ベンチャーを輩出する環境を醸成し、成長を促せ 

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初稿執筆日:2011年9月5日
第二稿執筆日:2015年3月8日

「なぜベンチャーが育たないのか?」という質問を良く受ける。僕は、この問いへの答え、そしてその対応策をとてもシンプルに捉えている。皆がベンチャーを起こしたいと思い、ベンチャー起業家予備軍に適切な教育を施し、十分な資金を流入させ、ベンチャーが成長しやすい生態系を創りさえすれば良いのだ。これほど簡単な事はない。
経産省によると、わが国の企業(個人企業と会社企業)の開業率は1990年代以降2009年まで廃業率を上回る状態が続いていたが2010年以降は諸外国に比べて低位で推移しているものの、開業率が廃業率を上回る状況へと転じた。一方、近年の新興市場での上場件数は、ピーク時の2006年188件から、2009年18件と大幅に減少してきたが、2013年の新規上場会社数は、4年連続で増加し、前年比約17%増(8社増)の54社へと回復基調にある。

近年のベンチャーキャピタル(VC)による年間投資額も、ピーク時の2006年2790億円から、2008年1366億円、2009年875億円と低迷をしていたが、2013年には1813億円まで回復した。

2014年、茂木経済産業大臣のもと「ベンチャー有識者会議」が立ち上がった。G1サミットからは「スタートアップ都市推進協議会」が設立され、福岡市の創業国家戦略特区の取り組みなどを中心に自治体が創業支援に本格的に乗り出している。環境は大きく変わりつつある。

今まで、経産省や中小企業庁では、さまざまな支援策を実施してきた。だが、今までのベンチャーを「支援」する発想では、ベンチャーは生まれないし、たとえ輩出されても、ひ弱でダイナミックな強さを備えていない場合が多く、大きくは成長しない。重要なことは、何もしなくても自然にボコボコとベンチャー企業が生まれてきてしまう、そういう生態系を「醸成」する発想が必要なのである。日本のイノベーションを促進し、経済成長を図り、新規創業を通じて新たな雇用を生むためには、産業を生み出すベンチャー企業を輩出し、富を産むサイクルを構築することが求められる。

では、どうすれば良いのだろうか?ベンチャー企業を生み出す方法論として具体的には、以下の4点が重要だ。

1)場と意識:リスクテイクしたベンチャー起業家を称賛する文化・価値観を醸成する。

2)ヒト:ベンチャー人材を育成し鍛える機関を増やす。

3)カネ:リスクマネーの供給を増やし、EXIT(資金回収)の環境を改善する。

4)企業や政府の取り組み:規制緩和、民間開放、M&Aなどを推進する。

一つ一つの醸成に必要な施策を次の通り論じていこう。

1.場と意識: リスクテイクしたベンチャー起業家を称賛する文化・価値観を醸成せよ!【一歩前進】

僕が学んだハーバード経営大学院では、優秀な人ほどベンチャーを志向する傾向にある。そこで学んだ、楽天の三木谷浩史氏、DeNAの南場智子氏、ライフネットの岩瀬大輔氏等が、ベンチャー起業家になったのは偶然ではない。その価値観に身を置くと、自らもリスクテイクし、新たな価値を社会に創造しなければならない、と強く思うのである。

リスクテイク出来なかった人が、コンサルティング会社や投資銀行に進むと言っても、過言ではないほど明確なキャリアのピラミッドが存在する。明らかに、三木谷氏が興銀のまま、南場氏がマッキンゼーのまま、あるいは岩瀬氏がバイアウトファームに残って創出したであろう価値よりも、起業することにより社会に与えたインパクトと価値は大きいと断言できよう。だからこそ、優秀な人材には、企業を飛び出し、リスクをとって創業して欲しいのだ。

日本ほど幼少期から競争的に育てられる国はない。僕も5人の男の子の父親として、今も“受験”と向き合っている。日本人は学歴・職歴の競争を繰り返し、育ってきている。その点はとても頼もしい。にもかかわらず、優秀な大学を経て、最終的なキャリア・ゴールが、政府や大企業、更には外資系投資銀行やコンサルティング会社で働くという人が多い。これでは、社会に新たな創造が生まれない。

一方、米国では、「優秀な人材は、リスクテイクして新たな価値を創造すべきだ」という価値観がある。キャリアのピラミッドの頂点は、ベンチャー起業家であり、皆が成功した起業家を称賛する文化が存在する。

日本でも同様のキャリアのピラミッドをつくり、「社会の中で一番優秀な人間こそリスクを取り、ベンチャーを志せ」、という文化や価値観ができると、自ずと皆が、ベンチャーを志向することになろう。すると社会に新たな価値が創造され、社会のダイナミズムが生まれ、新産業へとヒト・カネ・チエなどの資源がシフトしていくのだ。

その価値観の醸成や意識の変革のために最も重要なのは、国のトップの言動だ。オバマ大統領は、シリコンバレーのベンチャー・キャピタリストの邸宅で、アップル社のスティーブ・ジョブズ氏とフェイスブック社のマーク・ザッカーバーグ氏と夕食を共にし、その写真が公開された。これは、社会への一つのメッセージになっている。

英国のデイビッド・キャメロン首相は、2011年のダボス会議の演説で、「起業家精神を解き放て。欧州のベンチャー・キャピタルの投資額は、米国の1/7しかない」と檄を飛ばした。

一方、我が国の首相や経済産業大臣からは、「ベンチャー」の言葉が出てくることはこれまでほとんどなかった。これでは価値観は変わらない。ベンチャーを増やすには、挑戦する人々を積極的に評価することにより、「社会意識・価値観の転換」をはかることが必要不可欠である。そのためには、各界のリーダー達から、リスクテイクすることを称賛するメッセージが積極的に発信されることを期待したい。

僕は、2012年より経済同友会のベンチャー創造関連の委員会・プロジェクトチームの委員長を3期務めて、積極的に発言し、政府に働きかけてきた。経産省は2014年ベンチャー有識者会議を立ち上げ、日本ベンチャー大賞を創設(内閣総理大臣賞はユーグレナの出雲充氏が受賞)した。また同年、G1サミットは「G1ベンチャー」を新たなカンファレンスとして生み出し甘利明大臣や小泉進次郎政務官が登壇した。

実は、この価値観・意識の醸成が、僕が一番重要だと認識しているポイントである。どんな支援策よりも、リスクテイクし、挑戦することを称賛する文化を醸成することが肝要だ。これが醸成されれば、競争に慣れた日本人は、ベンチャーへと向かい、自ずと活力がある経済が生み出されるであろう。

また、ベンチャーの創造と出会いの場を爆発的に増やすことも重要な施策に位置付けたい。具体的には(1)大学などでのビジネスプランコンテストを積極的に実施し、(2)ベンチャーやVC・大企業との交流を活発化することだ。グロービス経営大学院は2013年グロービスベンチャーチャレンジを行い、2年間で9つのチャレンジに2900万円を出資しているほか、G1ベンチャーでは、ベンチャーが成長するためのマルチステークホルダーとの積極的な交流の機会を設けている。

2.ヒト: 起業家教育を充実しベンチャー人材を育め!人材を流動化させよ!

1)起業家教育を充実せよ

ソムリエを育成する為にソムリエの学校があり、デザイナーを育成するのにもデザイン学校があり、将校を育成するのに士官学校があり、弁護士を育成するのにロースクールがある。同様に起業家や経営者を育成するためには、経営大学院(MBA)が必要となる。

近年の日本の成功した起業家の多くは、孫正義氏、三木谷浩史氏、南場智子氏等のMBAホルダーを筆頭として経営学を体系的に学んできている人が多い。これからは、発想力や気力ばかりでなく、知力が必要な時代となるのだ。高い起業家精神と、高い知力を元に、スピーディに立ち上げ、成長させて、競争を勝ち抜いていくことが重要なのだ。

そういうと、「スティーブ・ジョブズ氏やマーク・ザッカーバーグ氏はどうなのか」という反論を得るが、スティーブ・ジョブズ氏やザッカーバーグ氏の周りには、数多くの経営のプロが存在し、彼らのアイデアを実現し、経営するチームが存在している。個人のみならず「経営チーム」を含めた人材育成が重要なのだ。

一方、起業家教育は大学院だけではない。起業家精神は座学から学ぶものではなくヒトからヒトへと伝播し、感化されるものだと僕は感じている。だから、幼少期から起業家に触れる機会を作ることは重要だ。経済同友会のプロジェクトチームではスタートアップ都市推進協議会と協働し1年間をかけて全国8自治体の小学生、中学生、高校生たちに対して起業家教育のスピーチを実施してきた。僕たちと触れ合った子どもたちから、やがて起業家がたくさん生まれてくることを願ってやまない。

さらには、各大学においても積極的に起業家を招いて特別講座を実施しつつ、起業家教育の方法論を教員たちが学び、連携しながら本格的な力をつけ、より実践的な取り組みとして先述のベンチャープランコンテストなどを積極的に実施したらよい。中学、高校で起業家に触れ、大学で本物の起業家教育を受け、そして志を立てて挑むときに経営学を身につけることができるといった体系だった学びのシステムを我が国において構築する必要がある。

2)人材を流動化させよ

日本の産業界は人材の流動性が低く、ミスマッチが生じていることが指摘されている。ベンチャー企業が生まれやすい環境をつくるためには、これらのミスマッチを解消し人材がセーフティネットの上で自由自在に行き来し、ダイナミックな人材流動が行われることが必要だ。

そのためには、労働市場を改革し多様な働き方を認め、人材が固定化しない制度を構築することが重要である(詳細は100の行動42で述べる)。また、企業の新陳代謝が重要だ。現在、日本は廃業率、開業率ともに4%程度の低位で推移しているが、アメリカをはじめとする諸外国では10%程度となっている。安倍政権は「日本産業再興プラン」の中で開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%)になることを目指している。100の行動9でも述べたが、カンフル剤を打ち続ける景気対策ではなく、体質改善を図るための大胆な施策を実施し、企業の新陳代謝を進め、ベンチャーが生まれ、人材が行き来することが成長のポイントとなる。大企業から転身した経験と知識を持った先人達がベンチャー支援人材として力を尽くしてくれるという利点もあるだろう。

合わせて、金融機関や大企業における個人補償に依存しない与信慣行により、創業そのものを支援するほか、経営資源を円滑に承継しつつ企業の再生を図るような再チャレンジを促進したい。

3.カネ: リスクマネーの供給を増やし、EXIT(資金回収)の環境を改善せよ!

1)VCの育成とリスクマネーの供給増加

ベンチャーを育てるのが、ベンチャー・キャピタル(VC)の役割だ。起業家にVCから資金が投下され、経営ノウハウが伝授され、ネットワ―クが提供され、人材も紹介する。VCとは、ベンチャー企業の黒子として、カタリストの役割を果たす。そして、起業家は、厳しい環境の中で、戦っていくのだ。

日本では、VCのほとんどが金融機関の関連会社ばかりだった。そして、一部の例外を除き、ベンチャーを育てるノウハウを持っていないのが実情だった。12年ほど前に経産省は、ベンチャー・キャピタリストを養成するプログラムを実施した。グロービスのVC部門の中心メンバーも実は、その制度を活用して、短期留学し学んできた。今の日本のVCを支える人材はその留学生が占めている。VC先進国の米国から学ぶことが多い。JETROなどが中心となりVC人材を育成することが今、望まれる。その結果、かなりのVCやインキュベーターが日本にも根付いてきた。

さらに、VCへの資金提供の問題がある。米国のVC資金を支える3大資金源は、年金基金、大学基金、そして財団である。日本では、どうであろうか。日本の年金基金は、ほとんどが株式か国債で運用されている。日本の大学基金も文科省の通達で、元本保証(つまり国債)が基本となっている。財団も米国のビルゲイツ財団のような巨額の資金を運用するものは見当たらない。

すると、日本の資金の出し手は自ずと銀行、企業、個人資産家のみに限定される。銀行は、BIS規制の関係で出しにくくなり、企業は株主からのプレッシャーで本業以外の投資は難しく、唯一残る個人資産家(ほとんどが自ら上場したベンチャー起業家)からの資金で繋いでいるのが、VCの現状である。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用に水野弘道氏が充たることになった。年金基金のポートフォリオ変更によりベンチャー投資枠を創設し、リスク資金の抜本的な供給強化につながることを期待したい。

経済産業省では、中小企業基盤整備機構からVCへのマッチング投資を行っている。これは、民間から集まった資金の分だけマッチング投資をするという理にかなったものである。是非これを継続して、独立系VCが多く立ち上がる環境を醸成して欲しい。

また、エンジェル投資を促進するために、企業要件を緩和し、所得控除の限度額を引き上げるなどのエンジェル税制の見直しも重要となる。

2)EXIT(資金回収環境)の改善

日本の資本市場はEXIT(資金回収)が少なく、資金の流入と循環を阻害している。米国などをみれば、資金循環の仕組みと規模が大規模なベンチャーを創出する原動力となっていることは明らかだ。ベンチャーのM&Aを推進し規模化を図ること、金融機関や機関投資家による経営関与と市場からのプレッシャーによる経営ガバナンスの強化を通じて、魅力的な資本市場としていくことが重要といえる。

4.企業と政府: ベンチャーが生まれ、育つエコシステムを醸成せよ!

1)大企業とのアライアンスを!

ベンチャーの神髄はアニマル・スピリットにある。新しい事業に果敢に挑戦するその姿勢は、社会全体はもちろんのこと、この力を大企業の中に取り入れることは双方にとって得るものが大きい。オープンイノベーションを通じた関係の構築は、ヒト・カネ・ノウハウの流動を容易にし、新たなベンチャーを生み出し育てるための土壌にもつながる。

2)規制緩和の更なる推進を!

政府の取り組みとして求められることは、規制を緩和しチャンスを生み出すことだ。「省庁の数だけビッグビジネスが眠っている」と言われる。各省庁が積極的に規制緩和をすれば、大きなビジネスが生まれるのだ。財務省の周りには、巨大な金融ビジネスが眠っている。総務省の周りには通信・運輸ビジネス。文科省の周りには、教育ベンチャー、さらに農林水産省の周りには、アグリビジネスだ。政府は「官から民へ」の原則を徹底させ、特区制度・市場化テスト・PFI(Private Finance Initiative)を活用し、規制緩和を推進することが求められる。

特に規制が強い、医療・福祉、雇用・労働、教育、農業分野などについては、官邸が司令塔となり、抜本的な見直しと、各種行政手続きの簡素化・透明化を図る必要がある。さらに、行政を事前規制型から、自主・自律・自己責任原則による事後チェック型に転換する必要がある。

産業は、政府が守れば守るほど、支援すれば支援するほど弱くなる。従い、規制緩和を促し、徹底的に自由な参入を促し、アニマル・スピリットを解き放ち、活性化した社会を創る必要があるのだ。

3)政府調達・自治体調達(入札制度)や日本版SBIRの改善を!

政府や自治体は、日本で一番大きな買い手である。その買い手が使う資金つまり、政府調達・自治体調達の約1~2割を、ベンチャー企業に振り分けることが望ましい。それだけで、商品やサービスの購入を通じて事業を支えることができるだけではなく、ベンチャー企業にとっても次の営業に向けての大きな実績、PRポイントとなり新たな市場を開き、ビジネスが育ちやすくなろう。そのためには、政府調達における実績主義、規模制限などの資格要件を弾力的に見直して、技術力や製品の性能を重視することにより、ベンチャー企業の商品・サービスに対し、積極的に参入機会を提供することが求められる。

また、政府内では、NEDOや様々な部署から、或いは中小企業技術革新制度(日本版SBIR)を活用して、研究開発型のベンチャーに資金を多く投下している。だが、ベンチャー起業家側からは、残念ながら受け皿がわかりにくくなっているのが実情である。分かりやすく窓口を一本化するなどの施策が必要となる。

さて、繰り返しになるが、ベンチャーを創造するためには、皆がベンチャーを起こしたいと思い、ベンチャー起業家予備軍に適切な教育を施し、十分な資金を流入させ、新陳代謝のあるベンチャーが成長しやすい生態系を創れば良い。その結果、日本経済を成長させて新たな雇用を生むことが可能となる。

まさにアベノミクスの3本目の矢の根幹は、ベンチャー創造なのである。まずは、僕ら起業家が積極的に表に出て、背中を見せていくことと同時に、政治家をはじめとするリーダーがより積極的に「ベンチャー」という言葉を多く使い、かかわり続けていくことが大切である。

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