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「リサーチ会社は目指しません」—ジャストシステムの場合

投稿日:2012/03/09更新日:2019/04/09

「誰でも手軽にネットリサーチ」を目指す

「ファストアスクを開発した我々の狙いはズバリ、“ネット調査のしくみのコモデティー化”です」。インタビュー冒頭から核心を責任者は語り出した。

同社は一太郎をはじめとするパッケージソフトを多数発売している“モノ作り”の会社である。その業務の中で様々な必要が生じ、自身がネットリサーチ各社に調査を依頼してきた。その結果、「ネットリサーチは意外と便利ではない」という思いが高まっていったのだと言う。

ネットリサーチの業務フローは、調査設計→モニターのスクリーニング調査(本調査回答者の抽出)→本調査→集計→分析となる。一連の流れの中で感じた不満は、「確かに調査そのものは短時間で回答が得られるが、その他の部分で調査会社の担当者など“人”が介在する部分が多く、面倒なやりとりと時間がかかってしまう」ということだったという。

「それならばいっそ、自分たちで“しくみ”を作ってしまい、セルフサービスで行えるようにすればいいのではないかと考えた」。

これは、流行りの“クラウドサービス”とも言い換えられるだろう。調査票の設計は画面上でユーザーが自分自身で行える。モニターの抽出ももちろんできる。回答結果は自動的に集計される。分析レポートの作成は請け負わない。徹底した“しくみ化”を図っているのである。
人手を介する部分は唯一、調査票配信前のチェックのみ。調査票の質問の設計や表現に問題がある場合はクライアントに指摘する。人が関わるプロセスを簡略化しているからこそ、その部分は精緻に行うというポリシーだ。

「我々はネットリサーチ会社を目指していないのです」。

アンケートモニターを抱えているため、先行各社と同様なサービスに見えてしまうが、そのモニターも一部は大手ネットリサーチ会社とのアライアンスによって借り受けているという。もちろん独自に自社のパッケージソフトのユーザーやECショップユーザーに募集をかけ、独自のモニターも作っている。しかし、売り物はあくまで抱えている“モニター”ではなく“しくみ”なのである。

「もちろん、参入を検討しているときには、数百万人に上る自社の登録ユーザーをベースに考えたこともありました」と正直なところを明かしてくれたが、それはあまりに属性が偏りすぎているし、個人情報の観点からもモニター化は簡単にできない。故に、自社独自モニターは自社ユーザーだけでなく、大手先行各社のやり方を徹底して研究し、属性の偏りにも気を配って広く募集を展開したという。

ネットリサーチ会社と同等のモニターを保有しつつ、それに対するリサーチをセルフサービスで行える“しくみ”を提供する。それが、ジャストシステムが見出した独自のポジションなのである。

自動化された“しくみ”が売り物であるため、「ファストアスク」の利用価格は驚くほど安い。また、人が介在する部分を最小化しているため、例え極めて少ないサンプル数での実施でも、同社にとって「割が合わない」ということには陥らない。故に、「今まで年に数回しか実施できていなかった調査が頻繁に行えるようになった」というクライアントの声や、調査をしたくてもできなかった潜在的なユーザーが利用するようになっているという。

その戦いの土俵は本当に正しい?

責任者は「将来的にはさらなる“しくみ化”を図っていきたい」と構想を語る。ジャストシステムの最大の強みは、30年にわたる一太郎で培ってきた日本語処理技術だ。それを元にしたフリーアンサーからのテキストマイニングや、調査票の設計を文章構造から自動的に生成するしくみ、さらには配信前のチェック時に日本語校正技術を活かしてさらなる自動化を進める、といった拡充が考えられるという。

米ハーバード大学ビジネススクールの名誉教授だったセオドア・レビットはかつて、自動車や航空機の普及により衰退の一途をたどった米国の鉄道会社に対し、その理由を「鉄道会社は自社の事業を鉄道事業として捉えており、輸送事業として考えることができなかったからだ」と指摘した。

これに対して日本の近代私鉄のビジネスモデルは、阪急電鉄の創始者・小林一三氏が開発した「沿線開発モデル」だ。沿線で住宅開発を行い、ターミナルには集客の拠点として百貨店を設置。さらに鉄道を使って出かける場所として、歌劇場、野球スタジアム、温泉や動物園などを次々と創りあげていった。これにより鉄道の乗客を創造したのだ。

「鉄道会社」に終始した米国の鉄道会社と、「沿線開発」というより広い事業範囲を設定した日本の私鉄。自社の“戦いの土俵”=ドメインをどのように設定するかで戦い方や競合は大きく変わる。

最後発でネットリサーチ業界に参入しようとする場合、よりクライアントに対するサービスレベルを上げようと「フルサービス」、つまり調査設計からレポートの作成までを人手をかけてさらに提供品質を上げようと考えがちとなる。しかし、ジャストシステムは、「ネットリサーチのしくみの提供」という、新たな戦いのドメインを自ら設定することによって無用な競合を回避することに成功しているのである。

新たなドメイン=新天地を切り拓いたジャストシステムと「ファストアスク」。そのサービスが今後どのように進化していくのかが楽しみである。

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