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論点を把握する(2)

投稿日:2009/08/06更新日:2023/01/11

前回は論点を把握することの必要性、そして論点とは何か?を考えてきました。まさにこれがファシリテーションの肝ともいえる部分なのですが、同時に最も難易度が高いところでもあります。何がどのように難しいのか?もう少し掘り下げて考えてみましょう。

「論点」の把握やコントロールの難しさ

議論の場で様々な意見が出て対立や混乱が起きている場合には、以下の二つのパターンが考えられます。「同じ論点(問い)について議論しているが、その論点に対する意見(答え)が異なっている」場合と、「論点そのものが異なっている」場合です。

当たり前のことのようにも感じられますが、現実の議論の場でこれを判別することは容易ではありません。発言それぞれはそれなりの説得力を持っているけれど、どちらが正しいのかは判断がつかない、もしくは議論が錯綜して何について話をしているのかすらわからないというときは、意見の違いだけでなく議論している論点自体が見失われ、噛み合っていないまま議論がなされていることが多いのです。そして「何か噛み合っていないな」ということまではわかるのですが、「何がどう噛み合っていないのか?」を正しく認識し、適切に対応するのはとても難しいものです。

難しい理由はいくつかあります。

まず、意見が述べられるとき、「論点自体は発言されないことが圧倒的に多い」ことが挙げられます。そもそも自分が何かについて意見を述べる際、「この意見は何についての意見か」を意識していることは意外に少ないものです。そして意識していないため、論点を明示的に口に出すこともしません。このため聞き手は意見を聴きながら、「この人はどういった論点について述べているのか?」を読み取らなければなりません。

しかし「発言には複数の論点が含まれることが多い」ことが更に論点把握を難しくします。よほど短い発言を除くと、ほとんどの発言には複数の論点が含まれ、発言者自身もそのことを明確に意識していないものです。このため「何について何を語っているのか?」を整理・理解することは難しく、そのまま議論を続けると、発言の中のある論点に対して別の意見が出される。その意見の中にも複数の論点が含まれ、またそこから違った方向に論点が移っていくという形で、気づくと既に議論がどんどん先に進んでしまっているのです。

さらに、「論点はその立て方の自由度も高く、かつ関係が複雑である」ために、単純に見える発言でもそこから論点を抽出するのは容易ではありません。そして自分が読み取った論点は発言者の考えと合っているのか?他の参加者が共通の認識を持っているのか?も判断するのが難しいものです。

前回の例にあるように論点には大きな論点(部品を内製から外注に切り替えるべきか?)からその論点に答えるための細分化された論点(コストは?品質は?)など様々なレベルがあります。またあるレベルの論点においてもその立て方も様々に考えられます。たとえば、「部品を内製から外注に切り替えるべきか?」を判断するうえでは、「コストは下がるか?・品質は十分か?・(更に加えるとすれば)納期等取引条件に問題はないか?」という論点の立て方がありますが、それだけでなくたとえば「変更するメリットは大きいか?変更するデメリットは小さいか?あるとしても対応可能か?」といった形も可能です。このように論点の立て方の自由度は高く、必ずしも1つに自動的に決まるわけではありません。同じようなことを考えているようでも論点の立て方が違うと、発言を理解することが難しくなります。発言を理解するために一旦自分の頭の中で位置づける枠組みが異なるので、どう位置づけたらよいのかわからなくなるからです。

同時に、「人はそもそも必要な論点を網羅的に押さえることが苦手であり、発言の際には一部の論点のみに着目して考えていることが多い」ことが事を複雑にします。多くの場合、ある人はAという論点(ポイント)を根拠にXという結論を述べ、またある人はBという論点に着目してYという結論を導いているという状態にあります。自分の主張を直接支える根拠になるような論点はよく考えているのですが、自分の主張とは異なる結論を導く可能性のある論点はそもそも考えてもいないことが多いのです。このため、異なる論点を根拠とした意見が出された際に、その意見が自分の論点に関する反対意見と誤解してしまったり、自分の論点とその発言の論点の位置関係を把握できず混乱します。

こうしたことから、通常行われている議論では、参加者が論点を明確に意識・共有して進んでいくことは稀です。ファシリテーターはその状況に対して対応することが求められるのです。

「頭が真っ白に」ならないために

「論点を把握する」ことは、適切に議論をファシリテートするために不可欠かつ重要なものである同時に、極めて難易度が高い思考作業です。参加者の立場であれば、人の意見に耳を傾け、それに対して自分の意見を述べたり、問われたことに答えるだけで済みますが、ファシリテーターは人の話を理解すると同時に、議論がどのような状態になっているか把握し、発言していない参加者の状況にも気を配り、議論をどうコントロールするか?などたくさんのことを考えなければなりません。たとえ自分自身がその件についてある程度の理解を有していても、その場でこれだけのことを同時に考えようとすると、確実に頭の処理能力のキャパシティを超えてしまいます。そうするといわゆる「頭が真っ白に」なってしまうのです。

この「議論の場で一度に考えられることには限界がある」という制約を乗り越えるためにはどうしたらよいでしょうか?その場で話を理解するスピードを高めることも必要ですが、それには限界があります。その場で無理にやり遂げようとするよりも、むしろ、事前の準備で対応する方が賢明です。ファシリテーターが事前に参加者の数倍、論点について考え、十分な広がりを持って必要な論点を押さえ、また論点相互の関係をある程度把握しておくこと、つまり「あるべき議論の論点の地図」をつくり、様々な意見を即座に位置づけられる状態を頭の中につくっておくこと、そしてその地図の中で出発点から到達点に至るルート(議論の順番)」を頭の中に構築しておくことが必要なのです。

では、どのような地図を、どういった手順で作っていけばよいのでしょうか?議論されるテーマによって論点は様々で、同じ議題でも論点の立て方はいろいろあります。そのようなパターン化が難しいものをどのように扱えばよいのでしょうか?次回はさらにそこを考えていきたいと思います。

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