成長の踊り場を迎えるベンチャー企業--飛躍に向けて求められる「逆算の経営視点」 

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2008年から続く不況の中、ベンチャー企業が成長し続けるためにどういった経営戦略や成長戦略をとる必要があるのだろうか。この連載では、経営支援(ハンズオン)型の投資でこれまでに多くの企業の成長を導いてきたグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)が投資の実経験をもとに、そのノウハウを解説していく。

今回は第1回目の連載ということもあるので、本題に入る前にGCPの投資について、少し概括的な話から始めたい。

新規投資の考え方

不況下と言われる現在も、我々は依然として積極的な新規投資を継続している。現在約400億円弱のファンドを運用しており、あらゆる業種・ステージの会社が投資対象とし、「日本発(初)世界初」「30年、50年、100年続く会社」の創出を目指している。

キャピタリストの要件としては、事業・産業への理解・洞察を重要なCapability(ケイパビリティ)として認識している。1社あたりの平均投資金額は3〜4億円、投資実行後は、キャピタリスト自身が投資先の経営メンバーの一員として参画し、資金調達にとどまらず、売上成長、利益・キャッシュフロー増大、経営管理システムの構築、IPO・アライアンス支援など、経営陣と共に日々汗をかいている。

我々は投資する際、「市場性」「競争優位性」「経営チーム」の3点を重要視している。もちろん業種・業界によって異なる部分もあるので一般化するのは難しい部分があるが、具体的なポイントを列挙したい。

■市場性
・市場規模が大きい、もしくは濃い。そして成長している市場であること(市場のとらえ方が大事)。現状、顧客に明確に「痛み」や「不便さ」があること。
・「あったら便利」ではなく、「必要不可欠」な技術・製品・サービスであること。

■競争優位性
・技術やノウハウ、製品のパフォーマンスなど、何かしらの要素が業界で「1番」があること、もしくは「1番」になり得ること。
・大きい市場や成長している市場に身を置き、明確な強みを維持しつつも、汎用性高く、面としてカバーできる可能性があること。
・技術的な差別化要素やコストアドバンテージなどのコンセプトに止まらず、その優位性を確実にするオペレーションの質の高さや仕組みが存在すること(実行力が大事)。

■経営チーム
・「人好き」であり、社内外に積極的にコミュニケーションをとれること。
・1人の経営者による経営ではなく、強みや弱みを補完し合う、経営「チーム」が組成されていること。
・経営チームとして、「私の利益」ではなく「公の利益(実現したい世界観)」に対して強い思い入れがあること。

上記のポイントは一般的なことかもしれないが、成長している分野や市場における技術・製品・サービスの栄枯盛衰のスピードは速く、また、人を人が評価するなどということは極めて困難な要素であるので、機械的に「○」や「×」を付けて投資の判断をするわけではない。

最終的には、各キャピタリストが上記のポイントに留意しながら、「経営チームを人として信頼・共感し、自分自身が彼らを大好きかどうか」「経営陣・会社に何かがあっても、自分自身が経営陣として代わりを務めたい、務められると思うか」——というような点で最終的に意思決定していたりする側面もある。

“成長の踊り場”からの飛躍

さて、前述のポイントを加味しながら、本題に入りたい。ほとんどの企業が、我々の投資以前・投資後にかかわらず、「成長の踊り場」に直面するはずだ。もしかすると経営者は日々会社をどのように成長させていくかを1番の悩みとして、思案しているのかも知れない。

しかしながら、私自身それを解決する方法として、何か特効薬があるとは思っていない。有り体に言えば、「ヒト・モノ・カネ・情報の(常時)最適配分」という陳腐な表現になってしまう。もう少し柔らかい表現をすれば次のとおりとなる。

・常に、実現したい、すべきと考える世界観のイメージを見失わない。
・当たり前のことを当たり前のこととして取り組む。
・好機を自ら呼び込む受け皿として体勢やポジションを常に整えておく。
・好機が訪れたら、徹底してそれをやり遂げる。

こういったことがポイントではないかと思っている。あるカンファレンスで、我々の投資先でもあるグリー代表取締役の田中良和氏が「現在価値の最大化は将来価値の最小化につながりかねない」という話をしていたが、現状でなく将来を見据えるべきという考えは、とても示唆に富んだ発言だと思う。

こうして見ると、「結局成長は外的要因に依存しているのか?」という指摘を受けるかもしれないが、上記に挙げた4点は、どれも簡単なようで、とても難しい。しかし、難しいこと、他人がやりたがらないことを当たり前のようにやることこそに価値、差別化要因が生まれるのではないかと考える。次項からは“成長の踊り場”からの飛躍に向け、私が実際の投資先企業で行った取り組みをご紹介したい。

「逆算の経営」の視点

1.事業ポートフォリオの再構築
まず、見失いがちな自分達の「強み」を再認識する。明確なレベルに落ちなければ、事業という枠を取り外して、より具体的な表現になるまで考え抜く。また、ビジネスモデルという観点でも、「対価を誰からどのようにもらうのか」「経営およびキャッシュフローの安定性の観点で、どうしたら継続的成長を担保できるのか」を明確化する。

2.分かり易い方針(KPI)の策定・徹底した繰り返し
成長を続けるベンチャー企業は、動きが激しい市場に身を置き、一定の強みを持っている。それゆえに、理論上いろいろな事業への参入が可能になったり、研究開発をしてみたくなったりする事が多いため、意外とシンプルな方針を策定するのは簡単ではない。しかしながら、全社員までとは行かないまでも、基幹社員が一枚岩で徹底的にやり抜くためには、一言で表現できる方針を打ち出すことが非常に重要となる。

具体的には、「○○で日本一になる」「新規獲得会員/クライアントは○人/○社」「販売促進費/研究開発費は○○円内に収める」「トップ○クライアントの○%を獲得する」「月次のキャッシュバーンは○○円以内で経営する」など、いくつかの方針(KPI:Key Performance Indicator)を設定することが重要になる。これにより、少ない資本の中での経営の安定性を担保しつつ、次の成長の種を発掘することを両立させることを目指す必要がある。

3.予算策定の明確化・短サイクルでのローリング
上記方針を反映した形で予算に反映させていく。特にボラティリティー(変動性)の高い事業の場合は、予め経営資源の投下方針の枠組みを設けることが大事になる。先が読めないような先行投資型事業に関しては、マイルストーンを設定し、撤退基準を決めておくのも重要だろう。

また、一度策定した予算は、事業の進捗に合わせて、短いサイクルで軌道修正していくことが、策定すること以上に大事である。

4.経営判断に必要な情報インフラの整備
一方で、必要な情報が整備されていないと正確な意思決定ができなくなる。特に、方針に基づいたKPIに関しては、必ずモニタリングできる環境を早期に整備することが大事です。損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)、キャッシュフロー計算書(C/F)では追いきれない重要な指標に関しては、多少手間が掛かっても、情報を随時モニタリングできるよう情報インフラを整備し、迅速かつ正確な意思決定ができるような環境を整えなければならない。

5.経営チーム・Middle MGRの補強
資本力の少ないベンチャーでは、大枚をはたいて基幹社員を招へいすることは容易でない。一方で、ベンチャー企業の採用は、基幹社員から行わないと、結果的に現場の人財は路頭に迷ってしまい、適切に成長させることができないケースが散見される。

一番理想的なケースは、報酬やその他の条件そのもの以上に、その会社の理念や将来性、実現したい価値に共鳴し、現経営陣と同じ想いを共有できる人材に入社してもらうことだ。しかしながら、特にアーリーステージなどの会社では、たとえば最高財務責任者(CFO)のような専門性の高い職種を経営陣のネットワークだけでは十分カバーできない場合がある。こういった場合には、我々のネットワークの中から最適な人物を招く場合もある。

6.大規模クライアントや事業提携先などの紹介・ブリッジ
事業そのものの運営や技術などの深い知識に関しては、我々より経営陣の方が、専門性が高いことが多い。しかし我々も日々、さまざまなベンチャー企業や大手上場企業のキーマンと接点を持って、情報交換や勉強をし、良質な生態系の中でのネットワーキングに勤めている。その過程で、特にベンチャー企業が接点を持つのが難しい大手企業や、日常経営陣が接点のない産業で有りながら展開可能性の高いチャネルに関しては、適宜経営陣を紹介し、大きなプロジェクト進めたり、事業・資本提携につながるような関係性構築の触媒となったりするような企業間の橋渡しをしている。特に大手企業にとっては、主要株主として我々が名を連ねていることで、間接的な信用補完になっていることは少なくない。また、今後は海外の事業開発能力を我々が補完していくことも、求められると認識している。

全体に共通する視点として、我々ベンチャーキャピタルの1つの役割は、「『逆算の経営』というような視点で見ること」ではないだろうか。様々な企業の成功・失敗体験から、現在の状況から将来訪れるであろうアラームや機会を読み、早い段階でリスクを潰したり、機会を獲得したりできるよう経営陣とディスカッションを行う。

そして、当期、当半期、当四半期といった区分に分け、企業が成長するためには何を具体的に達成すべきなのかを将来に渡るストーリーの中で位置付ける。将来上場するにしても、資金調達するにしても、企業成長に関する分かりやすいストーリー性は非常に重要な要素である。

次回は、私の担当している投資先企業の経営陣とともに、「成長の踊り場」を越えるために行った取り組みなどをより具体的に紹介する。

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