成熟期迎える米国市場から考える、国内ソーシャルアプリ開発者の3つの戦略 

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テクノロジーベンチャーが直面する課題や成長のステップについて紹介する本連載。第1回〜6回では、各業界でのセオリーや成功要因を事例とともに紹介してきた。今回からは、「各業界で今何が起きているのか、今後何が起こるのか」を意識して、各業界でベンチャーが勝ち抜くための戦い方について考えていく。

まず今回は、熱気が高まるソーシャルアプリ業界を見てみたい。2009年8月にはmixiのPC版が、10月にはモバイル版がそれぞれオープン化し、2010年年始にはモバゲータウンもオープン化。GREEも6月にオープン化すると発表している(CNET4月21日掲載時、※GREEは6月29日に外部の開発者がソーシャルアプリケーションを開発できる「GREE Platform」において、モバイル版ソーシャルゲームを公開)。これまで「2〜3年で1000億円」と言われていた市場規模についても、「1000億円は通過点に過ぎない」との見方も出てきた。モバイルを中心とした日本のソーシャルアプリ市場はまさに“ゴールドラッシュ前夜”の様相を呈している。モバイルとPCの差こそあれ、米国では2007年5月にFacebookがオープン化し、進化の先を走っている。ゴールドラッシュの果てにある市場環境、そしてその中でソーシャルアプリプロバイダー(SAP)の戦い方を検証していく。

米国ソーシャルアプリ市場の現状

米国のソーシャルアプリ市場は、成熟期に差し掛かかっていると言っても良いだろう。FacebookとMySpaceのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のスタンダード争いも、Facebookの圧勝で決着がついている。2010年3月時点でFacebookの月間アクティブユーザー(MAU)が4億人なのに対し、MySpaceは登録ユーザー総数でも2億人強だ。またFacebook上のソーシャルアプリ市場は2009年時点で1000億〜2000億円の規模にまで達したと言われている。

SAPについても、群を抜くユーザー数と収益で圧倒的なリーダーとなったZyngaに加えPlayfish、Playdomが「Big3(3強)」と言われている。2009年の売上でZyngaが200億円程度、Playfish、Playdomが数十億後半〜100億円規模にまで達している。また、Facebook上のSAPとmixi上のSAPでユーザー数の分布を比較すると、下図の通りFacebookでトップSAPへのユーザーの集中がより進んでいるのがわかる。

そして、勝ち組のSAPは2009年末に大型資金調達を立て続けに実施し、いよいよ規模がさらなる規模を呼ぶ段階に入っている。Zyngaが180億円、Playdomが43億円の調達し、積極的に買収を仕掛けている。また潤沢な資金力をもとに大量の広告費を投入しており、小さいプレーヤーが追い上げにくい構造を作りだしている。たとえば、Zyngaは2009年に60億円以上を広告費として使っている。

一方で、ソーシャルアプリには他業種からの視線も熱い。世界最大のビデオゲームメーカーであるElectronic Arts(EA)が2009年11月に400億円でPlayfishを買収したほか、Microsoftも新進気鋭のCrowdstarに200億円で買収交渉に入っていると伝えられている。では、どのような過程をたどりこのような活況な市場に発展したのだろうか。

米国SNSプラットフォームの覇権争いとオープン化

2006年6月時点では、MySpaceは5140万MAUを誇っており、一方でFacebookは1400万MAUという状況だった。MySpaceがユーザーを自社に囲い込むべく外部SAPのアプリの機能を限定し、“クローズ化”の方向に舵を切ったのに対し、Facebookはその真逆の施策を採る。2007年5月からは積極的にAPIを開放するなど“オープン化”を推進していった。

その結果、2008年5月にはFacebookが1.2億MAU、MySpaceが1.1億MAUと逆転する。そして、2010年3月には前述の通りFacebookは4億MAUとなり、SNSのスタンダードとしての地位を揺るぎないものとしている。オープン化の推進によって外部SAPがFacebookに集まり、外部業者の魅力的なアプリがユーザーを呼び込むという好循環に入ったのだ。こういった米国での状況もあり、日本のSNSもオープン化政策が成否を分けることを十分承知している。そこでmixiのオープン化を契機に3大SNSがすべてオープン化の方向に舵を切ったのだ。

米国ソーシャルアプリ市場の成熟化への道筋

次に、米国でのソーシャルアプリがどのように成熟していったのかを、「黎明期」「勃興期」「成長期」に分けて紹介する。
黎明期
Facebookのオープン化直後は、「コミュニケーションアプリ」全盛の時代で、RockYouやSlideがメインのプレーヤーであった。Facebookのマイページトップで、友達の情報などが更新されていく機能である「Wall」を拡張するRockYouの「Super Wall」やSlideの「FunWall(現FunSpace)」、特定の友達を抽出してコミュニケーションを促進する「Likeness」(RockYou)や「Top Friends」(Slide)、ミニメッセージの「X Me」(RockYou)や「SuperPoke」(Slide)などのアプリが人気トップ10の大半を占めていた。とにかくPVを集めて広告でマネタイズするというモデルか、規模化可能なマネタイズのモデルが見えていないアプリばかりという時代であった。

勃興期
マネタイズのモデルが見えない状況は、2008年後半Zyngaが「Texas HoldEm Poker」「Mafia Wars」といった、アイテム課金型の「ソーシャルゲーム」が登場したことから破られる。Zyngaは、1人で楽しめる遊びゲームの対戦モードや得点ランキングなど、表面的に友達と絡むだけでなく、友達の多さが自分の強さに直結する、友達とのやり取りでアイテムを獲得するといったゲームシステムそのものにソーシャル性を組み込むことで、爆発的にユーザーを増やしていった。また、ゲームというエンタテイメントの特性上、ユーザーへの接着が高頻度かつ長時間となり、アイテム課金による収益化を可能とした。Texas HoldEm PokerとMafia Warsは2009年6月にはFacebookのランキングで、各々1300万MAUと1200万MAUで1、2位を独占した。以降Zyngaは、規模にものを言わせ、勝ち続ける戦略を採っていく。

成長期
2009年6月時点でZyngaはFacebookにおいて計5000万MAUを誇っており、ランキングトップ10に3本がランクインしていた。そして、同月にはメガヒットゲーム「FarmVille」をリリースし、初月で500万MAUを獲得する(2010年3月には8200万MAU)。Zyngaの成功には、ゲームの品質というよりは規模をテコにした戦略が効いている。たとえば、競合がヒットゲームを出すと、直ぐに“オマージュ”して類似ゲームをリリースする。そして、既存ゲームの膨大なユーザーに誘導をかけ、あっと言う間に規模を逆転するのだ。Playfishのレストランゲーム「Restaurant City」のヒットを受けた数カ月後には「Cafe World」をリリースし、1カ月未満で2800万MAUを獲得。1800万MAUのRestaurant Cityを抜き去り、一気にランキング2位にまで踊り出た(1位はZyngaのFarmVille)。また、体力にモノを言わせ大量の広告費を投入し、節操がないと言っても過言でないほどにユーザー獲得に励んでいる。これが好循環を産み、成熟期に差し掛かった市場の中で独走状態を築いている。

日本のSAPの戦い方

筆者は現状の日本のソーシャルアプリ市場は、ちょうどコミュニケーションアプリがPVを集める勃興期から、ゲームによって規模化、収益化する成長期に差し掛かっているところと見ている。では、今後市場の成熟化が急速に進む中、SAPはどのように戦えば良いのだろうか。米国の代表的なSAPを事例に、ポジショニングごとに日本のSAPが採れる戦略を考えてみたい。「ターゲット市場(メインなのかニッチなのか)」および「優位性 (強いのか弱いのか)」によって規定されるポジショニングによって、「リーダー戦略」「差別化戦略」「すみ分け戦略」の3つの戦略がとり得ると考えている。

リーダー戦略:Zynga
現状で多少なりとも他社に先行しているSAPは、Zyngaのリーダー戦略が最も良い見本になるだろう。Zyngaの戦略についてはすでに紹介したため、ここでは詳細を省くが、リーダー戦略で重要になるのは「規模をテコにした更なる規模の拡大」と言える。Zyngaは事業の利益や資金調達で得た潤沢な資金力を生かして、“体力勝負”の戦いをしている。60億円以上の大規模な広告費や度重なる買収で、ユーザーベース、ゲーム開発キャパシティ、収益力を拡大している。またCafe Worldの事例で見てられるように、競合ヒットゲームの類似ゲームを開発することで確度高くヒットを出し、同時に競合を潰しにかかっている。

現在の日本市場はまだまだ戦いの火蓋が切って落とされたばかりで圧倒的なリーダーは存在しない。現状での主要SAPにとって、いかにZyngaのような好循環にいち早く入るかが鍵だろう。リーダーとなりえるSAPが一度良い循環に入ると、その牙城を突き崩すのは難しく、その他のプレーヤーは差別化を図りながらある領域で一点突破を図るか、戦いを避けてすみ分けする中でチャンスを伺うしかなくなる。

差別化戦略:CrowdStar
差別化戦略は、リーダーが大きな存在感を誇っているメインの市場で戦う中、独自の価値を築きリーダーに対抗する、いわば後発組が勝ち組に食い込むための戦略だ。日本でもこれから主要SAPの一角に食い込もうというプレーヤーにとっては有効だ。米国CrowdStarは今でこそFacebookで4位に位置するが、初めてランキングに登場したのは2009年11月とかなりの後発だ。Zyngaをはじめとした上位3社が勝ち組の座を着々と固めていく中、卓越したゲームの開発力や運営力、低コストオペレーション力、そしてなによりゲームのユニークさで差別化をしていった。

大ヒットを記録したゲーム「Happy Aquarium」は実はCrowdStarの4本目のアプリとなる。1本目は戦争シミュレーションの「World War2」で、課金や運営のノウハウを学んだものの、規模は拡大しなかった。次にクイズゲームの「Know-It-All Trivia」をリリースし、ソーシャルグラフを活用し、口コミでユーザーを広げるノウハウを学ぶが、これも収益化しなかった。そして、3本目の「Save the Reef」ではバイラルが効き、課金もできるというソーシャルアプリの王道を狙ったが、泣かず飛ばずの結果となったが、ようやく4本目のHappy Aquariumで規模化と収益化の双方を実現した。

同社の戦略から学ぶべきは、ヒットが出るまで着実かつ徹底的にバイラルや課金、運営、バックエンドの技術といった競争上必要なノウハウを磨いた点だ。また、ヒットが出るまでは徹底した低コストオペレーションを追及した。人員総数はヒットが出るまでは10人程度、Happy Aquariumがヒットした時点でも20人程度だった(Zyngaは1アプリで600人程度)。ユーザー獲得も、一部で「スパムに近い」と言われるほど徹底してバイラルを活用し、広告費はほとんど使わなかった。

また、Happy AquariumはFacebook初の水槽シミュレーションということもあり、その革新性と口コミの仕組みが相まって非常に品質が高いゲームとなった。結果としてリリースから2カ月で2200万MAUを獲得するという快挙を達成しており、その後も観光・島シミュレーションの「Happy Island」などオリジナリティの高いゲームを出している。

一度ヒットアプリが出ると、後はほかの自社ゲームにユーザーを流しこめるので、勝ち組の好循環に入ることができる。日本でも出遅れたSAPは、低コスト体制で着々とノウハウを蓄えながら、ヒット待ちをすることで、虎視眈々(たんたん)と勝ち組へと駆け上る機会が伺える。

すみ分け戦略:Playdom
すみ分け戦略は、リーダーが主戦場としているメインの市場を避け、ニッチの市場の覇者を狙うというものだ。特に日本では、mixi、モバゲータウン、GREEと相応の市場規模が期待できるオープンプラットフォームが3つあるため有効だろう。ただし、プラットフォーム間の競争動向や新プラットフォームへの参入は慎重に検討する必要がある。また、プラットフォームごとの特性の違い(ユーザー属性、ゲームへの慣れ度合、課金性向など)に合わせて作り込むことも重要だ。

すみ分け戦略で成功した典型例はPlaydomだ。同社はそれまではデータを公表していなかったが、2009年3月に突如Myspaceで2200万MAUを突破し、ナンバーワンのSAPになったと発表した。ZyngaがFacebook上でSlideやRockYouとリーダー争いをしている間に、MySpaceに集中し、ひそかに地盤を固めていた。

2009年10月時点でPlaydomはMySpaceで5200万登録ユーザー(月間アクティブ率を50%程度と想定すると2600万MAU程度)。FacebookにおけるZyngaの1億2800万MAUには遠くおよばない。だが、2009年の売り上げで見るとPlaydomは60億円程度、Zyngaは200億円程度と言われており、ユーザー数ほどの差はない。

MySpaceは音楽を中心としたエンターテインメント性でFacebookと差別化を図っており、また可処分所得が高い米国ユーザーの比率が高いため、Facebookよりも課金性向が高く2倍近くあるとも言われている。PlaydomはZyngaがFacebookを主戦場としている隙に、数は小さいが課金効率が良いMySpaceを制覇することに集中していたのだ。そして、前述の「MySpaceナンバーワン宣言」をした2009年3月以降はFacebookにも進出を始めた。当初は苦戦していたものの、「MobSters 1」と「MobSters 2」でマフィアゲームに集中し、続いて「SocialCity」と「Towner」を持つMetroGamesへ出資して、街シミュレーションに集中。さらにMetroGamesとThree Melonsへの出資、買収によって、Zyngaの人気が手薄なアルゼンチンに集中するといった差別化戦略を採っている。その結果Facebookでも徐々にランキングを上げ、2010年3月時点では3600万MAUでランキングを7位まで到達している。

1つのプラットフォームに集中しリーダーのポジションを築き、そこから生み出されるキャッシュと資金調達によって、ほかのプラットフォームに参入する——この戦略はプラットフォームが3つある日本ではおもしろいだろう。ユーザー属性や課金性向的にFacebookに近いmixi、逆にMySpaceに近いモバゲー、そして6月にオープン化をひかえるGREE(CNET4月21日掲載時、※GREEは6月29日に外部の開発者がソーシャルアプリケーションを開発できる「GREE Platform」において、モバイル版ソーシャルゲームを公開)と、リーダーを追いかける立場のSAPにとって、プラットフォーム戦略は非常に重要となってくる。

国内予選の後の世界本戦に向けて

さて、今までは各国ごとに閉じた話として、SAPの戦略を考えてきた。しかし、遠からずグローバルレベルでの競争は始まる。日本で勝ち組となったSAPは海外での成長機会を求めるようになる。国内市場でも、海外大手SAPは日本のSNSへの参入機会をうかがっており、2009年にはFacebookが日本法人を設立して日本攻略を本格化する兆しを見せている。

また、AndroidやiPhoneなどのスマートフォンが世界規模でモバイルインターネットの標準になった際、PCでのソーシャルゲームの進化、いわば“世界のFacebook生態系”と日本が独自仕様に進化してきた“日本のSNS生態系”との間での争いも始まる。以前にも述べたが、このようなグローバルレベルでの競争は日本のSAPにとって国内市場への脅威であると同時に、世界展開を図るまたとない機会である。

日本のSAPがその絶好の機会をとらえるためには、日本ならではの強みであるモバイルにおけるユーザビヘイビアの理解やモバイルに最適化されたゲームデザインを徹底的に磨くと同時に、スマートフォン対応の技術ノウハウをいち早く習得し、モバイルSNS間のグローバル競争の動向に目を凝らしておく必要があるだろう。筆者もベンチャーキャピタリストとしてぜひ日本のSAPがグローバル本戦で勝ち抜くための一助になりたいと考えている。

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