ソフト・パワー(文化力・教育力・観光力等) 

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初稿執筆日:2011年10月31日
第二稿執筆日:2015年5月12日

「ソフト・パワー」とは、「国家が軍事力や経済力等によらず、その国の文化や価値観に対する理解、共感、支持を得ることにより、他国を無理やり従わせるのではなく、むしろ味方につけて、国際社会からの信頼や発言力を獲得する力」のことである。

「ソフト・パワー」の概念を提唱したのは、米国のクリントン政権において、国家安全保障会議(NSC)議長や国防次官補などを歴任した、ハーバード大学大学院ケネディスクール教授のジョセフ・ナイ氏である。

ソフト・パワーは、(1)文化、(2)政治的な価値観、(3)外交政策という3つの基本的な要素で構成されている。

今日の国際社会において、軍事力や経済力等のハードパワーは引き続き重要な役割を果たすものの、軍事力を行使するような機会が減っていることもあり、相対的な重みは低下しつつある。一方で、高度情報化社会の到来、民主化の進展、NGO等の政府以外のプレイヤーの拡大等により、各国政府が相手の政府に働きかけるハードパワーに加えて、民衆に直接訴えかけ、文化的に魅了し、趣向や意識を変えるソフト・パワーを重視するようになりつつある。

本稿では、上述のソフト・パワーの3つの基本源泉のうち、特に重要である「文化」に焦点を当てる。最も重要なことは相手の国民が自国の文化に魅力を感じている状態を作り出していくということだ。

1.クール・ジャパンの推進を!(文化力)【一歩前進】

クール・ジャパンは、ゲーム・マンガ・アニメなどのコンテンツ、ファッション、日本食、デザイン、ロボット・環境技術などのハイテク製品にまで範囲 が広がっている。これらのクール・ジャパン効果により、日本に対する関心は、経済的な重要度の低下にもかかわらず、低下していない。このクール・ジャパンが、今後の日本にとってとても重要な役割を果たす。なお、本件の詳細は、日本のビジョン「100の行動」: 13. Cool Japanの推進を 【経産7】 に記載しているので、本項では割愛する。

http://globis.jp/column/3402/

2.「和」の発信と普及を!(文化力)

日本の文化資源には、クール・ジャパンだけではなく、伝統芸能(茶道、華道、歌舞伎など)、老舗工芸品(漆器・磁陶器など)、着物文化、さらには日本の伝統的価値観や作法など、有形・無形の日本古来の伝統文化が多く存在している。これらの日本が誇るべき文化資産を積極的に再評価し、海外に発信し、ファンを増やすことが求められる。

そのためには、まず我々日本人一人ひとりが、文化を発信できる「外交官」となるべく、「和」に接し、勉強し、理解する努力が必要だ。

このため、日本の伝統文化や伝統的価値観の紹介を、大学の教育プログラムに授業として組み込むことや、課外活動に導入することも取り入れられるべきだ。グロービス経営大学院では、武士道精神、さらには日本で進化した陽明学をクラスに取り入れている。

また、歌舞伎や能、狂言、茶道、華道、武道といった日本の伝統文化を、外国人により深く理解してもらうために、多言語に翻訳し、映像による解説を充実させ、ネットで配信するなど、様々な発信を実施すべきであろう。さらに、スーパー歌舞伎のように、現代の観客に合った形で伝統芸能を進化させるなどの試みも重要だ。

さらに、政府・在外公館での公式行事ならびに民間の主要イベント等の国際交流の場面において、日本の伝統文化を積極的に紹介することが極めて重要になる。

2015年のダボス会議では、世界経済フォーラム会長のクラウス・シュワブ氏と下村博文文部科学大臣との間で、リオ五輪の直後、2016年秋に日本で「スポーツ・文化ダボス会議」を開催することが決められた。

文化とスポーツに焦点を当て、東京だけの開催ではなく、京都や大阪でも開くことが検討されている。文化芸術の担い手、アスリート、学者、政治家、ビジネスのリーダー約2000人を世界中から日本に集め、日本の素晴らしい伝統、文化に直接触れてもらい、文化芸術立国として世界中の人たちが日本に訪れるようなアイデアと企画を活発に議論するのだ。

そして2020年には東京五輪が開催される。そういったあらゆる機会を通じて、日本の良き文化、伝統行事を維持、継承、発信していこうではないか。

3.「留学生30万人計画」の推進を!(教育力)

日本への外国人留学生は、母国における親日派知識層を形成し、海外における日本のプレゼンスを向上させる意味において、外交におけるソフト・パワーとして極めて大きな意味を持つ。 政府は、「留学生30万人計画」として、2020年を目途に30万人の留学生受入れを目指しているが、国家戦略として大いに進めるべきであろう。

しかし、残念ながら東日本大震災の影響もあって、日本の外国人留学生の受入数は減少し、直近の4年間は連続して減少傾向となり、留学生数は13.6万人となっている。

このため、以下に述べるような、日本の大学の徹底した国際化、外国人留学生の日本社会での積極的な受け入れなどを行うことが求められる。

(1)留学生にとって魅力ある大学づくりを!

原則英語のみで学位取得が可能となるコースを大幅に増加させることが求められる。また、交換留学、単位互換、ダブルディグリーなど国際的な大学間の共同・ 連携や短期留学、サマースクールなどの交流促進などにより、日本の大学の魅力度向上を図ることも重要である。さらに、専門科目の外国人教員による教育研究水準の向上や、9月入学なども検討すべきである。グロービス経営大学院では、英語での全日制のMBA課程をスタートさせ、現在17カ国、31人の優秀な若者たちが学んでいる。日本への留学生増の一助となれば幸いである。

(2)留学卒業生の日本社会での受入れを!

留学生が日本社会に定着し活躍するためには、インターンシップや採用等の企業側の意識改革と受入れ体制の整備、在留資格の明確化や取扱いの弾力化、就職活動のための在留期間の延長の検討など、産学官が連携した就職支援策が求められる。一方で、帰国留学生については、同窓会活動の支援などで、フォローアップの充実を図り、日本の理解者・支援者として自国で活躍してもらうことが重要である。

4.日本語・文化・教育産業の世界への展開と普及を(教育力)

世界では、自国の言語や文化を世界へ展開しようという「文化・言語競争」(孔子学院、British Councilなど)とも言える競争が展開されている。

例えば中国では、中国文化や中国語を広めるために孔子学院を設立している。孔子学院は、中国が海外の大学などの教育機関と提携して中国語や中国文化の教育、宣伝、中国との友好関係醸成を目的に設立した公的機関だ。

この孔子学院は欧米では「中国国家の手足として機能しており『学問の自由』が無視されている」との批判を受けている。日本の場合はもっと健全に、日本語や日本文化、日本の教育産業を世界に広める戦略的な取り組みが必要だ。

(1)クール・ジャパンとの連携を!

グロービスで働く日本語堪能なイタリア人女性がいる。彼女が最初に日本に興味を持ったきっかけを聞くと、実は日本のアニメだったという。ベネチアに住んでいた彼女が、日本のアニメを見なければ日本に興味を持つことは決してなかっただろう。その後、彼女は日本語を学び、東大に留学し、日本で就職したのだ。

日本文化や日本語に興味を持ったことがきっかけで日本について学び、親日派になっていく外国人は多い。このため、既述のクール・ジャパンや「和」の発信を強く世界に広める政策が日本語、文化、教育の世界への展開と普及の基礎として極めて重要となる。

(2)日本語教育への戦略的投資を!

1)親しみやすい教材を!

クール・ジャパンにより日本語に興味を持った層を積極的に取り込むために、民間メディアなどが有するマンガやアニメのコンテンツを活用した魅力ある教材を制作したり、テレビによる国際放送で日本語・英語二重音声の番組や、英語による日本語講座を放送したりすることが求められる。「ポケモンで学ぶ日本語」教材等があれば、学習へのハードルを下げることにつながり、さらに日本語を学ぶ人が増えるであろう。

2)シニア・ボランティアの活用を!

海外の教育現場に、日本語教育を担う人材を派遣することで、草の根レベルでの教育機会を提供することが求められる。その際には、青年海外協力隊やJETプログラムなどの成功事例を参考にするとともに、新たな日本語教育の担い手として、シニア・ボランティアのさらなる活用も検討すべきである。

3)わかりやすい日本語試験を!

国際交流基金や日本貿易振興機構など各種日本語試験を実施してきた関係機関は、文部科学省と協力連携の上で、国際的な日本語能力の指標となり、留学・就職などに役立つ試験となるように改善すべきであろう。特に、TOEICやTOEFLのように成績を得点表示することや、年複数回実施することにより、受験者の利便性を向上させることが求められる。

(3)日本の教育産業のもつメソッドの世界への展開と普及を(教育力)

公文式教室(日本公文教育研究会)は、1974年に米国・ニューヨークで算数教室を開設して以来、独自の教育方法が諸外国から高く評価されており、現在では世界45の国と地域で約440万人(日本では148万人)の子供達が学習している。

また、スズキ・メソード(Suzuki method)は、音楽を通じて心豊かな人間を育てることを目的とする教育法の一つであり、才能教育研究会よって諸外国で教育活動が展開されている。現在では世界46カ国で約40万人の子供達が学習をしている。

さらに、日本郵船がフィリピンで商船大学をつくり、現地の人たちに教育機会を提供するとともに採用している。企業としての優秀な海外人材確保のための長期戦略ではあるが、教育産業だけでなく、一般企業でもグローバルに教育の機会を提供しているケースとして紹介する。

このように日本には世界に十分通用する、誇るべき教育機関が存在する。特にこれらの教育機関や手法は、次世代を担う子供達や職業人を対象にしていることから、若年時より日本への理解に大いに寄与することが期待される。

今後は、日本国内の様々な教育機関が各分野で、グローバルに展開することを期待したい。また、そのような挑戦に対して、官民学がオールジャパンで協力連携することを期待したい。

5.訪日外国人を増やすために総力をあげよ!(観光力)

「ビジット・ジャパン・キャンペーン」は、訪日外国人旅行者数を将来的に3000万人にする目標を掲げ、まず第1期として、2013年までに1500万人の目標達成を目指してきた。2014年では1341万人に留まっている。

日本にとっての最大の観光資源は、日本人によるホスピタリティ文化である。今後は、観光産業についての産学官連携による高等教育の充実や、観光マネジメントの強化など人的資源の充実が求められる。

エコ・ツーリズム、グリーン・ツーリズム、その他自然観光(温泉など)、文化観光、産業観光、医療観光、スポーツ観光(スキーなど)など、様々な観光資源が日本には存在する。数多くの外国人を魅了することができよう。インバウンド観光客の増は滞留人口の増加という経済成長へのプラス効果も期待できる。

特に、低コスト航空会社(LCC)、オープンスカイ、空港民営化の三本柱とあいまっての地方活性化へのメリットは大きい。なお、観光に関しては、 国土交通省の「行動」で詳述することとしたいので、ここでは割愛する。

「観光立国で日本の魅力を高め、訪日外国人3000万人を実現せよ! 100の行動62 国土交通6」参照

今まで見て来たように、日本のソフト・パワーを高める手法は、クール・ジャパンや伝統芸能等の「文化力」。日本の大学、日本語教育、日本の教育機関 のグローバル化による「教育力」。さらには、「観光力」等によって担われている。一番重要なことは、僕ら日本人一人ひとりが「外交官」であるという意識を持ち、僕らの所属する組織が、「日本を好きになってもらう日本代表の機関である」という自覚を持ち、政府はあくまでも、旗を振りその応援をする役割であるという主体的意識を国民や企業が持つことであろう。

筆者は、高校二年を修了した時に豪州に1年間留学をした。留学生は「日本文化の伝道師」である、という意識を強く持たされた。事実海外に行くと、日本のことをよく聞かれる。日本人として答えられないのは恥ずかしいので、日本のことを多く学んだ。日本のソフト・パワーを高めるためには、政治家に頼るのでなく、僕ら国民一人ひとり努力によって達成できるものと思う。一人ひとりが外国人と接した時に、日本のソフト・パワーが試されるのである。ぜひ一人ひとりが「行動」をしていこうではないか。

 

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