サントリー「ハイボールサーバー」の深謀遠慮 

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ハイボールが「最初の一杯」に

まずは、ハイボールが今日のように人気となった原点を振り返ってみよう。

2009年8月21日付日経MJに「サントリーのハイボール復活戦略」と題された記事が掲載された。サントリー酒類の社内で「プロジェクトH」と名付けられた取り組みに関して紹介している。プロジェクトの目的は、ハイボールという飲み方が「1950年ごろに誕生、一世を風靡(ふうび)した時期もあったが、ウイスキー市場の縮小とともに姿を消しつつあった。それを復活させることでウイスキー需要を喚起する」(記事より)ということにあった。また、「ウイスキーそのものの古いイメージを払拭(ふっしょく)、同時に若者が“飲む”環境を整え、新たなブーム」(同)を作り出すことにあったという。

プロジェクトは様々な取り組みによって早期に結実した。2009年のヒット商品番付にもランクインし、今日ではすっかりサントリーの狙いどおり市場に定着。多くの料飲店でメニューに並び、缶入りの商品もコンビニをはじめとした流通チャネルで確実に棚を押さえている。重点ターゲットである若者の取り込みも進み、ウイスキーに寄りつきもしていなかった状態から、「最初の1杯」にしている人も多いという人気っぷりとなった。

サントリーが仕掛けた「プロジェクトH」で用いられたのは「角瓶」ブランドを用いたハイボールであるが、その後、消費市場全般の低価格志向にも対応し、より手軽な価格で楽しめる「トリス」のハイボールも展開、さらにハイボールの裾野を広げることに貢献した。

しかし、前掲の日経MJの記事にあるように、サントリーの真の狙いは「ハイボールの普及」ではなく、「ウイスキー需要の喚起」である。もちろん、炭酸ソーダで薄めてハイボールにするより、そのままで飲んでもらった方がありがたい。そのため、その次の一手として「WHISKEYonMUSIC」というコンセプトで、様々なアーティストとコラボレーションした広告展開を行い、さりげなくアーティストがカッコよくストレートやロックで飲む姿を訴求した。だが、世は低アルコール全盛である。そのハードルは少々高いといえる。故に、さらに次の一手を打ったのである。

ハイボールサーバーの真の狙いとは

4月20日付日経MJのコラム「食を支える」に「サントリーハイボールサーバー5銘柄、最適な割方で」という記事が掲載された。5銘柄とは、角瓶、山崎、ザ・マッカラン・ファインオーク12年、ジャック・ダニエル、白州。それらをウイスキーとソーダ1:4、1:3、1:3.5などの最適比率で自動的に作り出すサーバーを開発したという。ソーダもただ者ではない。サーバーの冷却機能を高めることで、「おいしさのカギをにぎる、ウイスキーと割る炭酸の量を増し、液体に含まれる炭酸密度を従来の5.3から6.0まで高めた」(記事より)という。そして、サントリーは「6.0は現時点で最高レベル」であるとコメントしている。

よーく冷やして、喉ごしのよさを味わってもらうという手法は、考えてみればビールとよく似ている。酒好き、ウイスキー好きにとっては、熱い塊となって喉から食道を通って胃の腑に滑り落ちるウイスキーの感触が何ともよいのだが(←書きながら禁酒中の筆者は思わず感触を思い出し悶絶している)、やっとハイボールでウイスキーに慣れた初心者にはまずは喉ごしだ。

アサヒビールの「スーパードライエクストラコールド・バー」をおぼえているだろうか。2010年5月21日に東京・銀座にオープンし、連日行列を作った店だ。人気のヒミツは、「氷点下の温度帯(-2℃から0℃)のアサヒスーパードライを飲める」ということ。ビール愛好家にとっては味がわからないくらいにキンキンに冷やしすぎはNGだ。喉ごしと共に鼻腔に広がる香り(←再び悶絶)が楽しめなくなるからだ。しかし、アサヒの狙いは「若者のビール離れ対策」であった。故に、「エクストラコールド」を開発し、少々狭すぎる店に行列を作らせ人気を醸成し、アンテナショップとしての役割を終えた同店を閉めてから、専用サーバーを各料飲店に広めていったのだ。現在では「エクストラコールド」を楽しめる店は順次増えている。

サントリーの場合、超高性能サーバーの展開は、「サントリーがハイボールにあうフードメニューや店舗デザインの企画、従業員の教育まで」(同)請け負った店だという。そして、サントリーはその店舗から、「フランチャイズチェーン(FC)と違い加盟店料やロイヤルティーなどは一切とらない」という太っ腹具合である。そのワケはとりもなおさず、目的を収益ではなく、角瓶だけでなく他の銘柄のウイスキーを消費者に体験させ、拡販することに置いているからだろう。

また、専用超高性能サーバーの展開は、消費者に体験を広げるためだけであれば、多数あるサントリー系列の料飲店から始めればいい。しかし、あえてそうしない点から消費者に向けた狙いだけでない側面も伺える。系列での展開はいわば「閉じた世界」だ。他の店舗で成功すれば、「ぜひ我が社の店舗にも」ということになり、大きな広がりが期待できる。

専用超高性能サーバー設置1号店は1月に東京・新橋にオープンしていて、「売り上げは計画比で50%増のペースで推移している」というから、恐らく各社からのオファーも数多く舞い込んでいるに違いない。しかし、現在のところサーバーは手作組み立てで大量生産はできないようだ。料飲店にとって希少性が高い存在になっていることだろう。

ウイスキー、酒類に限らず、企業やマーケターは様々な仕掛けによってブームを起こすことを狙っている。しかし、問題はその後なのだ。いかにブームを一過性のものにせず、定着させるか。そして、その仕掛けたブームの裏側にある真の目的を達成するかである。サントリーの、まさに深謀遠慮ともいえるハイボールと、今回の超高性能ハイボールサーバーによる息の長い取り組みからは学ぶべきところが大きい。

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