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特別寄稿 アップル「革新的な製品・サービスで革命を起こし続ける」

投稿日:2011/10/07更新日:2019/04/09

アップルのミッション・ステートメント

Apple designs Macs, the best personal computers in the world, along with OS X, iLife, iWork, and professional software. Apple leads the digital music revolution with its iPods and iTunes online store. Apple reinvented the mobile phone with its revolutionary iPhone and App Store, and has recently introduced its magical iPad which is defining the future of mobile media and computing devices.

出所:同社ホームページ

「かくあるべし」のミッション・ステートメントを持たないビジョナリーカンパニー

日本時間の2011年10月6日午前、アップル前CEOスティーブ・ジョブズの訃報が世界を駆け巡り、TwitterやFacebookもその話題で騒然となった。ライバルであったビル・ゲイツや、オバマ大統領からも、その早すぎる死を惜しむ声が発表された。各国のアップルストアで献花をする人の姿も多く見られた。ここまで世界規模でその死を惜しまれた経営者は極めて稀だろう。謹んでご冥福を祈りたい。

さて、意外かもしれないが、実はアップルには他の企業のような「かくあるべし」を指し示すミッション・ステートメントは見当たらない。冒頭に示したもののように、その時々に「アップルはこのようなことをしています(してきました)」といった感じのミッション・ステートメント「らしきもの」は存在するのだが、一般のミッション・ステートメントとは異なり、事務的な感じで、人々の情動に訴えかけるようなレトリックもほとんどなければ、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「クレド」のような、迷った時に判断の拠り所になるといった要素も感じにくい。よく知られる「ThinkDifferent」も、もともと「Macintosh」用の販促コピーであり、社員に向けたステートメントそのものではない。

その一方で、アップルのことをビジョンや経営理念のない会社だと思っている人間はほとんどいないはずだ。むしろ、強い理念を持ったビジョナリーな会社だと思われているのではないだろうか。「アップルは、やはりどの会社とも違ってアップルらしい」、「アップルは常に革新的な製品やサービスを打ち出し、世界を変える」と。

では、そのギャップを埋めるものは何なのか?それこそが、前CEOであったスティーブ・ジョブズ氏の存在そのものであった。

稀代のイノベーター、スティーブ・ジョブズ

スティーブ・ジョブズのカリスマ性、天才についてはすでに多くが語られているが、改めて簡単に略歴を振り返っておこう。

ジョブズは、大学を早々に中退し、ヒッピー風の自由奔放な生活を送った後、アタリ社を経て、友人であったスティーブ・ウォズニアックと自宅のガレージで当時黎明期にあったパソコンを作り始めた。1976年にアップル(当時はアップルコンピュータ)を設立、4年後の80年には「AppleII」の大ヒットもあって株式公開を果たし、25歳にして億万長者となった。84年には独特のGUIを持つ「Macintosh」を発売、センセーションを巻き起こす。

しかしその直後、ペプシコーラからスカウトしたジョン・スカリー社長との間に確執が起こり、85年には「自ら作った会社」から30歳にして追放されてしまう。そして保有していたアップル株式のほぼすべてを売却して会社との縁を切ってしまった。

アップルを去った後、ジョブズは新たなPCメーカーNeXT社を設立。それと並行してルーカスフィルムの経営に携わり、さらに後にはピクサー(ピクサーの経営理念については、本連載バックナンバーを参照)、そしてピクサーを買収したディズニーの役員などを務めるなど、行く先々で成功を収める。

ジョブズがアップルに復帰したのは、96年に非常勤顧問としてである。当初ジョブズは、その頃急激に業績を悪化させていたアップルの買収を狙っていたという。その計画自体は消えたが、曲折を経て2000年、ついにジョブズはアップルのCEOに返り咲く。そこからの快進撃は多くの人がご存じであろう。

最初の頃こそ「iMac」といったPCが中心であり劇的な回復とまでは行かなかったが、エポックとなったのは、外形、インターフェイスの両面で優れたデザインの携帯音楽プレイヤー「iPod」と「iTunesStore」を組み合わせたビジネスの成功である。2001年のことであった。

「iPod」という製品そのものも、自社の強みを活かしたデザイン・ドリブン・イノベーションのお手本とされる傑出した製品だ。それに加えて、レコード会社やアーティストを巻き込んでの革新的なビジネスモデルは、イノベーター、ジョブズの面目躍如たるものであり、多くの人に「ジョブズ・マジック健在」を印象付けた。

そして2007年には「iPhone」、2010年には「iPad」を市場投入する。いずれもセンセーションを巻き起こし、人々の生活様式を変え、競合を追随へと向かわせた。株価も劇的に回復し、再び世界がアップルを仰ぎ見るようになったのだ。

ジョブズの哲学

こうした一連の製品、サービスは、多くの人から「アップルらしい」と評価され、多くの顧客やパートナーを魅了した。続けざまに「らしい」ビジネスが生まれる背景には、それを繋ぐものが必ず存在する。アップルの場合、それは冒頭に書いたようにスティーブ・ジョブズの存在そのものであり、彼の哲学、理念であり、そしてそれを受け入れた従業員の存在である。

では、ジョブズの哲学、理念とは何なのか。1つは、変化や独自性に対する貪欲さや情熱だ。ジョブズは自分の習慣についてこう語っている。「私は毎朝鏡を見て自分にこう問い掛けるのを日課としてきました。『もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日やる予定のことを私は本当にやりたいだろうか?』それに対する答えが“NO”の日が幾日も続くと、そろそろ何かを変える必要があるなと、そう悟るわけです」

また、こうも語っている。「美しい女性を口説こうと思った時、ライバルの男がバラの花を10本贈ったら、君は15本贈るかい??そう思った時点で君の負けだ」

第2は、人間の精神性や情動へのこだわりだ。これは、デザインや芸術性へのこだわりにもつながっている。それこそが、機能性にとどまらない情緒的な差別化につながり、人々の熱狂を生むという信念である。往々にして物理的な機能に目が行きがちなハイテク企業としては、非常にユニークな考え方といえよう。これはベトナム戦争などに揺れた70年代に一時期ヒッピー生活を送り、精神世界や芸術に関心を寄せていたことの名残とも言える。

実際にジョブズのプレゼンテーションなどを見ると、「理」の領域以上に、人々の情動に強く働きかけていることがわかる。そしてこれが、本人の情熱とも相まって、顧客や社員なども含めて熱狂的な「信者」を作ることにつながっている。“Stayhungry.Stayfoolish.”の締めの言葉でも有名になったスタンフォード大学での講演も、ロジックだけを追っていくと必ずしもわかりやすい論理展開をしているわけではない。しかし、理を超えた部分で人々の情動を強く揺さぶるものとなっており、実際に感銘を受けられた方も多いはずだ(YouTubeにアップされた同講演の字幕付き動画はこちらを参照)。

そして第3は、非常に合理的な考え方だ。ピカソの言葉に「すぐれた芸術家は真似る。偉大な芸術家は盗む」というものがあるが、ジョブズはそれを引用した上で、さらに「私たちはいつも偉大なアイデアを臆面もなく盗んできた」と語っている。「iPod」も、デザインやユーザーインターフェイスでは独自性を打ち出しながらも、中身は徹底的に合理的に作られており、費用対効果を出す上で必要なもの(しかし外からは見えないもの)の多くは外部調達ですませている。

こうした合理性は、一見、第1、第2の要素と矛盾するようにも見える。しかし、こうしたアンビバレント(相反する価値が共存し、時には葛藤する状態)な要素を高い次元で同時に持ちえたことが、ジョブズの真骨頂とも言える。高い次元でアンビバレントだからこそ、唯一無二の存在になりえたとも言えよう。

これらを「生きた伝説」であるジョブズが、巧みなコミュニケーション戦略も駆使しつつ、言葉と行動で強く内外に伝えてきた。ジョブズはまさにアップルの経営理念そのものの伝道者でもあったのだ。だからこそ、ジョブズの率いるアップルは、「アップルらしい」会社であり続けようとし(事実、そうありつづけ)、イノベーションを起こし続けてきたの

ジョブズのDNAを引き継ぐ

そのジョブズが亡くなった。いま多くの人が感じている疑問は、「ジョブズが亡くなったあとも、アップルはアップルらしくあるのか?」ということであろう。もちろん、カリスマ経営者を失ったことのダメージは大きいに違いない。

しかし、これはクック新CEOが率いるアップルにとって、大きな機会でもある。もしこのままアップルが沈んでいくようなら、後世の経営学者は、「結局、アップル=ジョブズだった」と結論付けるだろう。逆に、この危機を乗り越えて新たな飛躍を果たすことができれば、アップルはまた新たな伝説を手に入れることができるのだ。それは大変かもしれないが、見方を変えればワクワクできるチャレンジでもある。アップルはそうしたチャレンジを楽しむ会社のはずである。

幸い、昨今はYouTubeのような動画サイトもあれば、電子書籍の普及もあって、「伝説」を直接ではないにせよ、より身近に感じられる方法や機会が増えている。そうした時代の追い風をいかに活用し、アップルの良きDNAを残し、伝え、経営に活かすかは興味深いところである。

往々にして優秀すぎるリーダーはフォロワーをスポイルすることがあるが(「機長症候群」)、筆者は、クックをはじめとするアップルの次世代リーダーが、反骨心を持って今回のチャレンジを乗り越えていくのではないかと期待している。「スティーブならどう考えただろう、どう行動しただろう」と考えつつも、「スティーブ、見てくれ、やったぞ!」と言わせたいと願望しながら。

筆者もアップルの製品、サービスにはお世話になった。また、経営学の世界に生きる人間にとって、スティーブ・ジョブズはひときわ大きく輝く明星であった。そうした思いも込めて本稿の最後に改めて記したい。

「スティーブ・ジョブズ、夢と笑顔、そして勇気をくれてありがとう。お疲れ様でした。安らかにお眠りください」

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