“日本発グローバル”を達成するために必要な5つの成功要因 

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ゆで蛙に陥りやすい中途半端に大きな国内市場、そしてそれに対応する形で自らの限界を設定してしまっている企業のマインドにこそ、グローバル化を阻んでいる原因があるのではないだろうか。今回は、なぜ今グローバル展開を再考すべきなのか、そしてその際のKey Success Factors(KSF:成功要因)をどう考えるのかについて、ソーシャルアプリでの事例を交えながら「日本の競争優位性」「よりフラットになったグローバル市場」「今このタイミング」というポイントで考察したい。

日本の競争優位性

日本の競争優位は、iモード以来のモバイル・インターネット生態系の中で培われてきたサービスモデルとコンテンツにある。キャリア主導で世界随一の品質の通信網が敷かれ、政策的に手数料が抑えられたキャリア課金の仕組み(海外では手数料が50%以上ということも当たり前)やコンテンツ事業者を支援するツールやミドルウェアが導入された。その結果、世界に先駆けてアイテム課金やかざすクーポンなどの革新的なサービスモデルが生まれ、コンテンツ事業者も育成された。

海外とは通信規格や課金インフラなど、異なるものは多いが、サービスモデルそのものやコンテンツ自体を転用することは可能だ。また、任天堂のようにプラットフォームとコンテンツをセットにした海外展開もおもしろいいだろう。

海外でも日本のモバイル事情は非常に注目されている。筆者が海外のソーシャルメディアやソーシャルアプリプロバイダー(SAP)と話をする際も必ずと言って良いほど日本の状況や参入するためにはどうしたら良いかと相談を受ける。また、海外大手ベンチャーキャピタル(VC)からも日本の先進的モバイル企業を海外展開する際は、ぜひ投資検討をさせて欲しいと言われている。ガラパゴスは決して進化の行き止まりではなく、一つの進化の究極形として海外展開が可能な要素を大きくはらんでいるのだ。

よりフラットになったグローバル市場

グローバル市場がフラットになり、あたかも一つの市場のようになる」——言い古されたコンセプトだが、リアルでは国をまたぐ際の追加的な固定費が大きく、市場が完全にフラットになったとは言い難い。しかし、ネットではディストリビューションチャネル(SNSなどのプラットフォーム)が先行する形でグローバル展開している。

ソーシャルアプリ世界最大のディストリビューションチャネルの米Facebookでは3.5億MAU(Monthly Active User:月間アクティブユーザー)、70言語以上(2009年12月現在)のリーチを誇っている。また異なる仕様のプラットフォームをまたいでアプリを提供するポーティングコストも比較的小さく、Googleが開発した「OpenSocial」などの標準仕様も策定されていることから、リアルに比べると圧倒的低コストでグローバルディストリビューション体制が構築できる。中国の大手SAPであるRekoo Mediaなどは、ソーシャルゲーム「サンシャイン牧場」を、Facebookをはじめ、中国の51.com、日本のmixi、ロシアのVKなど数多くのプラットフォームで展開している。

今このタイミング

日本のサービスモデル、コンテンツの領域での競争優位性は確かだが、逆にその優位性の賞味期限もせいぜいあと1、2年程度だろうという危機感もある。PCで勝ち組となった海外ソーシャルメディアやSAPはすでに次を見越してモバイル戦略の検討を始めているし、大手VCでも日本のサービスモデルを海外の市場でどうすれば適用できるか検討を始めている。さらに、海外ではiPhone対Androidという日本ではまだ表面化していない対立軸の中で、モバイル・インターネットの標準争いが展開されている。

このまま放置すれば彼らが別の進化系の究極形にたどり着くのも時間の問題だろう。90年代PCで日本国内標準PC-98が海外から入ってきたDOS/Vに絶滅に追いやられたのと同様に、日本のモバイル業界が海外標準に規模の経済にモノを言わされ駆逐されてしまう——そんなシナリオも見えてくる。では、グローバル展開をするためには何か必要なのか?5つのKSFを見ていきたい。

グローバル展開のための5つのKSF

1.グローバルレベルでのトレンドの大局観

世界中の先進市場で顕在化している変化の兆しを組み合わせることで、業界の進化の方向感の仮説を形作ることが可能だ。そして、進化の分岐点を継続的に観測していくことで、仮説をアップデートし自社の戦略を素早く変化に対応させていくことができる。

例えば、現状の「Open SNS+ソーシャルアプリ」のブームの兆しの断片は随所に見られた。家庭用ゲーム市場の成熟化、PCオンラインゲームにおけるアイテム課金モデルの登場、モバイル上でのSNSの立ち上がり、米国PC SNSにおけるオープン化政策の成否によるFacebookとMySpaceの逆転。

ここで重要なのは仮説が正確に未来を占ったかではなく、一本筋の通ったストーリーとしての仮説を自社の中で持つことであり、仮説の立案、検証というPDCAを繰り返し回していくことで、世の中の変化に対応していくことである。現在であれば米国のPC向けSNS上での大手SAPのぶつかり合い、スマートフォンの覇権争い、日本のモバイルSNS上でのソーシャルアプリの立ち上がりなどから、自社なりのView of the World(世の中の大きな方向感)の仮説を作ることができるのではないだろうか。

2.初期からグローバルを意識した戦略

直近の戦略を立てるにあたり目先の国内市場で勝つことだけを考えるのと、将来的なグローバル進出を見据えるのとでは、戦略の内容も、グローバル展開を図る際の容易度も変わってくる。では、グローバルを見据えた戦略とはどのようなものだろうか。

まずは、グローバルで普遍的なニーズをターゲットとして自社製品やサービスを作り込むこと。例えば、グローバル展開を意識している海外SAPと議論していると、マズローの5段階欲求(生理的欲求、安全、帰属、承認、自己実現)やキリスト教の7罪(傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲)など人の根源的欲求を刺激、充足するアプリ設計が重要だという話が頻出する。

また、グローバルのリングで通用する自社ならではの競争優位性に磨き上げることも重要だ。自社の強みにのみ徹底的に集中し、その強みをてこにグローバルを攻め、それを更に強化する。例えば、mixiオープン化前は日本だけを見れば牧場系アプリはオープンスペースだった。

しかし、世界に目を向けると大手SAPであるZyngaの「FarmVille」(2009年12月現在7000万MAU)など強大なユーザーベースとブランドを誇っているアプリが何本もあった。一方で、ゲーム性の高い領域(育成、シミュレーション、RPGなど)は世界でもオープンスペースになっていた。世界を目指すためには、いわゆる牧場系アプリよりも、自社の強みと合致するのであれば、ゲーム性の高い領域で徹底的にエッジを立てていった方が有利だろう。

3.徹底したオペレーションエクセレンス

グローバルを舞台にした競争環境では熾烈な情報戦とオペレーション勝負が繰り広げられている。それを征するには、あらゆる局面で高速でPDCAのサイクルを回していくオペレーションエクセレンスが重要になってくる。日夜、世界のどこかでベストプラクティスが開発され、分析、改善されている。例えば、2008年11月牧場系アプリの先駆けとなる「Happy Farm」が中国で登場してから約1年間が過ぎたが、牧場系アプリは“オマージュ”され、改善されながら世界中に広まっている。

Facebookアプリのゲームカテゴリトップ30のうち6本(2009年12月現在月間アクティブユーザー数、出所:Inside Facebook)、mixiアプリトップ10のうち2本(2009年12月現在累積登録ユーザー数、出所:mixiアプリWatcher)が牧場系、ゲームシステムが同じレストラン系なども含めるとさらに数は増える。オペレーションのレベルでは激しい改善合戦が繰り広げられ、トラフィック獲得・回遊、ユーザーのエンゲージ、マネタイズにおいて競合を研究しながら、自社の創意工夫を加えてしのぎを削っている。もはやオペレーションエクセレンスは差別化要因ではなく、参加するための必要要件とすら言える。

4.グローバルコミュニケーションスキル

単純な語学力という意味ではなく、グローバルなビジネスシーンでのコミュニケーションのプロトコル(流儀)にのっとることが重要となる。

言いたいことをまず最初に伝え、「Yes」「No」という意思をはっきりとさせる。日本的なやわらかな遠回しな表現や謙遜(けんそん)は外国人にとってはメッセージをあいまいにしているだけである。一方で、本質論として、Win-Winのスキームを準備することが重要だ。ビジネスコミュニケーションにおいて普遍的な話かもしれないが、相手にとって何が嬉しいのか、自社はどのように相手に価値を出すのかを明確にしておくことが長期的かつ成功する関係性のためには必須だ。

日本のベンチャーでは「英語ができないから」と引っ込み思案になるケースが多い。しかし、言葉がつたなくても自分の意思をしっかり伝え、相手にもGiveできるスキームをお土産として準備していけば、ハードルはそれほど高くないものである。特に、モバイルのサービスモデルやコンテンツおいては、海外勢も日本から学ぼうとしている意思が非常に強い。

5.グローバルマインドをもったチーム

最後にはなるが、もっとも重要なのは経営チームがグローバルの視座を持つことだ。シリコンバレーでは中国系やインド系、ラテン系アメリカ人など多様なバックグラウンドをもった人種がベンチャーのスタートアップに参加する。すると必然的に中国やインド、ラテンアメリカ市場への展望がを視野に入れることになる。日本ではシリコンバレーのように多様な人種によるチームを作ることは難しい。だからこそ、「中長期的にはグローバル展開をする」という確固たる意思を持つことが重要になってくる。

筆者自身、ベンチャーキャピタリストとして、日本のベンチャーのグローバル展開をサポートし、日本発の世界企業の輩出をサポートすることが使命だと感じている。私達自身の海外事業展開支援力は勿論、各国の戦略提携先候補となる事業会社やVCとの関係性を強化しており、グローバル展開のためのブースターとなりたいと考えている。次回は、グローバル展開を強く意識しているビデオゲーム、ソーシャルアプリメーカーのQ Entertainmentを事例にグローバル展開のKSFをより具体的に見ていきたい。

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