カロリーメイトの「イエローマン」の狙いは何だ? 

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思わず共感してしまう若手ビジネスマンの悲哀

CMを印象的にしているのは、ここ数年キャラクターとして登場している「イエローマン」だ。衣装はカロリーメイトの商品パッケージと同じ真っ黄色に太めの黒いラインが印象的な上下セットのジャージ。1978年公開の映画「死亡遊戯」でブルース・リーが着用していたトラック・スーツと同じデザインなのは有名な話。それを着てイエローマンに扮するのは個性派俳優の荒川良々である。

このイエローマンは2007年から続いているロングランシリーズだ。昨年までのCMではイエローマンが、瑛太や森山未來、香里奈らが食事を取り損なうシーンで、カロリーメイトを少し意地悪な様子で見せつける「そこは持っとかないと。篇」がシリーズで制作されていた。「健やかなる君へ(夏)篇」では、ビジネスシーンで様々な不条理に翻弄される若手ビジネスマンを、イエローマンが優しく応援する。応援歌ともいえる「健やかなる君よ〜♪」の歌声の主は近藤房之助。アニメ・ちびまる子ちゃんのテーマソング、おどるポンポコリンの「パッパパラリラ〜」の人である。

田中圭演じる若いビジネスマンが、取引先に「こないだの話と全然…」と切り出すと、「あれ、そうだっけ」。「こないだ言われた資料です」と資料を手渡すと、「あれ、もういいわ」。「自分で考えて動け」と叱られれば、今度は「言われた通りにして」と指摘を受ける。デスクの前で深いため息をつく彼の前に、イエローマンが現れ、「話がちがうからって、クサルなよ!」。思わず、共感を覚えてしまう。

さてカロリーメイトのCMには大塚製薬のどのような意図が込められているのだろうか。

カロリーメイトの現状を知ることができる面白い調査が先頃発表された。インターネット調査のマイボイスコム株式会社が2010年7月に行った自主調査「バランス栄養食品(第3回)」である。

同様のテーマで各調査会社が自主調査を行っているが、各調査とも毎回、利用経験、利用意向の1位2位を占めるのは大塚製薬の2商品「カロリーメイト」と「ソイジョイ」である。今回のマイボイスコムの調査では、「1年以内で最もよく利用したバランス栄養食品」は、「カロリーメイト」が18.7%、「ソイジョイ」が15.9%とトップ2となっている。

バランス栄養食品利用者の中で見れば、カロリーメイトとソイジョイを合わせればシェアは70%近くなり、「クープマンの目標値」で考えれば大塚製薬が絶対安定的な首位を占める「独占的市場シェア」を取っていることになる。

ちなみにソイジョイは2006年に上市され、順次フレーバーを拡大しているが、2010年4月26日付週刊流通ジャーナルによれば、カニバリはなく市場が再度活性化され、「カロリーメイト」ブロックは順調な伸びを見せているという。

大塚製薬がイエローマンに込める想い

重要なのは、その集計には、「ここ1年では利用したことがない」が50.8%いることだ。

E.M.ロジャースの普及論で考えても利用者が半分ということは、各社のシェアを足し上げても、取り込めているのは革新的採用者(2.5%)、初期少数採用者(13.5%)、初期多数採用者(34%)までに留まっているのだ。最後に動き出す採用遅滞者(16%)はともかく、まだボリュームのある後期多数採用者(34%)の取り込みは必須である。

大塚製薬というのは不思議な会社だ。「自らの手で独創的な製品を創る」ことを企業理念の一つとしているが、そうして作り上げた製品を、「売れるまで売る」のである。カロリーメイトは1983年に発売されたが、「バランス栄養食品」というカテゴリーは大塚製薬が切り開いたものだ。主力商品の一つ、ポカリスエットの販売が軌道に乗るまで粘り強くサンプリングを繰り返したり、水分吸収に関する大規模な実証実験を行ったりしたことは有名だ。同社が非上場を貫くのは、その独自性を維持するためだとも言われている。

男性を対象としたスキンケア化粧品「UL・OS(ウル・オス)」など次々と新分野を開拓していくが、2008年12月22日付日経ビジネスのインタビューに答えた攝津浩義副社長(当時)が「扱っている商品の半分は、利益が出ていない」と話しているように、地道な啓蒙、営業、広告活動のすえ、利益を生むまでの商品に育てるには、時間がかかる。それゆえに、いったん新しい市場を開拓した商品、特にオロナミンC、ポカリスエット、カロリーメイトなどの大型定番商品は、新たな取り組みを可能にする土台として、重要な役割を果たしているのだ。

「グラスに入っているワインを見て”ああ、もう半分しか残っていない”と嘆くのが悲観主義者。”おお、まだ半分も残っている”と喜ぶのが楽観主義者である」。イギリスの劇作家、ジョージ・バーナード・ショー(GeorgeBernardShaw:1856〜1950)の言葉だ。

大塚製薬にとっては、「おお、まだバランス栄養食品を利用していない人が、まだ半分もいる」という市場環境であり、利用者もまだまだ、利用頻度を高める余地があるという状況なのだ。決して、半分取ったからもういいではない。

「ほ〜ら、そんなシーンに出くわしたことがあるだろう?」と、イエローマンが「そこは持っとかないと。篇」で需要を喚起した。「健やかなる君へ(夏)篇」では、「意外な展開が仕事をドラマにする、かもだゼ!」とやさしいメッセージとともに、イエローマンがカロリーメイトを渡してくれるシーンを印象づけている。

前掲週刊流通ジャーナル記事によると、04~06年と比べ、現在のシリーズを放映している07〜09年の3カ年の売上は約15%の伸びをみせたというから、狙いがばっちりはまっていることが分かる。

定番商品が築いた地位を維持し、コンビニエンスストアやスーパーの棚を確保し続けることは、並大抵のことではない。大塚製薬には、圧倒的な資本、規模の力で次々と新商品や新フレーバーが登場させ、消耗戦を繰り広げる世の中へのアンチテーゼの想いもあることだろう。もっさり系の荒川良々の姿とは裏腹に、「ロングセラーを創る」という、意図やメッセージは、とても力強い。

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