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串焼きチェーン「くふ楽」・福原裕一氏(中編)-お通し無料、接客マニュアルなしの理由

投稿日:2008/10/07更新日:2019/04/09

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「居酒屋甲子園」をご存じだろうか。覆面調査員が全国の居酒屋を回り、味やサービスなどを調査するというコンテストだ。これで全国6位に入ったのが「くふ楽 本八幡店」。マニュアルに頼らないレベルの高い接客を、チェーン店で実現できる、同社ならではのシステムとは?(この記事は、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年8月28日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。

全18店舗がすべて黒字経営、年間離職率はわずか5%。スタッフのほとんどを占める若いアルバイトたちがいきいきと仕事に取り組む居酒屋チェーンがある。それが、「くふ楽」「福みみ」「生つくね 元屋」「焼酎泡盛 豚の大地」などの店舗を展開するKUURAKUグループだ。

KUURAKUグループのスタッフは、ほとんどが若いアルバイトだ。一般に離職率が高いのが普通な飲食業界で、彼らはなぜ辞めることなく、高いモチベーションを保って仕事ができるのか。KUURAKUグループの代表取締役、福原裕一氏(43歳)へのインタビューを通じて探っていく。

KUURAKUグループの戦略経営とは?

まず最初に、KUURAKUグループの経営がどのような構造になっているかについて、戦略経営のフレームワークで見てみよう。

戦略経営のフレームワークでは、「理念」(ミッション、経営理念、長期ビジョン)を経営の最上位に、その下に、「戦略」、「システム/プロセス」、「組織」(能力)という3つのファクターを置く。そして、これら3つを通じて創出される価値を次のようにとらえる。

戦略 = 顧客価値+社会価値

システム/プロセス = 付加価値+システム/プロセス価値

組織(能力) = 個人価値+組織価値

KUURAKUグループの場合、経営理念を実現するために、従業員満足(=個人価値)を徹底的に高めることにより、チーム力としての組織の価値を大きくしているところに特徴がある。

そして、この高水準の個人価値+組織価値が、CS(=Customer Satisfaction)としての顧客価値や、CSR(企業の社会的責任)としての社会価値の創造レベルを高める原動力になっていると言って差し支えない。

個人価値+組織価値を極大化するために、同社では、システム/プロセスを革新し、経営理念+経営情報の全社で共有することにより、それを通じた“経営速度”を速め(=付加価値の創造)、環境変化に即応して好業績を上げてゆけるだけの現金創出力(=Cash Generation)を確保しているのである(=システム/プロセス価値の創造)。

“値ごろ感”という価値を実現

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KUURAKU GROUP代表取締役の福原裕一氏。「くふ楽」「福みみ」「生つくね 元

インタビューの前編では、主に同社の経営理念を検討した。そこで今回は戦略、それも上記の顧客価値と社会価値を中心に検討したいと思う。

では、まず、顧客価値から見てみよう。企業が顧客に提供する製品/サービスの価値には、3つのタイプがある。飲食店であれば以下の通りだ。

(1)効用価値

食材の品質・希少性、調理のセンスや技術において、ハイクオリティを追求する。たとえ価格が高くても、顧客側もその効用の高さゆえに納得するタイプの価値創造。ミシュランガイドで星をもらったレストランやそこで出す料理を想像すれば分かりやすい。

(2)価格価値

料理のクオリティは高いに越したことはないが、それ以上にまず安さが重要、というタイプの価値創造。食材の品質や調理のセンス・技術が超一級品でなくても、庶民の味方として親しまれているところが多く、時として“掘り出し物的”な逸品に出会える場合がある。街の定食屋や、回転寿司チェーン、ガード下の飲み屋といった店を想像すれば分かりやすい。

(3)値ごろ感価値

(1)と(2)の中間に位置する価値創造。食材の品質や希少性、あるいは調理のセンスや技術は(1)のようなレベルには及ばないものの、一定以上の高い充足感を味わえる。支払う対価は(2)ほど格安ではないものの、決して割高感のない納得度の高い価格帯になっている店だ。デート、あるいは友人同士や職場で繰り出す時などに使い勝手の良い店が多い。

こうして見た時、KUURAKUグループの顧客価値創造タイプは、(3)「値ごろ感価値」に該当する。

例えば「くふ楽」は、焼鳥を中心に供している店だ。「部位ごとに違った産地の鶏肉を用い、それを備長炭で焼いています」と福原氏が話すとおり、例えば千葉県産のハーブ鶏を使うなどのこだわりがある。とはいえ、名古屋コーチンとか比内地鶏など、最高級の鶏肉で勝負しているわけではない。その代わり客単価は、千葉県の店舗より高い銀座店でも3500円ほどと、無理がない。

銀座というのは、(1)タイプの店を出しやすい土地だ。例えば銀座にある有名な某焼鳥店では、奥久慈軍鶏と高級なワインや日本酒を出しているが、客単価は8000円台だ。こういった(1)の効用価値を追求している店と比較すると、くふ楽が実現している“値ごろ感価値”がよく分かるだろう。

お通し代無料+味噌汁サービス

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元屋で提供しているお通し

しかし、値ごろ感価値を実現している店はほかにもたくさんある。他社にない同社の強みとは、

効用レベル > 価格レベル

を実現できており、顧客満足度が非常に高いという点にある。

なぜ客はKUURAKUグループの店に行って満足するのか。それは福原氏の「食を通じて幸福なひと時を送ってほしい」という願いが、各店舗の運営の中で具現化されているからである。

例えば、同社では「お通し」を無料にしている。しかし居酒屋業界では、お通しは売上の1割を占める、重要な位置づけにある。これを無料化し、「店からの気持ちです」と言って客に出す。

多くの客は、無料でおいしいお通しで気分が良くなる。そこへスタッフが、マニュアルではない自分の言葉で快活に話しかけ、配慮の行き届いた対応をするから、客はさらに気分が良くなる。

出てくる料理も、作り手の創意を感じさせる内容で、一定以上の満足度がある。そして最後に、テーブル会計に際して、思いもかけないサービス(熱いみそ汁)が供されるのだ。

創業100年を超える都内の老舗居酒屋など、お通し代をとらないところはほかにもある。「お通し代無料」というサービスはKUURAKUグループが最初というわけではないが、

“店からの気持ち”としてのお通し(お通し代無料)

気配り・目配り・心配りの行き届いた快活な接客 + 創意豊かな料理

最後の味噌汁サービス

という一連の流れこそが、同社のオリジナリティであり、他店との差別化ポイントである。これが客の満足や感動の源泉として大きな効果を生んでいるのだ。

「お通し代を頂かないことで、年間1億円の売上減になります。でも現実には、喜んでくださったお客様が、浮いたお金で別のメニューを注文してくださるので、トータルの売上は全然減っていないんですよ」と、福原氏は胸を張る。

また、この流れの中の「気配り・目配り・心配りの行き届いた快活な接客」という部分は、各店舗でスタッフが自ら考え、実践しているもので、定型的なマニュアルは存在しない。誕生日を迎える客にサプライズでバースディケーキを用意し、スタッフ一同で「Happy Birthday to You」を歌って祝うといったサービスを行っている店舗もあるようだ。

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居酒屋甲子園でベスト6入り

ひとりひとりの客のために感動を創出し、それを客とスタッフが共有する。

上述の内容は、筆者個人の感想ではなく、実際に目に見える成果を生み出している。それは「居酒屋甲子園」での快挙である。

居酒屋甲子園とは、「居酒屋から日本を元気にする」ことを目的に、2006年から始まった全国レベルのコンテストである。

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居酒屋甲子園の公式サイト

エントリーした居酒屋を、覆面調査員たちが、味やサービスなど20項目について、のべ3カ月にわたって調査を重ね、全国3エリアから代表店各2店を選出して、決勝大会を行う。

KUURAKUグループからは、第2回(2007年度)に「くふ楽本八幡店」が関東エリア代表の1つに選出され、決勝大会に進出した。エントリーした居酒屋は739店舗。この中でベスト6入りしたのだ。

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社会価値の創造 (1)――食の安心・安全崩壊への対応

戦略を通じて創出される価値としては、上記のような顧客価値のほかに、社会価値がある。

社会価値の創造とは、自社を取り巻く社会の中で、市民権を獲得することを目指して、社会が自社に対し理解・受容・信頼・支持を寄せるような、社会・文化・心理価値を創造し提供することと定義される。社会戦略(Societal Strategy)とも呼ばれる。

現代日本の企業社会において企業の社会的責任(CSR)として広く認識されている部分である。

法的責任(=コンプライアンス)

倫理的責任

経済的責任

社会の価値観の変化への対応

社会が抱える困難な課題への取り組み

などが、その主要な内容となる。ここ数年は、特に(1)のコンプライアンスや、(5)の中でも地球環境問題への取り組みが注目のテーマになっている。

KUURAKUグループでは、どのような取り組みがなされているのだろうか?

今や、日本の食に対する信頼は完全に崩壊している。2007年以降、食品の産地偽装表示、賞味期限の偽装表示、高級料亭船場吉兆での残飯使い回し、中国毒入り餃子事件(未解決)などなど……もはや何を信じたら良いのか全く見当もつかない、とんでもない世の中である。

偽装ばかりではない。安い食材を大量調達するために、海外から驚くようなものが輸入され、知らないうちに我々の口に入っている。例えばチリでは地元の人たちが誰も食べない海ヘビの一種をアナゴとして日本に輸出している。それが天ぷらやすしのネタとして日本全国に出回っていることは、最近では多くの人の知るところとなっている。

上記(4)の社会の価値観の変化への対応に即して言えば、「ホンモノ」「製造物責任」「情報公開」が現代日本のキーワードであるのに、それと逆行しているのが食の業界だと言える。

そうであればこそ、安心・安全をどうやって確保し、顧客に知らせるかは、現代日本で飲食業に携わる関係者にとっては、必須の要件だといえる。

福原氏は言う。「メニューの中で産地表示をしています。健康志向の食材を増やすようにしていますが、無農薬・有機栽培のものはコストの問題もあって、まだ使っていません。弊社の場合は、オープンキッチンを基本にしており、それがディスクロージャーの一環になり得るものと考えています。すべてのスタッフの一挙手一投足が、周囲360度から完全に見えるわけですから」

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KUURAKUグループでは、多くの店舗がオープンキッチンを採用している。くふ楽本八幡店(上)、豚の大地新宿店(下)

社会価値の創造(2)――社会起業家として、現代の若者の就業問題解決を目指す?

社会価値の創造の中で、福原氏が最も情熱を注いでいるのは、(5)の社会が抱える困難な課題への取り組みであり、その中でも、若者をめぐる問題である。

少子高齢化時代の本格到来で、若年労働力の減少は、日本経済のボトルネックになりかねない。しかし肝心の若い世代を巡る労働環境は、厳しさを増すばかりだ。ニートやフリーター、派遣社員として厳しい生活を強いられる若者の増加や、入社3年以内に3割が退職する風潮、うつ病の蔓延といった問題・課題が広がり、いわば“羅針盤なき航海”を余儀なくされているのが、今の日本である。

福原氏は、KUURAKUグループをこのような若者の問題の解決の場として社会に提供することを目指している。前編の最後で紹介したように(参照記事)、事業目的に「人財の育成」を掲げているのはこのためだ。「仕事を通じて人間的成長、目標達成する喜びを感じ、『夢を実現する』志を持つ人々を育成したいと考えます。夢がありながら、チャンスがない若い人達に『くふ楽』でのチャンスの場を提供し多くの事業家を育成したいと考えます」(福原氏)

実際に、KUURAKUグループ各社のシステム/プロセスは、若い人材を成長させることに成功している。多くの若きスタッフたちが、仕事を通して目標を達成する喜びを得ているのだ(詳細は後編で触れる)。

またそれを補完するように、同社では「ハッピー&サンクス」や「バイトドリーマーズ」といったNPO法人を設立し、様々な活動を展開している。

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NPO法人「ハッピー&サンクス」(上)と「バイトドリーマーズ」(下)

ハッピー&サンクスでは、NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の子供支援プログラムを通じて、ネパールに新しい学校を建設する事業を応援しており、社員やアルバイトがボランティアで、募金活動やフリーマーケットに参加している。このほか、「妊婦体験」(8キロの妊婦ジャケットを身につけて街を歩く)などの活動を行っている。

バイトドリーマーズでは、「伝説のアルバイトを探せ!」などの活動を通じて、全国のアルバイトを応援し、彼らを夢の実現へと導こうとしている。「こうした活動に自主的に参加することで、若い人達は、自分自身が社会とどう関わって生きていくのか見えてきますし、それを通じて、会社に誇りが持てるようになれば何よりです」と福原氏は話す。

さらに、これらNPO法人とは別に、KUURAKUグループとして、日本女子アイスホッケーリーグ「ディビジョンワン」のスポンサーシップを行っている。これは福原氏自身が子供時代、プロ野球選手を目指していたこともあり、高い目標に向かって一丸となって頑張る若い人々を応援したいという気持ちも人並みはずれて強いためだろう。こうしたスポンサーシップ活動も、社内の若いスタッフの人間的成長に良い刺激となっているという。

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ハッピー&サンクスの妊婦体験のようす

さて、こうした若い世代の成長や夢の実現を願う福原氏の想いは、KUURAKUグループのシステム/プロセスの中で、どのように具現化し、いかに組織能力を高め、戦略実現に結びついているのだろうか? その概要については後編で検討したい。

▼「Business Media 誠」(http://bizmakoto.jp)とは

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