コーラのキャンペーンが、「喉の乾きにコカ・コーラ」(喉が渇いた時に飲む)→「いつでもどこでもコカ・コーラ」(喉が渇いたときだけでなくリフレッシュのために飲む)→「No Reasonコカ・コーラ」(理由もなく飲む)と展開していったのは、既存市場で既存使用品をいかに多頻度で飲ませようとしていたかの顕著な例と言えるでしょう。また応用として、第1象限の中をさらに、新しい用途を考える軸と新しいアクセスポイント(顧客との接点)を作るという2軸で細分化するとさらに発想の幅が広がります。

第2象限「新製品開発」は既存市場に新商品を次々と出して成長していくという考え方です。次々に新しい商品を出していくビールやインスタントラーメンといった事業のケースは、この象限にあてはまるでしょう。これも応用として、第2象限の中をさらに、新しい素材を使う軸と、新しい製法・技術を使う軸の2つを使ってマトリクスを作るとさらに発想の幅が広がると思います。

第3象限「新市場開拓」は既存の商品を新市場に出して成長していく考え方です。“新市場”には2種類の考え方があります。1つは、地理的に新しい市場という考え方、もう1つは、地理的には同じであっても対象とする顧客セグメントを広げるという考え方です。前者の例としては、自動車や家電のメーカーが、国外にディーラー網を広げ、販売エリアを世界に広げるパターンなどが、イメージしやすいでしょう。後者の例としては、男性用の衣服や香水などをユニセックスの商品として女性にも販売するようなケースが挙げられます。これも応用として、第3象限の中をさらに、地理的近さという軸と商慣習的近さという軸の2つを使ってマトリックスを作ってみるとさらに発想の幅が広がると思います。

第4象限は新市場に新商品を出していく考え方で、これは「狭義の多角化」と言われます。市場にも製品にも取っ掛かりがないため、非常にリスクの高い成長オプションです。しかし、ベンチャーの殆どは、経営そのものが、この第4象限に属しているわけで、大企業であっても不可能というわけではありません。ただ、ベンチャー企業様、リスクが高いというだけです。

このマトリクスの使用にあたり重要なことは、まず、自社の強みなり、ビジネスモデルの付加価値なりをきちんと把握することです。そして、その強みや付加価値を利用しながら、成長できるオプションを抽出することになります。それによってオプションの幅や数は随分、違ってくると思います。

バリューチェーンによる戦略オプション抽出

企業の成長戦略を検討し得るフレームワークは、アンゾフの事業拡大マトリクスのみでしょうか。アンゾフのマトリクスはあくまで多角化の一環として成長戦略を考えていくフレームワークであり、これだけでビジネスモデルの変更を伴うオプション抽出にも使えるかというと、そこまで網羅的ではありません。ビジネスモデルを変更するような戦略オプションを考えるには、別なフレームワークを使ったり、作ったりする必要があるでしょう。

一例として、バリューチェーン(ビジネスシステム)を使った戦略オプションの考え方をご紹介します(図2)。

バリューチェーンは自社の機能を例えば、R&D、調達、物流、製造、販売、マーケティング、サービスなどの機能に分化し、自社の付加価値の源泉を考えるツールです。それだけでなく、自社の川下・川上を通じて、機能で細分化し、どこで付加価値を生んでいるかを考えるツールでもあります。

例えば、パナソニックはかつて、その製造の強さをさらに活かすべく、成長オプションとして、特約店「ナショナルショップ(後のパナソニックショップ)」を全国展開しました。強力な量販店のなかった時代には、こうした家電販売店の数が企業の成長を支えたわけです。ガソリンスタンドもそうです。コスモ石油などの石油卸業者は、ガソリンスタンドの数を増やすことで、顧客とのアクセスポイントを増やし成長してきました。しかし、時が変わり、家電も量販店での販売が主流になり、ガソリンスタンドは飽和しました。今後、成長するためには、こうした足かせをきれいに取り払うことが重要になります。

つまり今度は、川上や川下に自社の機能を伸ばしたり、縮めたりすることで成長を考えるわけです。また、規模の経済を追求するために横(業界内への統廃合・M&A・事業提携)方向への拡大も考えられます。石油卸業界は、あまったキャパシティーを統廃合し、また競争相手を減らす意味からも盛んにM&Aや事業提携を繰り返しています。

図2 バリューチェーンの拡縮

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ところで、アンゾフのマトリックスとバリューチェーンによる戦略オプションの抽出の違いは何でしょうか。アンゾフのマトリックスが市場・製品という外へ向かう軸であったのに対し、バリューチェーンは企業内部の機能を伸ばしたり、縮めたりすることで成長を考える内へ向かう軸であると言えます。

なお、ここで紹介したフレームワークはあくまで「もれなく、だぶりなく」、幅広くオプションを抽出するために目線を広げる道具でしかありませんし、もちろん、それでおしまいでもありません。経営戦略という意味では、抽出したオプションを評価し、プランを絞るという作業が別途必要になるのはいうまでもありません。さて、二つの成長戦略オプション抽出のフレームワークを考えましたが、使い慣れるために、身近な例で議論してみてはどうでしょう。

次回は、マーケティングのフレームワークを紹介します。

(本稿は、グロービス・オーガニゼーション・ラーニングが発行するメールマガジン「グロービスNews」の2003年6月24日号に掲載されたものを、加筆修正のうえ再掲したものです)。