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キリンVSサントリーのハイボール戦争!

投稿日:2010/02/18更新日:2019/04/09

「おやじくさい」ハイボール人気復活

「ハ〜イボ〜ル、ハ〜イボ〜ル♪」。ディズニー映画・白雪姫の劇中歌をナインティナインの岡村隆史が大航海時代風の帆船の上で高らかに歌うCM。キリン「世界のハイボール」だ。しかし、商品は「樽熟成ウイスキーソーダ」と「樽熟シェリーソーダ」。ちょっと待て。「ウイスキーソーダ」は確かにハイボールそのものだ。だが、「樽熟シェリーソーダ」はないだろう!と突っ込みを入れてみたくなる。……だが、この展開、実は根っこが極めて深いのだ。

ウイスキーを炭酸水で割ったハイボール。「おじさんが一人安居酒屋で飲む物」といったイメージを持っている読者もまだ多いかもしれない。実は、昨年復活したのだ。2009年12月2日付日経MJの記事「2009年ヒット商品番付」にランクインしている。

サントリーは一部のおじさんの飲み物だったハイボールの復権に成功した。ウイスキー「角瓶」は2009年の出荷量が前年比3割増の220万ケースに。ハイボールをメニューに載せる店が同4倍の6万店に増えたこともあり、業務用は2倍に膨らんだ。若者のファンも獲得し、缶飲料も登場。ウイスキー市場は98年以来、11年ぶりに拡大に転じる見通しだ。

若者の間でひそかに流行を始めていたハイボールに目をつけ、女優の小雪を起用したCMやハイボールサーバーを開発するなど、サントリーは拡販戦略に力を入れてきた。飲食店にとっても原価が安く利益率の高いハイボールは魅力的商品で、一気に普及。昨年10月には家庭で手軽に楽しめるよう350ミリリットル缶「角ハイボール」も上市した。

サントリーが火をつけたハイボール人気に、いち早く動いたのが、キリンだった。

シェリーで作ってもハイボール?

キリンが2月10日に上市した「世界のハイボール」を、Webサイトで商品を確認してみる。

アメリカケンタッキー州ウイスキー「樽熟成ウイスキーソーダ」・原材料:ウォッカ・ウイスキーとある。ウォッカがかなり気になるが、ケンタッキー州のウイスキーといえばバーボンだろう。バーボンのハイボール。これは、OK。

スペインアンダルシア地方シェリー「樽熟シェリーソーダ」・原材料:ウォッカ・シェリー……ちょっと待った!シェリーは、熟成酒精強化ワインだ。ウイスキーとは違う。

両商品を買って確認してみると、缶の印刷にウォッカとソーダでつくったクリアハイボールに、樽熟成したウイスキー(シェリー)を加えて仕上げましたとある。つまり、ウイスキーもシェリーも「フレーバー」に過ぎないという位置づけなのだ。

キリンは次のように述べる。

新ハイボールの提案:日本では、ハイボールとはウイスキーをソーダで割ったものという認識が一般的です。「キリン世界のハイボール」は本来のハイボールの意味であるスピリッツ(蒸留酒)をソーダやトニックウォーター等の炭酸飲料等のアルコールの含まれていない飲料で割ったものをご提案いたします。

えええぇぇぇ?と思い、Wikipediaを調べると、確かに、広義としてはスピリッツをソーダやトニックウォーターなどの炭酸飲料や、水、湯、フレッシュジュースなどアルコールの含まれていない飲料で割ったものを指す。日本ではウイスキーをソーダ水で割ったもの(ウイスキー・ソーダ)をこう呼ぶのが一般的、との記述がある。

キリンが仕掛けた罠なのか?

ハイボールがウイスキー以外でもOKだと困るのはサントリーだ。劇的大ヒットを遂げたハイボール。サントリーの缶入り「角瓶ハイボール」も売れている。飲み屋でもすっかり定着した。しかし、そのヒットもいつまでも続くわけではない。「次は何だろうねぇ?」と呑みの席でも噂されるようになっている。

サントリーの狙いは、とにかくウイスキー本体につなげることだ。2010年1月6日付日経産業新聞のインタビュー記事の中で、サントリー酒類の相場康則社長は、「今年はウイスキーにとって勝負の年。ハイボールで若者の関心をウイスキーに向けることができたので、今年はロックなど別の飲み方や『山崎』などの高級品も手に取ってもらえるようさらに販促活動に力を入れる」と話している。

サントリーにとって、ハイボールは「ウイスキーの炭酸割り」でなければならない。「スピリッツなら何でもいい」なら、今まで発信してきたメッセージと矛盾を起こす。これは、キリンが仕掛けた「理論の自縛化」の罠ではないか。リーダーが訴求してきたことと別の方向性を打ち出して、手出しができないようにすることを「理論の自縛化」という。同じアルコール飲料で言えば、今までビールの「コクや旨み」を訴求してきたキリンビールが、アサヒスーパードライの「ビールはキレ」という新たな価値観を打ち出されても、それに追随して同質化できなかったのが過去の例としてあげられる。

さらに、「ハイボール」の定義自体が広がり、豊富なバリエーション展開によって、さらにヒットする可能性があったとしても、サントリーは豊富な自社のウイスキーブランドにつなげなければ意味がない。むしろ、せっかくウイスキーに目が向きかけた消費者の視線をスポイルしてしまう。リーダー企業が強みとしてきた製品と共食い関係にあるような製品を出すことによって、リーダー企業に不協和を起こさせる「事業の共食い化」をキリンが仕掛けたとも解釈できる。

もちろん筆者の解釈は推測なので、両者は同じ土俵では戦っておらず、すみ分けているという意見もあることだろう。ただ、企業規模としては勝るキリン、ウイスキー市場ではリーダーのサントリー、両社は市場定義毎に攻守ところを変えて激しい戦いを繰り広げているのは確かだ。

キリンとサントリーの合併破談が伝えられたばかりだが、全く別の世界、時間軸で「世界のハイボール」は企画され、上市され販促も強化されている。経営統合という最上位の意志決定と遠い現場では、日々、淡々と、しかし火花を散らして戦いが展開されている。

※「理論の自縛化」「事業の共食い化」は、『逆転の競争戦略』(生産性出版)を参考にしました。

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