「釣女」「釣りガール」は本当に流行るのか?! 

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女性版「ハマちゃん」「スーさん」が今年大流行?

「釣女」とかいて「ちょうじょ」と読む。歴史好き・歴史通の女性を意味する「歴女(れきじょ)」と同じ読ませ方だ。日経トレンディネットが昨年11月に2011年のヒット予測ランキングの4位として「釣女ギア(ちょうじょギア)」を示している。

日経ウーマンオンラインも2010年11月17日付で、「次の流行ファッションは、釣女、怪獣…」という記事を掲載している。記事中で、「“釣女”というよりも“釣りガール”と言ったほうが分かりやすいかもしれない」と、語感の悪さを修正しつつ、『「ランスカ」や「山スカ」など、アウトドア系の服がヒットし、次にくるのは釣りファッションというわけだ』「“山ガール”ではなく“釣りガール”ブームがくるかもしれない」とトレンドを予測している。

上記の通り、女性のアウトドアのトレンドは「ランスカ」や「山スカ」など、ウエアから起こる傾向が顕著だ。そのため、「DAIWA」ブランドで知られる、釣り具最大手のグローブライド(旧ダイワ精工)は、人気のカジュアルブランド「ABATHINGAPE_(ア・ベイシング・エイプ)」とコラボレーションしたうえ、さらに佐藤可士和氏をクリエイティブディレクターに迎え、「AFISHINGAPE_(アフィッシングエイプ)」を立ち上げた。

製品のデザインのポイントをzakzak(産経)の2011年1月4日付記事「ハマちゃんモテモテ?「釣りガール」がトレンドになる!」で、同社の広報課がコメントしている。「今春投入するウエアでは、派手なカラーリングで、丈を短くしたデザインにしたりして、女性を意識したものにしています」とのことだ。

製品だけ作っても、当然売れない。販売チャネルでの展開にも注力している。同記事によれば、釣り用品販売大手のキャスティング(東京)は首都圏の大規模店舗で、「THENORTHFACE」など人気のアウトドア用品ブランドを店の目立つ場所に配置。「釣具店というと女性にとってどうしても敷居が高くなってしまう。その敷居の高さを低くしたかった」(同社総務担当)とある。キャスティングは、実はグローブライドの子会社である。

ブームがくると誰が得をするのか。シェア?1の企業だ。それがグローブライドである。同社は精密機器のメーカーであるが、釣り具セグメントの売上げが極めて大きい。2010年5月の発表では、売上高623億のうち、釣具部門が486億円(78%)を占め、競合であり、自転車部品では圧倒的なシェアを持つシマノの釣具部門の売上げ410億円をしのぐ。しかし、シェア?1でも安泰ではない。価格が1桁安い中国・台湾・韓国製品が釣具店の棚を席巻し始めているからだ。「釣女ブーム」に乗り、さらに仕掛け、新たな価値と顧客を創造することに活路を見出したいというところである。

ましてや、釣り人口、市場は、減少、縮小の一途を辿っているのだ。2010年7月28日付日経産業新聞の記事によれば、『日本生産性本部の「レジャー白書」によると、釣り人口は2008年で1120万人。減少傾向にあり、ピーク時(1983年)からほぼ半減した』。先の産経新聞の記事によれば、「日本釣用品工業会によると、国内出荷ベースで98年に2169億円だった市場が、09年には1191億円とほぼ半減している」。

シェア争いもさることながら、パイそのものの大きさを復活させることが、喫緊の課題なのである。

釣女普及のカギを握るのは・・・

さて、そろそろ「釣女」「釣りガール」が本当に流行るのかを考えてみよう。

マーケティングの4Pで考えれば、製品(Product)は従来にない、女性受けするものが作られた。販売チャネル(Place)も子会社を使って積極的な展開を行っている。「釣女」関連の広告・広報・販促(Promotion)は、日経関連に続き、産経、朝日新聞など一般紙でも大きく取り上げられるなど、話題作りに成功している。価格(Price)は前述の通り、アジア勢に価格勝負をするのではなく、「高価値戦略」を取ることになる。それが受入れられるかがキモであるともいえるだろう。

多くの女性にとって釣りは「生き物を相手にする」というという意味では、ランニングや登山以上に未知なる体験、イノベーションである。そこで、E.M.ロジャースの「イノベーション普及論」の普及要件で検証してみたい。

1.相対優位性=今まで使っていたものと比べ、いかに優れているかが分かりやすいこと。
今までの趣味との比較となるが、未知なる体験で楽しさを知れば優位性が理解できるだろう。

2.両立性=当面は今まで使っていたものを捨てることなく、両立できること。
今までの趣味との両立ということになるが、釣りは現地に行って時間をかけて獲物を手に入れるので、それなりに時間がかかる。無尽蔵に時間を持っている人はいないため、何らかの趣味とトレードオフの関係になるだろう。釣りの魅力が勝るかがカギだ。

3.複雑性=理解できないほどの複雑性を持っていないことと、逆に当たり前に見えすぎない程度に複雑であるというバランス。未体験の女性からは、「釣りって難しそう」という意見も多い。その壁を越えることも欠かせない。

4.試行可能性=本格的な導入の前に自ら触って効果を認識できること。
上記の1〜3の要件でも、まず「試す」ことが欠かせないことがわかる。また、一般に「釣れない釣りほど楽しくないものはない」ともいう。お試しで成功体験を得ることが必要だ。この要件が最もハードルが高いといえるだろう。

5.観察可能性=目に見えない効果ではなく、効果が観察・実感できること。
「魚が釣れなくとも自然に触れるだけで釣りは楽しい」という人もいる。しかし、やはり獲物を手にするという実感は大切だ。それが観察可能性に該当するだろう。やはり、どうやって成功体験を得るかにかかっている。

普及要件から考えれば、誰か「教えてくれる人」の存在が欠かせないことが見えてくる。

日経ウーマンオンラインでは、2010年12月から『初心者のための「釣りガール」入門』という連載を始めている。そこでは編集部の女性2名に、男性ライターが指南役となっている。

DMU(DecisionMakingUnit=購買決定関与者)という。何らかのモノやサービスの購入に際して、ターゲットに関わってくる人のことである。この場合は、初心者である彼女らに成功体験を与えてくれる人ということになる。

では、DMUは誰なのか。「彼氏」か?確かにグローブライドは上記の通り、若年層に人気のアパレルブランドとコラボして取り込みを図っている。「ABATHINGAPE_」は男子にも大人気だ。しかし、彼氏も初心者であれば、初心者同士で「成功体験」を得られるかは、ちょっと危なっかしい。女子ゴルフブームの時には、彼女らにやたらと指導をしたがるオジサマたちがいた。しかし、釣り人は孤独だ。一人で海や川、魚と戦っている。釣り場は「釣りバカ日誌」的な光景ばかりではない。と、考えると、意外にDMUを誰に設定し、どう働きかけるのか、難しいのである。

浄瑠璃の常磐津には「釣女」という演目がある。独身の大名と太郎冠者(従者)が、嫁が欲しいと恵比寿様に詣でたら、釣り竿を授けられた。大名がそれを使ってみると、世にも希な美女が釣れ、仲むつまじくなることができた。太郎冠者が焦って自分も釣り糸を垂れると、同じく女性が釣れた。末永く添い遂げることを誓ってから顔を見ると、二目と見られぬ醜女であった・・・という話。

「釣女ブーム」が本当に流行るためには、まず、釣り上げるべくは女性ではなく、「成功体験をさせてくれる指南役」だ。その必要要件は、美醜などではなく、「下手くそ」ではないこと。太郎冠者のように焦って、「二目と見られぬ」ではなく、女性が「二度とやりたくない」と思うような結果になってしまったら、ブームの火はあっという間に消えてしまうことになる。

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