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FCバルセロナ「巧みな試合運びで、観客を興奮させて勝つ」

投稿日:2010/07/07更新日:2019/04/09

FCバルセロナのモットー

「クラブ以上の存在(M_sQueUnClub)」

FCバルセロナというクラブ

FCバルセロナ(以下、バルサ)は、スペインのプロサッカーリーグ、リーガ・エスパニョーラにおいて、レアル・マドリード(以下、レアル)と双璧をなす有名クラブだ。バルサは1899年に創設され、1929年からスタートしたリーガ・エスパニョーラの歴史の中で数々の栄冠を手にしてきた。特にレアルとの対戦は「エル・クラシコ」と呼ばれ、スペインのみならず、世界中のサッカーファンの注目を集める一大イベントとなっている。欧州ナンバーワンを決めるチャンピオンズ・リーグも3度制覇している。

同クラブのユニークな点として、ソシオと呼ばれる会員(2010年現在、およそ15万人。日本人も多い)からの会費で運営され、また、彼らに会長選挙などの投票権がある点が挙げられる。つまり、世界の多くのプロスポーツチーム——特にニューヨーク・ヤンキースやダラス・カウボーイズが典型的——とは異なり、絶対的なオーナーが専横的にふるまえるというスタイルではない。

サポーターが顧客でもあり、株主的な存在でもあり、運営の主体者でもあるのだ。地方自治体に似たシステムとも言える。必然的に、会長や副会長といったマネジメントメンバーは、常に彼らの期待を知り、それを実現することが強く求められることになる。

現在、バルサの運営は順調で、2008-2009シーズンの売上高は3億6590万ユーロと、レアルに次いで世界2位となっている。入場料、放映権、マーケティング(スポンサー収入、関連グッズ販売など)という3つの収益の柱がほぼ同じ規模の売上げとなっているのもバルサの特徴だ。これは、スタジアムの多くが公営で設備投資があまりなされず、入場料収入が右肩下がりのイタリア・セリエAなどとは非常に対照的である。ちなみに、バルサの本拠地である「カンプ・ノウ」は10万弱の座席数を誇るが、そのうち85%程度は、シーズンチケット保有者に割り当てられる。この高い比率は、それだけ熱狂的なサポーターを持つ証拠でもある。

カタルーニャの人々の誇り

レアルとの「エル・クラシコ」が非常に盛り上がる背景には、単に有名ビッグ・クラブ同士の対戦というだけではなく、マドリードが代表するスペインの本流と、バルセロナが存在するカタルーニャ地方の地域間、民族間の戦いという要素がある。カタルーニャ地方では独自のカタルーニャ語が話され、また、1992年のバルセロナオリンピックでは、バルセロナが非常に盛り上がる一方で、マドリードなどは盛り上がりに欠けたという事実もある。両チームの対戦は、日本の「巨人対阪神」のような見方では語れない。むしろ、韓国の代表チームが、日本代表チームに対して抱く感覚に近いと言えるかもしれない。

バルサのモットーが「クラブ以上の存在」であるのにはそうした背景がある。カタルーニャの人々にとって、バルサは、マドリード、そしてスペイン全体に、自らの存在感を見せつけ、また誇りを持てる、民族的な拠り所でもあるのだ。

そのバルサも、21世紀初頭は経営難にあえいでいた。収入は欧州クラブの中でも十数番目に甘んじ、また、選手の人件費の高さが収益を圧迫していた。成績も、リーガ内で、4位、4位、6位と低迷し、「銀河系軍団」と呼ばれたレアルに大きく水をあけられていた。

そうした中で、2003年に新たに就任したジョアン・ラポルタ会長とフェラン・ソリアーノ副会長(実質的な最高責任者)は、ソシオにどのような価値を提供すべきかを徹底的に考えた。そして出てきた答えは、以下のようなものであった。

1)巧みな試合運びで勝利し、興奮を与えられるチームにすること

2)ソシオ、そしてカタルーニャの人々の代表として誇りを持てるチームにすること

結局は、カタルーニャ地方における「クラブ以上の存在」という原点に回帰し、バルササポーターに感動できる試合を提供することが、あらゆる収益の源であることを再確認したのである。これはサッカーという、極めて情緒的価値の比重が大きく、かつ地域密着型のサービスを提供する組織として、非常に賢明な判断だったと言える。

ヨハン・クライフの遺伝子

急に感動的でスペクタクルなサッカーを実現することは難しいが、バルサには1つの大きな資産があった。80年代後半から8シーズンにわたって指揮を執り(96年に健康上の理由で辞任)、1991-1992には欧州チャンピオンの栄冠をもたらしたヨハン・クライフの哲学である。ヨハン・クライフは、1974年のW杯で世界を驚嘆させたオランダ代表チームのスペクタクルな「トータル・フットボール」の文字通り大黒柱であった。また、現役選手としてもバルサで長年プレーをした経験を持つ。

クライフの語録に次のようなものがある。

「美しく敗れる事を恥と思うな、無様に勝つことを恥と思え」

「1-0で勝つより、4-5(2-3という説もある)で負ける方が良い」

「月並みなやり方をするくらいなら、自分のアイデアと共に心中した方がましだ」

このクライフ流のサッカーを復活させ、ソシオが誇りに思えるチームを作ることが、バルサ復活の鍵になると考えられた。そこでバルサは、クライフ流トータル・フットボールの流れをくむ元オランダ代表選手、フランク・ライカールトを監督に据えた。ライカールトは、選手時代の実績に基づく説得力と、巧みな指導であっという間にバルサをトップクラブへと導いていったのである。

そしてその陰には、ソリアーノ副会長の巧みな交渉やクラブ運営があった。チームを強化できる選手を巧みに獲得する一方で、出来高の比率を上げることで、財務的な健全性も高めていったのである。ちなみに、ソリアーノ副会長はMBA取得者であり、サッカー界に科学的マネジメントを持ち込んだ人物としても知られることになった(その後、航空会社の会長に転身)。

科学的なマネジメント手法を用いながら、提供するサービスの情緒的価値を理解し、それを最大限に発露し、キャッシュ化する方法を模索する。しかも、その際に、組織に横たわる理念、DNA、歴史的積み上げを理解し、最大源に活用する。良き理念やDNA、歴史を持ちながら、次代の波に消えてしまう組織が多い中、バルサの復活は大きなヒントとなるのではないだろうか。

(本コラムの執筆にあたっては、『ゴールは偶然の産物ではない』(フェラン・ソリアーノ著、アチーブメント出版)を参考にした)

PS.本稿の執筆のまさに最中に、バルサが本田圭佑選手に移籍金14億円を準備したというニュースが飛び込んできた。今後の動向が注目される。

*Twitterでいろいろ発言しています。https://twitter.com/TYS_Shimada

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