トールサイズコーヒー560円!スタバの新戦略は何だ? 

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スターバックスがこだわりぬいたプレミアムコーヒー560円也

5月17日付日本経済新聞のコラム「消費の現場」に、スターバックスの新展開が取り上げられていた。記事には「チェーン店でも個人経営の喫茶店のように、客が店員と話しながらコーヒーの知識を深められる。スターバックスがそんな店を3店作った」とある。そのうちの1店、記事にもあるのは、スターバックス日本1号店である銀座松屋デパートの裏手の店舗にも近い「銀座マロニエ通り店」。

2階がソファー席も混じる広い客席であるが、1階は商品販売を中心とし、客席は少ない。その1階の片隅、フードのケース→注文レジ→ドリンク受け取りという一連のカウンターの末端に、小さな客席が新設されている。記事に、「抽出の様子を見ながら客が店員と会話できるスペースをカウンター横に設けた」とある通りだ。記事には利用客の印象的なコメントが掲載されている。『「スターバックスリザーブ」のトールサイズ(560円)を注文した男性会社員(34)は「知識も深まるし、むしろ安いくらい」と話す』とある。

「きっかけは2月下旬の注文後に1杯ずつ豆をひいて抽出するプレミアムコーヒーの発売」という。この「スターバックスリザーブ」は、同社が世界中から集めた希少価値の高い豆を使用するもので、同社HPによると、全国52店舗で展開する。各店舗で使用する豆、抽出方法が異なり、値段は450円〜650円。

「スターバックスリザーブ」は世界中で展開しているプレミアム商品だが、「店員と会話してコーヒーの知識が学べるコーナー」は日本独自の試みのようだ。

スターバックスには種々雑多な顧客が訪れ、本や雑誌を読んだり、勉強したり、ケータイやスマホをいじったり、仲間と談笑したりしている。そして、総じて滞在時間は長めだ。スタバの来店客の滞在時間が長いのは、提供価値が「コーヒーそのもの」だけでないことを店も客も合意の上、成立しているからだ。単に1杯のコーヒーで喉の渇きをうるおし、一瞬のいとまを過ごすだけなら、コーヒー1杯200円のドトールコーヒーショップや、150円のカフェベローチェで十分だ。ショートサイズなら300円。トール340円也の対価は、ちょっとオシャレな店内やBGMなどの「店内空間」と、そこで過ごす「時間」にも支払われているのである。

では、銀座マロニエ店での「スターバックスリザーブ・トールサイズ560円」の対価とは何だろうか。

裏に隠された意図を想像してみる

「特別な豆や抽出方法を使ったコーヒーの味わい」という有形物だけではない。「抽出係のバリスタが独自の手法を実演しながら約3分間、来店客に説明する」と記事にあるように、「抽出の様子を見ながらの店員との会話」であり、「知識の習得」という無形の価値が含まれているのである。

飲料価格と価値の関係を考えてみよう。単に「喉の渇きをうるおす」という「中核価値」だけなら、ペットボトル入りのミネラルウォーターでこと足りる。価格は約100円だ。「おいしい」「炭酸でスッキリする」などの味やのど越しという「実体価値」が加わると、清涼飲料の150円という価格になる。50円分がプレミアムとして設定されているのだ。さらに特保飲料は体脂肪を燃焼しやすくするという「付随機能」としての要素を持っている。概ね価格は189円だ。ミネラルウォーターと147%の価格差があるが、それだけの価値が顧客から認められれば対価を得られるのである。

同様に、同じチェーン展開のドトールやベローチェのように「コーヒーを提供する」という中核価値だけであれば、150円〜200円。店内空間という「実体価値」を提供することによって、スタバはショート300円、トール340円の対価を得ている。そして、スタバはさらに、「店員との会話でコーヒーの知識を習得できる」という付随機能を持ち込み、トール560円という対価を得る戦略に出たのである。

ほかにも狙いはいくらでも想像できる。例えば高価なコーヒー豆の購入につなげたいのかもしれない。コアなコーヒーファンにとっては、豆の違いやひき方を直接教わる機会は貴重だろうし、つい豆を買う気にもなるだろう。ロイヤリティーの高い顧客を増やす施策の可能性もある。顧客接点を多くして、リレーションシップを築ければ、いわゆる「街の喫茶店」のように、リピーターを獲得できる。

こういう面白い試みの時は、とにかく頭を使い、観察もして、仮説を立てるのが、ビジネスを学ぶ上での醍醐味でもある。

また、この試みは、スタバの“自分探し”を見ているようでもある。

マクドナルドが店舗をおしゃれにしたり、コーヒーを100円で提供するなど、カフェとしての機能を付随するようになり、コンセントまで準備し、もはや「居心地の良さ」というバリューはデフレ状態にある。スタバの優位性とは何か。その模索が続いているのは想像に難くない。

どのような顧客に対し、どのような価値を提供するのか。そして、そこからどの程度の対価を得ようとするのか。また、「客数×客単価」の結果である「売上」をどのように設計するのか。恐らく、スタバの新展開は従来と異なる別のモデルを模索する実験だ。その成否しばらくウォッチしてみたい。

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