論点を把握する(8)〜広げる(5):合意形成のステップを細分化する(3)〜 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

前回は「合意形成のステップ」の2番目<アクションの理由の共有・合意>における論点の洗い出しの手法として、「問題解決のステップ」が活用できることを見てきました。問題解決のステップの大きな流れに沿って考え、議論することで、無用な混乱を減らせることが理解できたかと思います。

今回は、問題解決のステップの出発点、「What」から考えていきます。

様々な課題や問題について議論する上で、重要であるにもかかわらず、多くの場合、曖昧なままで議論がスタートしがちなのが実は、この「What」の部分、つまり「何が問題なのか?」という、問題意識の明確化です。

「問題」とは?

同じ状況を見ても、「問題だ」と言う人もいれば、「問題ではない」と言う人もいます。もしくは「問題だ」と思っていても、人によって「どのような問題なのか?」の認識が異なっていることがあります。そもそも、この違いはどのように生じるのでしょうか?

問題とは何か?これも様々な定義が考えられますが、ここではシンプルに「あるべき姿と現状にギャップがある状態」とします。そうすると問題意識が異なるのは、各人が考える「あるべき姿」が違っているか、「現状に対する認識」が異なっているかのどちらかです。

たとえばある店舗での店員の接客について考えるとしましょう。ある店員は、お客様は自由に商品を見て廻りたいと考え、お客様から声がかけられるまではアプローチせず、声をかけられた際には礼儀正しく、お客様が知りたいことを伝えるようにしています。この接客に対して、店長は「お客様は自由に見て廻りたいときと、店員にいろいろと案内してもらいたいと感じているときがある。だから一律に声をかけられるまでアプローチしないのではなく、状況を見て柔軟に対応すべきだ」と考えており、この店員の接客を「問題がある」と判断しました。また、フロアチーフは「この店員の接客は礼儀正しすぎて親しみがない。我が店の顧客層に合わせてもっとフランクに接するべき」と感じていました。こうした違いが生じているのは、「あるべき接客のあり方」に対する捉え方が個々に異なるためです。どういった接客を理想とするのかによって、同じ接客でも問題がある/ない、どういった意味で問題なのか?が異なっているのです。

もしくは、あるべき接客について同じような考えを持っている場合でも、接客に慣れていない新人やアルバイト店員が多い時間帯を担当しているチーフと、ベテランが多い時間帯を見ているチーフでは、たとえば店長が「今のうちの店の接客には問題があるか?」と問いかけた際に返ってくる答えも異なるでしょう。これは見ている現状が異なるためです。

問題意識の共有の難しさ

このように、人はそれぞれ相当に異なる問題意識を持っていますが、その違いについて、我々は意外に気付かないものです。

それは、我々が何らかの状況を見て「問題がある」と感じるとき、「どういった状態があるべき姿なのか?」を明確に自覚しているわけではなく、現状を見てなんとなく「まずいな」と感じていることが多いこと。そしてその感じ方は自分にとって自然であるがゆえに、他の人も同じように感じていると錯覚してしまうからです。

このように、問題意識の背景自体に無自覚であることが多いために、自分が「問題ではない」と感じているところに他人から「問題がある」と言われたり、自分が「問題だ」と思っている状況について他人が「問題を感じていない」ことに気付くと、人は不快感や反発を覚えることが多いのです。結果として、この「What」、即ち、「何が問題なのか?」の認識が揃わないまま、また認識が異なっていることに気付かないまま議論を始めると、話がかみ合わない、互いに反発しあうといった混乱が往々にして生じる、というわけです。実際、組織の中で問題・課題について議論が混乱するときというのは、この「問題意識の違い」、さらに言えば「何をあるべき姿と捉えるかの認識の違い」に原因がある場合が非常に多いのです。

たとえば、組織の方向性を大きく変えたい、これまでのやり方を変革したいといった議論をする場合、関係者に「なぜ現状を変えなければならないのか?」を理解してもらい、「変えるとして、どういった状態を目指すのか?」の共通理解をつくることは不可欠です。先を急ぐばかりに、問題意識に対する腹落ちが不十分なまま議論を進めてしまうと、多くの場合、失敗してしまいます。

所属する部署や果たすべき役割が異なる人の間では、この「問題意識の共有」の難易度はさらに高まります。役割が異なれば、仕事に対する目的意識や何を良しとするのかの判断基準も異なります。たとえば生産部門と営業部門では「どのくらいの在庫を持つことが望ましいのか?」に対する認識は異なるでしょう。また組織というものはそれぞれの文化を形成し、一定の価値観を共有するため、「あるべき姿」に対する考え方も大きく異なります。ゆえに、組織を跨いだ議論においては、この「問題意識の共有」が最初のハードルになるのです。

「問題意識の共有」は議論の生産性、また組織における問題解決の成否を決める極めて重要なものです。もし議論の中でどうも話がかみ合わない、参加者が積極性に考え、関与していないと感じたときは、まず「問題意識は共有できているのか?」を疑い、そこを揃える議論の機会を十分に確保することを考えるべきです。議論の場でこうした失敗をしないためには、「仕込み」の段階で、「今回の議論の参加者は、問題意識はどれくらい共有されているのか?」を存分に検討し、問題意識を共有するための議論の時間を十分に確保することが大切です。

具体化して議論するプロセスを通じて問題意識を共有する

問題意識の共有が難しいのは、「あるべき姿」には正解がなく、様々な「あるべき姿」を考えることができるからです。

ここでやりがちな誤りとして、「抽象度の高いあるべき姿を共有して、問題意識が共有できたと錯覚してしまう」ということが挙げられます。たとえば「業界トップを目指す」というあるべき姿が言葉として共有されていても、実は問題意識が共有されたとは言えません。「業界トップ」とは、何をもってしてそう言えるのか。売上なのか?顧客からの信頼なのか?技術力なのか?おそらく人によってあるべき姿が備えるべき要件、レベル、もしくはそれを実現する時点に対するイメージはばらばらのままでしょう。そのまま議論を進めると、ある程度話が進んでから認識のずれが顕在化し、「そもそも論」に後戻りする、またそれぞれが違った方向に検討を進めてしまう、など、大きな混乱の生じることが容易に想定できます。

これを避けるためには、「あるべき姿」について「いつ、何が、どの程度」といった具合いに出来る限り具体化して議論し、認識をすり合わせていくことが必要です。先に述べたように、「あるべき姿」に正解はなく、意思によって決めるものであるからこそ、具体的な議論を通じて互いの捉え方の違いを認識したうえで、相互のイメージをすり合わせていくプロセスが極めて重要になるのです。

このため、議論の仕込みにおいて、「議論の参加者は、問題意識をどれだけ共有できているか?」をよく考えるとともに、問題意識を具体的に共有するための論点を広く押さえておくことが肝要です。

具体的には、
・あるべき姿を具体化するための論点を押さえる
・何が(あるべき姿が満たすべき要件を幅広く洗い出す)
・どの程度(それぞれのレベル感か?)
・いつ(それを達成する時点はいつなのか?)を押さえる
・そのあるべき姿から見て現状はどうなのか?現状を正しく把握するための情報は十分に揃っているか?
を確認する
・あるべき姿と現状を比較して、どこにどれぐらいのギャップがあるのか?を把握する
等の論点を押さえるようにするとよいでしょう。

名言

PAGE
TOP