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働く動機を「内発×利他」にシフトする

投稿日:2010/02/16更新日:2019/04/09

人間は競争疲れ、刺激疲れしてしまう

まず、本記事の結論を先に書いておくと、働く動機を「内発×利他」にシフトすると……、自分が元気になる。自分が開いてくる。そして自分が社会とつながる。そして、そうした個人が増えることで社会は強くなる。

さて、働く動機について二つの軸で分類してみる。一つは「内発的動機と外発的動機」の軸。もう一つは「利己的動機と利他的動機」の軸。

まず一つめの軸について。内発的動機とは、自分の内側から湧き起こってくるもので、仕事そのものの中にそれを行う理由を見出すものである。他方、外発的動機は、自分の外側(他者)から与えられるもので、仕事の周辺に行う理由がある。

外発的な動機は、賞罰(アメとムチ)が典型的なもので、つまり、成果を上げれば金銭的な報酬や地位・名誉が与えられ、逆に成果を上げなければ尻を叩かれるといったような仕組みによって生じさせられる。また、その仕事は他人がカッコよく見てくれるとか、その資格を取っておくと採用する側が有利にしてくれるといったように、理由の起点が自分の外にあり、他者から意欲を焚きつけられる場合が外発的動機となる。

一方、内発的な動機は、仕事そのものの中に見出す面白みや楽しみをいう。そこに強い充足感を得ているので、それをやっていること自体が最大の報酬となる。したがって外側(他者)からの刺激は不要である。

内発的動機は持続的で意志的である。それに対し、外発的動機は単発的で反応的になる。

成果主義は基本的には、金銭的な報酬による刺激策で外発的動機を誘うもので、私たちはときにそうした刺激に反応して意欲を燃やす場合があるが、それのみで長いキャリアの道のりを進んでいくには限界がある。

なぜなら、人間は刺激疲れ、競争疲れしてしまうからだ。中長期にわたってその仕事をまっとうし、自分という才能を開いていくには、やはり、その仕事、その職業、その職場に内発的な動機を持たねばならない。

心理学者ミハイ・チクセントミハイは、仕事自体の中に内発的動機を見出し、それに没入するときの包括的感覚を「フロー」と名づけたことで有名である。彼は著書『フロー体験 喜びの現象学』(世界思想社)で次のように述べる。

内なるやる気を呼び覚ます

「人間の生物学的性向を利用する社会的に条件づけられた刺激/反応のパタンに従っている限り、我々は外から統制される。我々は身体の命令からも独立し、心の中に起こることについて責任を負うことを学ばねばならない」と。

これは言ってみれば、主体的意志的に働こうとする人間は餌付けされて曲芸をやるサーカスの玉乗り熊ではないということだ。

また、米コロンビア大学の哲学部教授ジョシュア・ハルバースタムは、『仕事と幸福、そして、人生について』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中で次のように言う。

「お金はムチと同じで、人を“働かせる”ことならできるが、“働きたい”と思わせることはできない。仕事の内容そのものだけが、内なるやる気を呼び覚ます」

さらに、彼はこう付け加える。

「迷路の中のネズミは、エサに至る道を見つけると、もう他の道を探そうとしなくなる。このネズミと同じようにただ報酬だけを求めて働いている人は、自分がしなければならないことだけをする」

次にもう一つの分類軸について。利己的動機とは、まず自分の利益を中心に据える動機である。それに対し、利他的動機は、他者の利益がまず思いの中心にあり、結果的に自分がうれしいという動機である。

さて、利己的な動機と利他的な動機を比べて、どちらがより望ましいのか。これについては、私たちのよく知っているオーソドックスなことわざが簡潔に結論を言ってくれている。すなわち—— 「情けは人のためならず」(=人にかけた善行は、めぐり巡って自分に帰する)。

「利他的であれ」というのは、説教じみて面白くない結論だと思うかもしれない。しかし、これは理にかなっている。なぜなら、利他的に行動するためには、まず自分をしっかり持たなければならない。また全感覚を研ぎ澄ませて他者を受信しなければならない。

そして自らの欲求は他者への願いや祈りへと変わっていく。すると、その行為を受けた他者から、感謝や支援、協力といったものが集まりだす。そうして、ますます自分は勇気づけられ、多少の挫折や困難にも負けていられない自分ができあがる。そして当初はあいまいだった自分の想いが、具体的な夢や志としての輪郭を描き始める。さらには個人の夢・志は、共感してくれる他者を巻き込んで、より大きなものに発展していく。

利他の達成の喜びは深い

気がつけば、大きな夢・志が叶っていた。利他的であることは、そんな状況を生み出す。

逆に、利己的な動機は、それが強まれば強まるほど自分の世界に閉じこもりがちになる。そのため、実現過程において他者からの応援などは生じにくい。例えば次のことを想像してほしい。ここにAとBの二人の人間がいて、Aは新車のポルシェを買うのが夢で、残業をいとわず金を貯めている。Bは途上国に学校をつくることをライフワークと定め、私財を投じてそこに邁進している。私たちはこのどちらを応援したいだろうか?

利己動機に根づく想いは発展性に乏しい。そして行き過ぎた利己は、結果として、好ましからぬ状況にたどりつくことを私たちは自他の経験から、あるいは史実から学んでいる
(しかし本来的に利己という欲求は悪ではない)。

なお、利己的・利他的という表現はどうも教条的な感じがするので私は「内に閉じる動機」・「外に開く動機」としてもよいと考えている。また、利己と利他は厳密に線引きができるわけでもない。実際はあいまいな混合の形をとっている。例えば、政治家や事業家の志は、どこまでが本当に世の中を思っての利他的動機か、どこまでが利己的な満足を得ようとする野心なのかは判別が難しい。

外発的×利己的動機に根づく仕事は「疲れる」。内発的×利他的動機に根づく仕事は「快活になる」。

結局、外発的×利己的(内に閉じる)動機は、自分の外からのきっかけに対して利己的に反応する動機なので、強くはあれど、深くを自分に考えさせるものではない。ちょうど「強い物欲・金欲・名誉欲」とは言うが、「深い物欲・金欲・名誉欲」とは言わないように。

この動機をもとになされる仕事の喜びは、優越、興奮、高揚、自己満足といった類になる。これらを追い続けることは、結果的に自分を疲れさせる。

それとは対照的に、内発的×利他的(外に開く)動機は、自分だけでは完結しない問題に対し、粘り強く他者と対話や協力をしてまでも実現させたいという動機である。なので、その実現プロセスでは深い思索を自分に要求する。だからその分、達成のときの喜びも大きくて味わい深いものになる。

喜びは、誇り、充実、確信、分かち合いといった類のものである。

地味で辛抱がいるが、健全な快活を得ることができ長続きする。

大志を抱け!

今回のシリーズ記事は、「志力」を中心テーマにしてきた。志とは、言ってみれば「内発的×利他的(外に開く)動機」に基づく想いである。志を抱くことで、無限のエネルギーを湧かすことができる。志は他者の共感を得ることにより、膨らみながら強くなっていく。

したがって、本記事のタイトルの答え:働く動機を「内発×利他」にシフトすると…
自分が元気になる。自分がひらいてくる。そして自分が社会とつながる。こういうことになるだろうか(下図)。

現在、仕事・働くことをめぐる社会問題はいろいろとある。また各々の仕事・職場にも個別の問題がはびこっていて、多くが不機嫌なワーキングライフを送っている。しかし、結局のところ、そんな時代に個人が行うべき最良の方策は、100年以上も前にウィリアム・クラーク博士が発したこの言葉に辿り着く——「Boys Be Ambitious!」(少年よ、大志を抱け)。

志は自分の身を助ける。そして成し遂げたことは、身を飾る。この平成ニッポンの世は永い人類史上からみれば、はるかに恵まれた時代だ。そんな時代に生まれ落ちて、志も抱かず、こぢんまり生きていくのは何ともモッタイナイ。

仕事は仕事、プライベートはプライベートと立て分けをして、仕事は叱られない程度にやりこなし、あとは趣味を楽しむ——そんな生き方はどこか残念だし、最終的にはツライ職業人生に陥るリスクをはらんでいる。(繰り返し言うが、ツライ職業人生に陥るリスクを最小限にするのは、志を抱くことである!)

これは何も、仕事にこき使われろと言っているのではない。趣味を楽しむなと言っているのでもない。想いを社会に開き、全人的に自分を投じられる一大事を持とうとする気概が自分にあるかどうかを見つめ直してみたらどうかと言っているのだ。

村上龍さんの近著『無趣味のすすめ』(幻冬舎)で見つけた言葉にこうあった。

「趣味の世界には、自分を脅かすものがない代わりに、人生を揺るがすような出会いも発見もない。心を震わせ、精神をエクスパンドするような、失望も歓喜も興奮もない。真の達成感や充実感は、多大なコストとリスクを伴った作業の中にあり、常に失意や絶望と隣り合わせに存在している」

志はもはや死語になるかという状況にあり、志す力は脆弱化するばかりである。志は、よき個人をつくるともに、よき社会をつくり、よき時代をつくるエートス(道徳的気風)の源になるものである。一人一人の人間が、働く動機を「内発×利他」にシフトさせていくこと——これは十分に大きな個人的かつ社会的チャレンジなのだ。

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