グロービス・コーポレート・エデュケーション 鎌田英治 

特別インタビュー
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サントリー、資生堂、ベネッセ、リクシル、武田薬品工業など、日本の優良企業が次々に外部から経営トップを招聘している。「プロ経営者の流動化」をポジティブな変化ととらえる見方の一方で、企業内の人材調達の課題を指摘する見方もある。グロービス・コーポレート・エデュケーションでリーダー育成を数多く手がける鎌田英治マネジング・ディレクターに、最前線で何が起きているのかを聞いた。

日本に人材・組織革命を起こそう!

水野:サントリー、資生堂、ベネッセ、リクシル、武田薬品工業など、日本の優良企業が外部から経営トップを招聘している。日本でも、経営のプロフェッショナルへの評価が高まり、流動化が始まったと歓迎するポジティブな見方がある半面、日本企業における経営者輩出のメカニズム、すなわち「新卒一括採用×終身雇用」の枠組みの中での人材選考プロセスの限界が露呈したという厳しい見方もある。日本企業の経営幹部育成の最前線に立つ視点から、この現象をどう見ているか。

鎌田:内部登用を前提とした“純血・自前主義”とは、現場で鍛えられ、頭角を現した人材が、長い時間をかけて幹部としての適性を見極められていく仕組みだ。会社固有のDNAや組織文化に適した人材が生き残る適者生存。また、長期にわたって評価を上げるために、ミスを極力少なくし、リスクを取らなくなってしまう。こうした旧来型選考プロセスからは、旧弊を打破し、変化を自ら創りだすような人材はなかなか出てこない。

だが、国内市場が多様化、成熟化する今日、多くの企業は、これまでにはなかった新しい価値を創造する必要に迫られている。グローバル市場、新興国市場など、かつて経験したことがない領域に挑戦する転換期でもある。慣例や常識にとらわれずに、自ら変化を創っていくリーダーシップが、日本企業の経営トップに求められている。

“失われた20年”の間は「不透明な時代は新しいことに挑戦するよりも、過去に築いた自社の勝ちパターンを守り、伝統的なやり方を踏襲した方がミスが少なくて確実だ」という気分が支配的だった。変化に立ち向かうのではなく変化を避け、先送りか安全策を選んだ。いわば「縮こまった経営」から抜けられなくなっていったのだ。

しかし、経営とは「未来を創る」ことである。直線的に経済成長を続けていた時代には、7~8割の確率で未来を予見できたが、今のような先行き不透明で変化が激しい時代においては、今、目に見えている事実から予測した未来は数多くあるシナリオの1つのオプションに過ぎない。確率的には2~3割だ。つまり、未来とはファクトから予測するものではなく、目標を定めて主体的に創り出すものになったのだ。だから、「事実に基づく客観的意思決定」を否定するものではないものの、大局的な歴史観や自らの体験や信念に根ざした「主観的意思決定」を下せるかどうかが重要になってくる。そして、未知なるものに挑む突破力といった素養が経営者に求められている。

時代の変革期において、「過去の常識」や「しがらみ」に縛られていては、とても生き残れない。優れた経営者、秀でた企業は、既にそのことに気づいている。だから、「常識やしがらみの制約を受けない決断力」を社外から買うのだ。変革には痛みを伴う。強く抵抗する者が出るかもしれない。それでも、「これで行くのだ」と自らの「軸」で決断を下せる経営トップが必要なのだ。

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水野:「社外から買う」という流れを裏返せば、日本企業の人事部は、そうした「軸」を持った経営者を内製できていないということになる。それで良いのか?

鎌田: 社外から経営トップを招聘することは、経営のオプションが広がるという点で前向きにとらえるべきだ。ただし、外部招聘に恒常的に依存してしまうのは、内部 人材のモチベーションに必ずしも良くない影響を及ぼす。プロ経営者の流動化の事例が増える中で、「しがらみに縛られずに変革を断行し、自社の未来を創造で きる経営リーダーを、いかにして社内で育成し、輩出すればよいのか」という本質的な問いが日本企業に突きつけられている。

多くの企業では、 課長昇格、部長昇格、役員昇格など、ビジネス・キャリアの節目で社員たちを「ふるい」にかけ、優秀な社員を選抜する人事運用を行っている。繰り返し課せら れる厳しい選抜基準(ハードル)を継続してクリアできる人材に、将来の経営を託そうとするのは合理的な考え方だ。この仕組みによって多くの企業は継続的に 経営者を輩出し、経営の連続性を担保してきた。しかし、これからの経営はこの仕組みだけでは不十分である。経営者の育成・輩出に対する発想を根本的に転換 する必要がある。

なぜ、サントリーの佐治信忠会長兼社長は、新浪剛史氏を招き入れたのだろうか。なぜ、ベネッセホールディングスの福武総一郎会長は原田永幸氏を招聘しなければならなかったのか――。単純化してしまうと、社内には適任者がいなかったからである。

世 界市場に本格的に打って出ようとしているサントリーも、少子化が進む日本で教育ビジネスの新たな方向性を見いだそうとしているベネッセも、従来とは違う素 養や能力を持った経営トップを必要としている。衆知を活かし、多様性を尊重しつつも、決して付和雷同せず、進むべき明確な方向を示し、必要ならば強い力で 引っ張る。そんな経営者は意識的に能力を開発し育てない限り、社内に見出すことは難しい。「突然変異」を待っている時間的な余裕はないのだ。佐治さんや福 武さんの決断は、そんな冷徹な状況分析に基づくものと言えるだろう。

先日、ある大手グローバル企業の会長がこんなことを教えてくれた。

「自分のところに上がってくる話は、すべてコンプロマイズ(妥協の産物)だ。ご進講、ご進講でやってくる連中の言うとおりにやっていると、色の無い、角の取れた、つまらない経営になっていく。社内のコンプロマイズを壊すのが経営の仕事だ」

こ こにも、現代の日本企業が抱える課題が透けて見える。「和」を大切にするあまり、対立を生むかもしれない本質的な議論を回避しているのではないか。尖った 発想は角を丸められ、新たな挑戦者の裾は誰かに踏まれ、足を引っ張られる。そんな「しがらみ」の陰が見え隠れする。この状態では変革リーダーは生まれにく い。

水野:妥協経営になってしまったものを壊して、その上に新たな経営スタイルを構築できるような次世代リーダーは、どうすれば育てられるのか。

鎌田: 人は環境の影響を受ける生き物だ。日常の延長線上にはそうした発想も人材も出てこない。だからこそ、逆に非日常の刺激的な場を意図的に用意する必要があ る。米GEの「リーダーシップ開発研究所」(ニューヨーク州クロトンビル)は1つのモデルだ。日常業務から離れて、集中的、徹底的、継続的に経営リーダー に必要なトレーニングを重ねていく。一般的には「OJT」(On-the-Job Training)に対して「オフJT」と呼ばれるもので、グロービスの能力開発研修もこれに当たる。

大切なことは「人は環境次第で大きく 変化、成長できる存在である」ことを信じることだ。そして、リーダーシップは開発可能であり、「リーダー育成」に組織として自覚的に向き合う必要がある。 トップがコミットし、「リーダー育成」に経営資源を継続的に投入し続けられるか否かが、企業の優劣を左右する。こうした認識の仕方次第で状況は変えられ る。経営者と人事の本気度と覚悟が問われている。

水野:先行き不透明な変化の時代に立ち向かえる経営者に最も必要なものは何か。何を身につける必要があるのか。

鎌田:一言で言えば、「軸」である。軸とは、その人の主観であり、哲学であり、判断の基準と言える。最終意思決定者として、最後の最後、自分独りで決断をする際に拠って立つ礎だ。そこに立ち返ることで、自分自身の心根と向き合い己を奮い立たせる強さの源でもある。

本を読んで知識を得ることも大切だが、困難や逆境に向き合うこと、その際に深く自問し、立ち止まって問いを立て、さらに考えを深め、自らに対峙し、自分に対する認識を深めていく。「自分は何者なのか?」を考え抜くことによって獲得するものだ。

自分自身が生きてきた過去の体験には、自分に関する事実が全て含まれている。自分が何を大事にしてきたのか、何に対して燃えるのか、何が自分を突き動かすのか…。自分の価値観をしっかり認識することが第一歩だ。

だ が、それだけでは「軸」にはならない。「あなたは、5回中5回とも正しさを追求していると言い切れるか。どこかで妥協していないか。言うべきことを全て 言っているのか」と問い続ける。5戦4勝では「軸」とは言えない。自分が大事にしているものを常に何よりも優先する。例外はない。信念と言えるほどの極み にまで高める努力を自覚的に行うことが必要だ。

根っこ(軸)が確たるものになれば、大地から養分を吸って、幹・枝を伸ばし、葉を広げることができる。世の中や社会、未来に対して、自分はどのような木(存在)であるのか、社会との関わりにまで明確にしていく。

そこで必要なのは「広く深く学ぶこと」だ。今、過去の自分を徹底的に学び、今の社会に必要とされていることを学び、未来の社会の可能性を学ぶことが軸作りに不可欠なのである。

水野:そうした学びに対する現・経営トップの理解や応援が得られればよいが、必ずしもそうとは限らない。そういう場合に人事部はどうしたらよいのか。

鎌田: そんな状況にある人事は意外に多い。だから、志ある人事の人たちが集まって、情報を交換し、議論し、学ぶ場を作った。それが今年で第4回目になる 「CLO(Chief Learning Officer)会議」だ。一人では折れてしまうかもしれないが、仲間を作れば前に進める。努力をしている人の姿を見れば「自分もやろう」と奮起できる。 学び合うことによって感化され、問題意識がどんどん高まる――。そんな場にしたいと思っている。

日本企業の「人材・組織革命」を急がなけれ ばならない。内部からどんどん優れた経営リーダーを輩出し、結果として、そうした人材が流動化していき、日本企業全体のパワーアップにつながっていく、と いうのがあるべき姿だ。社内に人材がいないから外から採ってくるというところで留まっていては、社会全体を変える変革は起きない。

人材・組織革命の一丁目一番地は、人事の意識改革であり、自らがリーダーとしての自覚を持ち、覚悟を決めることにある。同じ志を持つ仲間は多い。皆の力を束ね、発信し行動すれば、それが日本の人材・組織革命に繋がっていくのだ。

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