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おせちの中に世相が見える、戦略が見える!

投稿日:2009/12/04更新日:2019/04/09

おせちの全体傾向は?

おせちブームである。景気の低迷によって、「年末年始の旅行は控えるけど、せめてお家でちょっと豪華なおせちを食べましょうね」ってわけで、2000年ごろからブームに火が付いた。金融ショックの余波が続く今年は、さらにそれが加速、家族と自宅で過ごす人が多いとみられ、百貨店各社はしのぎを削る熱い戦いを繰り広げている。

2009年11月30日付け産経新聞朝刊の記事では紀文の調査を紹介しており、20代の89%が正月を「子供に伝承したい日本文化」と感じているという一方で、おせちを自宅で用意する割合は36%(全体59%)と若い世代ほどおせちを外で買う傾向が顕著になっている。

まずは、価格戦略(Price)に注目してみよう。おせちも景気動向の影響は否めない。そのため、「1万円おせち」などのロープライス路線の拡充は各社とも意識しているところだろう。しかし、松・竹・梅でついつい、「竹」を選んでしまう日本人の性格。金が余っている団塊世代退職組のために、高価格帯も手を抜けないし、百貨店によっては10万円の強気商品を展開している例もある。ただし、ボリュームゾーンはあくまで中価格帯。そこへどううまく誘導するか。そして手堅く低価格帯も展開するというのが大雑把な印象である。

2009年11月7日付読売新聞朝刊の記事によると、売れ筋は2〜3万円の商品といい、そごうと西武は2万1000円までの商品を昨年より10点増やして68点に、東急百貨店も2万円台を、昨年より2割多い約80点に充実という。

では、そのおせちはどのような製品戦略(Product)がとられているのだろうか。記事の中では、「お値打ち」「組み合わせ自由」「ヘルシー」などのキーワードがあがっている。

今年気になるのは、「おひとり様おせち」を展開している百貨店が目につくことだ。少子高齢化に晩婚化、非婚化が進んで「正月に一人でおせち」に対応することはもちろん、「個食化志向」への配慮であろう。子供用と称して「キャラクターおせち」があったり、若い人向けに「若手料理研究家プロデュースおせち」があったりと、おせちはそれぞれ一人一重になっていくのではないか、と思える様相である。筆者としては、ギャル対応のスワロフスキー仕様、デコデコお重が見てみたかった……。

定番の「老舗のおせち」はしっかりと存在感を示している一方、それぞれの郷土の味が楽しめるタイプも充実を図っているようである。「おせち市場」はまだまだ、市場のパイが拡大するであろう成長期なので、商品そのものの工夫のしがいはあり、例年にも増して多様化しているようだ。

ただし、おせちには制約条件がある。それは販売チャネル(Place)である。生おせちは「地域限定」にして数量の確保と、保存性と、運送にかけるコストを減らさなければならない。「全国どこでもお届け」にしてしまっては安全性の問題や、味の劣化、運搬中に盛りつけが崩れるというようなリスクが生じる。提供する料亭や仕出しはいやがるだろうし、百貨店としても責任が持てない。そもそも食の好みが地域で全く異なる。

考えてみれば、地域に応じた商品の提供は本来あるべき姿である。今までは多くの商品が「売る側の都合」で全国一律で行われていたのである。地域性のあるおせちは、見ていても楽しく、商品提供の本来あるべき姿を示しているともいえるだろう。

各社がどのようなプロモーション(Promotion)を展開しているのかは、最後にWebサイトで見ていくとして、それを見る前に、どんなテーマ性が設定されているのか、その切り口をざっくり見ておこう。テーマ性とは即ちポジショニング(Positioning)であり、各社の戦略の要だ。

「食の達人が仕立てたおせち」「いまどきおせち」「なつかしおせち」「三都雅おせち」「料理研究家のおせち」「ヘルシー精進おせち」「タイガースおせち」「おばあちゃんの味おせち」・・・ホンッッッッッッッッッッとに種類が多くうまくカテゴライズできないのである。大学院の学生に、「ちゃんとポジショニングマップを書いてみろ」と言っている身としては情けないが、とにかく乱立状態なのである。

消費者ニーズの多様化に対応しているというよりは、まだまだ手探りで百貨店のプランナーたちがハァハァゼェゼエと息を切らしながら手探りをしているという状態が目に浮かぶ。デパ地下商品としてはえらく高単価であるし、成長市場なので手は抜けない。

この熱い市場に百貨店はもちろん、コンビニエンスストア、スーパーなどが入り乱れて、バイヤー、マーケター—たちがチエの絞り合いをしているのだ。う〜ん。これを見逃さない手はないだろう。週末ひまがあったら、各店舗をじっくりと回り、それぞれの展開を眺めるだけでも飽きない。おかねのかからない、大人の遊びゴコロだ(独自のポジショニングマップが書けたらぜひ送ってほしい)。

百貨店各社の傾向とオススメの切り口は?

ここから先はかなり長いので、時間のあるときに読んでほしいのだが、日本全国各百貨店の展開をサイトで見てみる。題して列島横断おせちマラソン。ざっくりとした感想しか載せていないので、詳しくは、百貨店名におせち料理サイトのリンクを設定したので、そちらを参照いただきたい。

三越

「キッズおせち」「ピンチョスおせち」「身の回りの素材でお正月を楽しく演出する方法」など、届いたおせちを「より楽しく」「より便利に」食べる工夫もあわせて提案して、おせちの2次利用を提案しているのが秀逸だ。そして、「そもそも“おせち”ってなんだ?」という「おせちに興味がなかった層」を取り込む工夫もちらり。成長市場では需要喚起、需要創造が欠かせないが、その鉄則をきちんとおさえた展開である。

大丸

「セレクトおせちであれこれ食べたい人のさらなる欲望を満たす!」がオススメと見た。人数や好みに合わせてお重を組み合わせられるのだ。セレクトはめんどい人には、あらかじめ有名店を合体させたおすすめおせちもあり、両面作戦を展開している。また、「一人暮らしだけど、実家には帰りたくない…彼氏と一緒にお正月!」な女子向けと思われるスイ—ツ付きおせちもあり、なかなか細かなニーズを拾うことも忘れていない。

阪神

あああ、やっぱり……。という感じの「タイガースおせち」はホームとアウェー用のお重2色展開。たぶんタイガースファンは色違いで購入するに違いない。また、関西のとんかつチェーン「とんかつKYK」のおせちがあるなど、土着的雰囲気バッチリな展開だ。

伊勢丹

高い。伊勢丹独自の価値を訴求する「オンリーi」をおせちで展開するとこうなるのか。京都下鴨茶寮のおせち取り扱いは伊勢丹と東急だけ。10万のは伊勢丹だけ。関西発祥ではないのに、大丸・高島屋・阪急を差し置いて、伊勢丹が専売。伊勢丹バイヤーは「いいものを一人勝ちで売る為には、ジャングルも戦場もかき分けて行く」らしいので、「孔明の家」にも3回行ったのだろう。下鴨茶寮が口説き落とされた様子も目に浮かぶ。

阪急

伊勢丹とは正反対の攻め方だ。老舗ではなく、若手起用。京都では今「お高くとまった殿様商売の京料理店」に反旗を翻した若手料理人たちが「美味しい物を、まっとうな価格で」提供するきざしがあるという。伝統を守りつつ革新的で、価格は良心的。そんな若手達の店はこの不景気の中でも、何カ月も予約が取れなかったりする人気店になっている。そんなお店におせちをつくってもらっているのが阪急。人気を反映して売り切れも多い。

高島屋

20万オーバーのおせちがあるのはここだけではないか。4人家族が食べたら一回で終わり。送料はなぜか1万のおせちも20万のおせちも300円。とこんな細かい所が気になる筆者のような者がターゲットでないことだけは確か。あぁぁすごい強気。

そごう/西武

プロモーション的にすごく損していると思う。「そごうおせち」「おせち西武」と、単体で検索すると順位がだいぶ低い。正解は「そごう・西武おせち」なのだけど、各々の百貨店の顧客は「そごう・西武」と認識していないだろう。

しかも、サイトの写真をみても、ショッピング画面にいけないのだ。「店頭か電話で注文」ですぜ。商品的には「おばあちゃんのおせち」シリーズなど、面白い企画もあるのだが、プロモーションと連動しておらず。残念。

東武

こちらも少し残念。一応特設ページがあるのだが、ものすごい階層が深くてなかなかたどり着けない。しかし商品的には、好きなものを選んで重ねられるというアソートおせちがあるなど楽しさのある企画も充実している。

京王

「多摩地区産の食材にこだわり」などと、ものすごく限定された地域のおせちで特徴を出している。もう一つのポイントは、京王プラザホテルと二段構えの展開。「ホテルのシェフが作るおせち」という強力なカードしっかり使っている。活かすべき強みを有効に使うお手本だ。

小田急

三大かにおせち「北海雅膳」が出色。おせち→お正月→家族が集まる→宴会→「かにまつり!」という文脈が面白い。他の百貨店がおせちと、お正月宴会料理のページを分ける中、小田急は一発で鍋パーティーとおせちの両方楽しめる画期的なセットを開発した。顧客の行動をきちんと考えた結果辿り着いた秀逸な商品である。

東急

品数はものすごく多い。が、サイトで買えないだけでなくやたら見にくい。そごう・西武と同等かそれ以上に損している気がするが……。ネットを使う人はターゲットに設定していないのだろうか。

近鉄

商品以上にサイト構成が秀逸。人数・価格・味の嗜好と、ニーズに沿った選び方がスムーズに展開されている。これぞ顧客視点。さらに料理に合うオススメへのお酒への誘導も顧客にとっては気が利くサービスで、自社にはクロスセリング効果バッチリである。

天満屋

関東・関西・中四国と、各地域の味を楽しめるおせちが展開されている。なぜ、こんなに多くの地域を揃えるのか、その意図を推測するために中国地方の人々にインタビューした。すると、「あんまし行かないからじゃない?」と口を揃える。超保守的地域ならではの、「ちょっと冒険心」をおせちで充足させようという意図だろうか。

岩田屋

こちらも全国の味を楽しめる展開。プロモーションとしては「おせちの現場を取材してきました!」が秀逸である。なんともドラマチックに作り手の思いが伝わってきて、「ここのおせちを食べてみたい」という気持ちに心揺さぶられる。写真がまた、いい。マーケターの力量が感じられ、ちょっと感動した。

リウボウ

「しょうがつくわっち〜」とは「正月料理」の沖縄言葉らしい。さすが沖縄、おせちを食べる習慣というか、おせちそのものから説明している。しかし、最後にこのサイトで勉強になったことがいくつもある。「そもそも、おせちは正月だけの食べ物ではなかった」とか、「おせちを重箱につめたのはデパートが始め」、とか。しかし、おせちのバリエーションが劇的に少ないのは需要が無いからだろう。

以上、ランダムに沖縄までざーっとさらってみたが、各社各様の展開であり、温度差もある。しかし、成長市場で覇権を競い合う様も垣間見える。しかし、やはり消費者のニーズをいかにおさえるか、顧客行動をどのように設計するかがキモであることは間違いない。

おっと、サイトを見ると既に随分と完売の商品も目についた。

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