議論をさばく(5)さばきの基本動作(4)発言を理解し共有する(3) 

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前回は参加者の発言の何を聴くのかについて、「何のために(目的)」「何について(論点)」「何を(意見・主張・結論と根拠・理由)」という視点をご紹介しました。今回は特に、「何を」に関して、より深く理解するためにどうすればよいかを考えたいと思います。

深い理解が生み出す信頼感

人はなかなかうまく話せないものです。頭の中に言いたいことがあっても上手くまとめられない、思っていることを適切に表現できない、人それぞれの立場や専門性、経験の違いから生じる情報量、知識、前提の差を越えられないなど、コミュニケーションに纏わる悩みは尽きません。

ましてや議論の場など、その場の流れに応じて意見を述べる必要があるときには、その難易度は格段に高まります。こうした状況の中で、自分の話をとてもよく理解してくれる、自分が言いたかったことをより的確に掴み、よりわかりやすく表現し直してくれるような人がいたらどうでしょうか?おそらくその人に対して共感と深い信頼を寄せるのではないでしょうか。ファシリテーターの役割、技能の中で、「話を聴き、理解する力」が極めて重要である理由はここにあります。

ファシリテーターが目指すべき「聴く力」は、話し手が実際に話していること以上のことを読み取り、深く理解する力です。それがあるからこそ、それぞれの参加者の頭の中にあるものを議論の場で十二分に活かす手助けができるのです。では、「話を深く理解する力」
とは具体的に何なのでしょうか?そしてどのように訓練していけばよいのでしょうか?

「論理の三角形」を意識して深く聴く

人の話を正しく、深く理解するために役立つのが「論理の三角形」です。「三角形」とは頂点の「主張」を「根拠」が支える構造のことです。これは「ピラミッド・ストラクチャー」としても知られており、もともとは自分の言いたいことを判りやすく構造化し考えるための道具として広く使われています。ここではこの構造を人の話を理解するために使います。

「論理の三角形」は、一番上に最終的な結論、そしてその下に結論を直接支える根拠、そしてそれぞれの根拠を更にその下の情報等が支えるという形でピラミッド型になります。
主張と根拠の間は、下から上にSo what?(だから何?)、上から下にはWhy?/True?(なぜそう言えるのか?/本当にそう言えるのか?)という関係で結びつきます。この結びつきは、主に演繹的な論理展開(ある前提があり、そこに事象を当てはめて結論を導く)、もしくは帰納的な論理展開(いくつかの事象から共通して言えることを抽出して結論を導く)によって作られます。

たとえば、近年アメリカで普及しているある飲食サービスを日本に導入する検討をしているとしましょう。ここで、「このサービスはアメリカでは急速に受け入れられ、普及し成功を収めている」という情報があるとします。ここから「この飲食サービスは日本でも成功するだろう」という結論を導く場合、演繹的、帰納的それぞれに論理展開を行うことができます。演繹であれば、この情報を結論と結び付けるための前提が必要です。たとえば、「アメリカと日本の消費者の嗜好は似ている」といった前提が考えられます。

一方、帰納法であれば、たとえば、「このサービスはアメリカで成功した」に加えて、「このサービスはドイツでも成功した」「このサービスはスイスでも成功した」といった情報を追加します。そして、これらの国の共通点である「先進国かつ平均所得が高い国」といった共通項が、日本にも適用可能であるということで、「このサービスは日本でも成功するだろう」といった結論を導きます。(ここでは演繹・帰納の例として単純化して示しています。実際にはこれだけの事象から結論を導くわけではありません)

さて、この「論理の三角形」を意識して人の話を聴くとはどのようなことなのでしょうか?人は実際には完璧な三角形をつくって話をすることは稀で、様々な部分を省略、欠落したまま話をします。特に、演繹的な論理展開における前提、もしくは帰納的な論理展開における「共通項」は省略されるのが普通です。特に話をする本人が、それを当たり前だと思っている場合には話されることはなく、本人もその前提や共通項をはっきり意識していない場合も多いものです。このため、この前提や共通項が話し手と聞き手で共有されていない場合、情報と結論を聴いても、「なぜそう言えるのか?」が理解できません。

「論理の三角形を意識して話を聴く」とは、論理の三角形のいろいろな部分が欠落した状態で話される相手の話を、「主張と根拠」の構造の中に置いてみて整理する(この段階では三角形は完成しておらず、特に前提や共通項などは欠落している状態)。そのうえで欠落している部分は何か?話し手が説明していない部分には本来何があるべきか?を考えながら話を聴き、相手の論理展開を推定しようとすることと言えます。

たとえば先ほどの例では、「このサービスはアメリカで成功したから日本でも成功するだろう」といった発言に対し、主張は「このサービスは日本でも成功する」、情報は「このサービスはアメリカで成功した」だとすると、これらを結び付ける上での前提が語られていません。そこで、この情報を根拠として主張を成り立たせるためには、本来どのような前提があり得るのか?を考えます。そうすると、「アメリカと日本の消費者の嗜好は似ている」という前提が必要であり、発言者はおそらくこうした前提を持って話しているのだろうと推測します。

まず、「相手の論理を完成させる」ことを考える

この話の聴き方において大事なのは、まずは「相手は論理的に正しい主張をしようとしているはず」という想いを持って話を理解しようとすることです。実際にはその発言は誤った前提や誤った論理展開によってなされているかもしれませんが、まずは「相手の主張と論理展開が正しいとすれば、本来どのような前提が必要だろうか?」と考える。これにより、たとえ一見自分の考えとは異なる意見であっても、なぜ相手がそう考えているのかを自分自身に考えさせ、相手の話をよりよく理解しようと仕向けることに意義があります。

更に、本来あるべき論理の姿をイメージするからこそ、それとの比較で、相手の話は論理的にどこが欠けているのか?もし誤りがあるとすればどのような誤りなのか?を見つけやすくなります。こうした形で相手の話を深く聴き、必要に応じて欠落点を確認する。そのうえで、更に明確にすべき点や考えるべき点を抽出することができます。

たとえば、先ほどの例では、「【前提】アメリカと日本の消費者の嗜好は似ている」→「【事実】このサービスはアメリカで成功した」→「【結論】このサービスは日本でも成功するだろう」といった論理展開に対して、「○さんのご意見は、『アメリカと日本の消費者の嗜好は似ている』から成功するだろうということでよろしいでしょうか?」と問いかけたり、「では、嗜好が似ているというのは大事なポイントですが、それだけで成功するとまで言えるでしょうか?たとえば飲食店の形態や競合サービスの状況などが異なれば、たとえ消費者の嗜好が同じでも成功できるとは限りません」といった形で、より正しい結論を導くための問いかけを行うといったことができます。

なぜこのような話の聴き方が大事なのでしょうか?人はそれぞれ異なる前提を持っていたり、接している情報が異なります。このため同じ情報に接しても、前提が異なれば異なる結論に至る、もしくは同じ前提で考えていても、見ている情報が異なれば異なる結論を導きます。しかし我々はそれに気づかず、人の言っていることがおかしい、理解できない、と直感的に感じてしまいます。そして自分の考えが正しいと思っていればいるほど、相手がなぜそのように考えるのか?を考える努力をさぼりがちになります。そのまま単に異なる意見をぶつけ合っていても生産的な議論にはなりません。意見が異なるのは何が異なるのか?相手の言っていることが理解できないのはなぜなのか?それでは合意を形成するために何を確認し、論理のどの部分について合意することが必要なのか、こうした点を具体的にし、そこを互いに確認しながら議論することによって、より生産的な議論をすることが可能になります。

ファシリテーターがこのような話の聴き方を身につけることで、議論の場において様々なことができるようになります。たとえば対立する二つの意見は、どこがどのように食い違っているので対立しているのかを明らかにし、論点を整理する。そして、ではどこを合意すれば良いのかを提示し、そこについて議論することを促す、などです。これこそまさにファシリテーターが果たすべき重要な役割と言えるでしょう。こうしたことができるようになるためにも、ファシリテーターはより深く、正しく人の話をする力を鍛えることが不可欠なのです。

次回はこの話の聴き方をもう少し具体的に紐解いてみたいと思います。

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