リーダーシップは“開発”できる -『新版MBAリーダーシップ』著者座談会 

インタビュー
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求められるリーダーシップの形は時代や環境によって異なる

28951 林 恭子

司会:本日は、お集まりいただき、ありがとうございます。早速、初歩的な質問で恐縮ですが、そもそも「リーダー」とは、そして、「リーダーシップ」とは何なのか、というところからお聞かせください。

林:有名な「リーダー」の定義は、ドラッカーが言うところの「付き従うものがいること」。つまり、周りの人を「あなたと一緒に何かやりたい、ついていきたい」、という気持ちにさせることが、「リーダーシップ」の始まりです。

一方で、ここで強調したいのが、唯一絶対の普遍的なリーダーシップ論というのは実はない、という点です。それは、時代の変化、環境の変化と共に、求められるリーダーシップというのは常に、変遷しているからです。

司会:そのあたり、『MBAリーダーシップ』の中ではかなり丁寧に体系立てて紹介されていますね。

林:はい。本書の「第I部 理論編」に、古くは「特性理論」(第1章1-1)、「行動理論」(第1章1-2)から、最近、耳にすることも増えた「サーバント・リーダーシップ」(第1章1-6)、「オーセンティック・リーダーシップ」(第1章1-6)など、古今のリーダーシップ論、位置づけを明示しながら紹介しています。加えて、これら発展段階の背後に、どんな時代の変遷があったのかも記しています。そこがわかると、今後、読者の皆さんもおかれた環境や時代の変化によって、どんなリーダーシップが求められるようになるのかをイメージしやすくなるのではないかと考えたためです。

「リーダーシップ」とは、良く使われる言葉であり、職場で求められたりすることも多いですが、本当のところ、何を指すのか、はっきりとわからない人も多いと思います。若い方には、具体的に何をどうして良いかわからない方も多いでしょうし、ミドルの方でも、自己流でやってきたが本当にこれで良かったのだろうかと思っている方も実は多いでしょう。そんな方々に、少しでもヒントになればという思いを込めて書きました。各理論の導入には、短いケースも付けてあるので、乾いた“知識の勉強”でなく、是非、皆さんご自身の経験や、おかれた環境に重ねて、理解を深めていただければと思います。

ちなみに、本書は基本的に、体系的な構成を意識して書いているので、通して読んでいただくのも勿論良いですが、都度、必要な箇所だけを引いて読んでいただくのでも良いと思います。そんな風にしてリーダーとして成長していく皆さんの“良き友”となれるとうれしいです。

司会:さらに「パワーと影響力」(第2章2-1)の行使や、有益な人的「ネットワーク」(第2章2-3)の構築など、リーダーシップを発揮する上で、表立って大事とは言いづらいが、実はとても重要という要素についても触れられていますね。

新村:はい。これらは、うまくリーダーシップを発揮している人々が実践している部分で、属人的なスキルと目されることも多いのですが、ジョン・コッターやジェフリー・フェファー、ロバート・チャルディーニなどにより、実は体系的な学問としてまとめられています。

しかし残念ながら、これら研究の中には書かれた本が絶版となってしまったものも多いのです。たとえばジョン・コッターの『パワーと影響力』、或いは私が個人的に大好きな、ジョセフ・L・バダラッコの『「決定的瞬間」の思考法』など。それら優れた内容でありながら読者に触れられる機会の減ってしまったものも今回、是非、ご紹介したいと思い、エッセンスを記しています。

また、「ネットワーク」の部分はリーダーシップ本としては少し変わっていて、「弱い紐帯」、「ダンバー数」、「6次の隔たり」など、ちょっと人に教えたくなるような“小ネタ”も入っています。それから、デジタル時代のネットワーク活用として例えば、バラク・オバマの話なども入れています。上院議員を1期務めただけの、大統領選の候補者としては泡沫候補であったオバマが、なぜ大統領まで上り詰めたのか――。このあたりは是非、実際に本書を手にとって読んでいただければと思います。

“公式の力”に拠らずとも組織は望ましい方向に牽引できる

28952 大島 一樹

司会:本書の中には他にも、さまざまなリーダーシップの類型や、関連理論がでてきます。宜しければ、皆さんが個人的に共感しているものを教えていただけますか。

林:まずは、「サーバント・リーダーシップ」(第1章1-6)です。サーバントとは、奉仕する人、という意味。「リーダーは、部下が最高に力を発揮できる環境を整備するために奉仕するのだ」という意識がまず先に来る。その上で、部下のためになるのであれば率いることをする、というのが、この類型の概念です。率いることありき、ではないところが、個人的にもしっくりきました。リーダー、というと、まずイメージしやすいのは、剛腕でぐいぐい皆を率いる人物像。正直、自分は違うな、と思っている人も少なくないのではないでしょうか。でも、サーバント・リーダーのように発想を転換すると、「ああ、自分にもリーダーシップを発揮できそうだ」と思えるのでは。

また、「LMX理論」に代表されるような「交換・交流理論」(第1章1-4)も納得性が高いですね。結局、リーダーシップは、リーダー1人では成り立たない。フォロワーがいてこそ成り立つもの。双方がいかに価値を交換し合い、信頼を蓄積し、関係性を成熟させていけるか。それにつきますよね。

逆張りの発想でいくと、「カリスマ型リーダー」(第1章1-5)も面白いですよ。普通、カリスマ型リーダーといったら、その人そのものが生まれながらに凄いというのが前提のように思いますよね。でも、この理論の本質的なところを言うと、もし仮にその人が凄い人でも、フォロワーに「あの人は凄い」とちゃんと認知されない限りカリスマ型リーダーになれない、ということなんです。つまり、カリスマと認知されるように努力することから、カリスマ型リーダーは成立する。結局は、生まれながらの資質だけでない部分が実は大きかったりする。だから、「私はスーパーマンではない」という人も、どうすれば部下に凄いリーダーだと認知してもらいやすいかを学んで身につけることで、凄いリーダーになれるんですね。

竹内:私は、以前は、「変革型リーダー」(第1章1-5)を1つのモデルとして意識していましたが、最近は、人間的成長の側面を重視する「オーセンティック・リーダーシップ」(第1章1-6)に共感しています。

大島:「パーソナリティ研究」(第1章1-1)によって、自己の特性を把握することで個々人に向いたリーダーシップ発揮のあり方を開発する考え方に賛同しています。また、「ネットワーク」(第2章2-3)や「集合的リーダーシップ」(第3章3-3)にあるような、必ずしも組織図上の上に立つ“公式の力”に拠らずとも組織を望ましい方向に牽引することは実はできるのだという考えにも共感します。

新村:私は先にも述べた「パワーと影響力」(第2章2-1)の項ですね。言葉尻だけを捉えると、社内政治など謀略に近い匂いがするかもしれませんが、ここに書かれているのは、むしろ、権限や役職に頼らず、いかに自分のやりたいことを実現するか、という話です。中でも、活力、自信、創造力、抜け目なさ、大胆さ、実用的なスキル、個人としての力、決意、自己規律などを組み合わせた概念としてマキャヴェリの造語である「力量」(ヴィルトゥ)という言葉に強く引かれるものがあります。これらはリーダーとして実際に成果を上げている方々に共通する項目でもあります。役職についていない方のみならず、課長さん、時には部長さんでも、何かを成し遂げるとき、「自分にはまだ権限がないから」と、それを言い訳にする方がいらっしゃいますが、そういう方に是非、読んでいただければ。

リーダーシップとは自己表現。何かしたいという気持ちの後に自然発生する

28953 竹内 秀太郎

司会:先ほど、林さんのお話の中の、カリスマ型リーダーシップであっても、生まれながらの資質だけでない部分が大きい、という部分に励まされました。「第3章 リーダーシップ開発」にも顕著ですが、つまり、リーダーシップというのは後天的に身につけていかれるものなのですね。

芹沢:その通りです。また、大島さんや新村さんも言っていたように、リーダーシップは、ポジションによるものでもありません。たとえ若い社員であっても、子どもであっても、人の心を動かす瞬間があれば、その人は「リーダーシップを発揮している」といっていい。リーダーというとどうしても偉い人、目立っている人ばかりがクローズアップされますが、いつの間にかその人に共感している、後についていっているという『プロジェクトX』のリーダーのような人たちは世の中にはたくさんいます。ただ、そういう人たちは知られてない。知られようともしない。でも私自身、そういうリーダーには惚れてしまいます。

司会:そういえば、林さんから冒頭、周りの人を「あなたと一緒に何かやりたい、ついていきたい」という気持ちにさせることがリーダーシップの始まり、というお話もありました。ただ、どこから着手していいかと考えるとなかなか難しいです。

林:そこは、シンプルに考えるといいと思います。そもそも、人があなたについていきたくなるためには、あなた自身が立ちあがって、どこかに歩き始めないとついていきようがないですよね。どんなことでも良いと思います。流されるばかりでなく、自分は何を求めて、どこに行こうとしているのか、自分の心の声を聞き、少し勇気を出して立ち上がることから始めましょう。そのためにも、仮に苦しい局面だとしても、道は開けるという可能性を信じて前向きにものを考える、そういうポジティブさと、謙虚な姿勢も大切だと思います。

新村:リーダーシップの定義は色々ありますが、「決断する」ということは凄く大事ですよね。何をするかを決断する、決断したら周りを巻き込んで実行する。何をするかを決断する、ということは、何をしないかを決断する、ということでもあります。決める前には色々悩むし、決めた後にも色々後悔したりする。ただそこから学ぶことは多い。そのため、リーダーシップ開発をする中では、過去の決断を振り返るという手法もよく使われます。ちなみに私自身の場合は、どちらかというと守りに入った決断は裏目に出て、チャレンジした決断はなんだかんだいい方向にいった、という経験が多いように思います。

大島:とても近い感覚として、私も「口火を切ること」と、「成果を出せること」がポイントと感じています。前者は、たとえば皆が周りの出方をうかがって動けないでいるとき、最初に行動を起こしたり意見を言えること。もちろん、単に時間的にいちばん早ければというだけでなく、実効的な動きを初めに起こすというようなイメージです。後者は、冷静に見てメンバーに実感のある利益をもたらせるかが結局大事、というような意味です。

竹内:リーダーシップ論の大家ウォーレン・ベニスが「リーダーシップとは、自己表現だ」と言っていますが、皆さんの話ともつながりますね。とにかく、決めて自分から動く。つまり、部下を上手に操る、とかいうテクニックというよりも、自分が何か表現したいと思ったことを形にしていくところに生まれるのがリーダーシップである、と。確かに、これを形にしていきたい、という純粋な気持ちが自然に伝わってくるような人にはすばらしいリーダーになっていく可能性を感じますよね。

頭で理解するだけでは不十分、自分なりの「型」を行動しながら体得すること

28954 芹沢 宗一郎

司会:なるほど。まず動く。その際、どのようなスタイルをとるか、という点では、本書には、理論の紹介にとどまらず、「第II部 実践編」として、読者が自らのリーダーシップスタイルを探り、また発揮していくための模擬授業スタイルのパートも用意されています。

芹沢:はい。リーダーシップというものは人間が動いたり動かされたりするメカニズムを単に頭で理解できているだけでは十分ではありません。さまざまなリーダーシップの型を知ることは頭の整理には有効ですが、最終的には自分自身の価値観や経験、強み(いわばパワーの源泉)、直面する環境にもとづき、自分なりのリーダーシップの「型」を少しずつ磨いていくことが大事です。また、それを自ら実践・行動できてこそ意味があります。陽明学で言うところの「知行合一」を目指さなければなりません。

そのため設けたのが、「第II部 実践編」です。ここでは、「第I部 理論編」で扱った考え方をいかに実践の行動に落とし込むかを、「リーダーシップを磨く」(第4章)と「リーダーシップを発揮する」(第5章)に分けて展開しています。「リーダーシップを磨く」は、(1)ありたい姿を描く、(2)現状の自分を客観視する、(3)ギャップを埋める。「リーダーシップを発揮する」は、(1)目的・目標の明確化と共有、(2)計画立案、(3)実行・振り返り、というように、順を追って考えられるわかりやすい構成とし、それぞれに実践する上での難所を意識した解説を加えています。

司会:章の冒頭に設けられた講師と受講生の対話の再現が非常にリアリティがあり、印象的でした。「みなさんの自己評価はどうでしたか?」「ご自身の原体験から、信条や大事にしている価値観を言語化してみてください」など、問いかけもあるので、内省しながら読めるのも良いですね。

芹沢:リーダーシップというのは、人に関係することだけに、直観的に理解できる部分が多いのですが、その分、いざ自分ごととして実践・行動した瞬間、壁にぶつかることも多いのです。特に日本では、知識習得に慣れた学校教育の影響もあってか、頭で理解した瞬間、それで満足してしまう方が散見されるのですが、本来はいかに壁を越えるかまでイメージできていないと実戦で悩むことになる。

ですから、本書では、“自らに矢を向ける”自己内省のプロセスを読み物の中に埋め込んでしまうことにしました。グロービスがビジネススクールや法人研修の現場で蓄積したノウハウを可能な限り反映させたのです。もちろん本の中でリアルのクラスをそのまま再現することに限界はありますが、是非とも「自分だったらどうだろうか?」と自問しながら読みすすめていただくことをお薦めしたいですね。

司会:奇しくも「難所」という言葉がありましたが、皆さんご自身も、リーダーシップの発揮で苦労されたご経験がおありなのでしょうか。

竹内:もちろんです。チームリーダーとして、メンバーを育成しながら仕事をしていく中でメンバーの望む機会をつくれず、結果、辞めていった人もいました。ゴールイメージを共有するために、と、ミーティングでもメールでもメッセージを伝え、でも、うまく伝わらなかったり、共感してもらえなかったりで人に動いてもらえず、「こうしよう」と思ったことをやりきれないこともありました。リーダーシップを発揮するというのは本当に小さなことの積み重ねと思いますが、それを愚直にやり続けるというのは今も難しさを感じます。

林:随分と前の話になりますが、自分の担当の仕事が順調で、部下が3人くらいできた頃だと思います。自分が誰よりその分野の仕事を知っていたことから、自分のやり方が正しく、自分と同じことができるように、部下に自分の仕事の型を踏襲させることがリーダーシップだと考えてしまっていました。今思えば、1人1人の部下の個性や新しいアイディアをもっと活かせばよかった。リーダーである私だけがコントロールするのでなく、もっともっとメンバーにエンパワーメントすれば良かったと悔いています。そんな反省から、以後、部下を自分以上の人材に育成しなければ、リーダー自身が成長することもできない、と肝に銘じています。

大島:苦労した原体験として、学生時代に団体のある部門の責任者となって、その後、一年の活動を仕切っていったときのことが思いだされます。メンバーはそれぞれ「良き動機」からいろいろ「こうしたらいい」「あれじゃダメだ」など言うわけですが、それらは現実には相反したり、同時に着手するのは難しかったりする。それが、多様な考えを調整しながら、組織の士気を保つ難しさに触れた最初ですね。

司会:皆さんは若い時分からリーダーとしての経験を積まれたようですが、大きな組織などでなかなかそうした動きを期待されない、という声も聞きます。

28955 新村 正樹

新村:私自身、似たようなことを思った時期もありましたが、今なら、もっと違う絵の描き方があったろうな、と感じています。

本書の中に「フォロワーシップ」という項目が出てきます。リーダーシップの本なのにフォロワーシップ?と思われるかもしれませんが、ロバート・ケリーという人によると、「良きフォロワー」というのは、「クリティカル・シンキング」、つまりリーダーの取ろうとする行動を無批判に受け入れるのではなく独自の視点で考えているかということと、「積極的関与」、つまり自らの考えたことのイニシアティブを取り、積極的に参加し、自発的に担当業務以上の仕事をしているか、という2つの要素を満たしている、と言うんですね。

しかし皆さんも恐らくお気づきのとおり、「クリティカル・シンキング」も「積極的関与」も決して、フォロワーだけに求められるものではない。むしろリーダーにより求められるものでもある。要は、フォロワーとしてやりきることは、リーダーシップを発揮する訓練をしていることにもなる、と、私は思うのです。

ちなみに、この項に挿入したコラムでは、東京電力福島第一原発の故・吉田昌郎所長を取り上げました。東日本大震災後の、吉田所長以下、福島第一原発の現場の方々の奮闘を、フォロワーシップの概念になぞらえて描いたのですが、現場が何を正しいと考え、どのような自発的行動をしたか、その姿には書いた私本人も、読むたび、じんと胸を打たれるものがあります。

司会:逆に、ある程度の経験や歳月を経れば、どんな組織、場面でも適用できるリーダーシップのタイプを自分の中に持てるようになるのでしょうか。

芹沢:リーダーシップの旅に終わりはないですよ。私自身もいまだ、“研磨”し続けています。ただ、ずっと共通して持ち続ける価値観、みたいなものはあるかもしれません。たとえば私の場合は、人の可能性を信ずるという人間観だけは根底に持ち続けたいと思っています。それを大事にしているからこそ、20年近くずっと経営教育というフィールドに身を置いてこられたのだとは思っています。

司会:最後に、この本を読まれる方にメッセージを。

大島:リーダーを目指す人、リーダーを期待されている人、既にリーダー的存在であるという人、それぞれ経緯はあると思いますが、「自分がリーダーたることによって、世の中に成果を出したい」と感じていても、現実は難しい、どう考えていいか、どうしたらいいか迷われている方は多いと思います。本書が、そんな迷いを解決するヒントを提示できれば幸いです。

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