参加者の状況を押さえる(3) 

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前回まで「参加者の状況」を押さえるうえで、まずは議論の内容を起点として考えることが肝要と申し上げてきました。これは、「彼は○○と考えがちな人だから・・・」「彼女は△△さんの意見には反対しないほうだから・・・」というような勝手な思い込みで参加者自身の属性を決め付けないようにするためであると同時に、漠然としがちな「参加者の状況」を具体的に考えることで、議論の中身や「さばき」の方向性を想定しやすくするという目的からです。但し、実際の議論が、「人」というそれぞれに個性を持った存在を相手にすること、そして多くの議論が複数の参加者による「集団」で行われる事を踏まえると、参加者という人そのものに着目することを忘れてはいけないことも、また事実です。そこで今回は、「参加者の状況を押さえる」の最後として、参加者個人の特徴や参加者相互の関係について考えてみたいと思います。

「キーパーソン対策」は本筋ではない

「議論に参加するメンバーについて考える」というと、まずは「キーパーソンは誰か?」というポイントを思いつきます。確かにその場の意思決定において重要な役割を果たす、もしくは、その人の意見がどうなるか?によってその場の結論が決まる場合も多く、そうしたキーパーソンが誰か?その人はどういった意見を持っているのか?またどのような議論の仕方を好むのか?などを掴むことは必須です。

しかし「集団で議論をする」ということの原点に戻って考えると、単に“声が大きい”人の意見によって全てが決まるのであれば、そもそも集団で集まって議論する意義は薄れます。またキーパーソンの鶴の一声で決まったが参加するメンバーが十分に納得、腹落ちしていない意思決定は、結果として正しく実行されなかったり、後々、物議を醸したりといったネガティブな結果につながりかねません。

議論のファシリテーターが本当に「集団で議論するメリット」すなわち「衆智を集め、よりよい意思決定を導く」「合意形成のプロセスをしっかり踏むことで、参加者の納得とコミットメントを高める」ことを目指すのであれば、「キーパーソン対策」以上に注力すべきことがあります。それはそこで議論し、意思決定をする上で本来重要な役割を果たすべき人を見つけ、その人の持つ知見や考えを引き出すことです。言い換えれば、見た目上のキーパーソンだけでなく、本来キーパーソンになるべき人を見つけ、増やすことを考えるということです。

議論の場への関与の仕方・貢献の仕方、いわば「役回り」はいろいろあります。意思決定の結果に最終的に責任を持つ人には十分な理解と納得を得ることが必要でしょう。また意思決定の結果に直接・間接に影響を受ける人には、それを正しく理解したうえで、意見を述べてもらい、必要であれば決定内容を修正することも必要でしょう。さらに直接影響を受けなくても、その人が持つ専門的な知見や経験からの意見や論点を出してもらうことによって、議論の幅が広がったり、内容が深まるといった貢献も期待できます。特に専門的な貢献がなくても、現場の状況や様々な情報を提供してもらう、もしくはあえて一歩離れたところから冷静にコメントをしてもらう、などの貢献の仕方も考えられるはずです。

こうして考えると、ファシリテーターは演劇の演出家、もしくはプロデューサーに似ています。主役だけでなく適切な脇役を配置し、劇全体の魅力を高めるにはどうすればよいか?を考えるイメージを持つと良いでしょう。理想的にはこのように考えたメンバーのみが参加している議論の場においては、誰もが「聞くだけのその他大勢」にはならないはずです。

このとき、特に「なかなか発言しづらい立場の人はだれか?」を押さえておくと良いでしょう。上位者ばかりの会議などに入った新人や部下はなかなか発言しづらいものですが、どうしたらそういった人の意見を引き出すことができるのか?を考えておく。もしくは内容に対して立場上、不利な意見を言わざるを得ない人は誰か?を考え、その人が発言できるような流れを考えることに注力すると良いでしょう(意見を積極的に述べる人はある意味放っておいても意見を出してくれることが多いので、むしろ逆を考えておくことが有効です)。

また、実際の議論においては、少なからず率直な意見交換の妨げになる言動を取る人(言い方は悪いですが、“ノイズ”になる人)がいます。話し出すと止まらず、会議に時間を独り占めしてしまう人、自分の意見を通すことに夢中になり、人の意見を片端から否定してかかる人、見るからに無関心、不機嫌な態度で周囲に圧力を与える人などです。こうした人への対応、特にその場でのコントロールは難しいものですが、対応策が無いわけではありません。たとえばあえてその人を提案役やまとめ役にして、人の意見を聴かざるを得ない状況をつくる、事前にその人の意見を個人的に聴く機会をつくり、その場を通じて意見や態度を十分に汲み取ってから、それに対応できるような議論の仕込みを行う、などです。
極端な例を除くと、こうした「困った人」は自分の意見を伝えたいという欲求が強いので、その欲求を何らかの形で満たすことができると対処できることが多いものです。むしろ何よりも、そうした可能性を認識・予測し、事前に取れる対応策をとってから議論の場に臨むことを考えましょう。

参加者相互の関係性に気を配ることが肝要

さて、議論の場に複数の人がいる場合、どうしてもそこに参加者間の相互作用が生まれます。ここで注意すべきなのは、「意見が対立する」といったわかりやすい関係以上に、見えにくい影響関係に気を配るということです。たとえ意見が対立することがあっても、そこで実際に発言がなされれば、参加者はその意見の相違を認識し、そこから何らかの突破口を見つけ出すことが可能です。しかし「この部長の前ではこの話には触れづらい」「上司のいる前では上司と違う意見は述べにくい」など、あるメンバーの影響が「沈黙を強いる」形で現れる際には、その影響関係を踏まえた上で議論をどう進めていくか?どのように沈黙を破るのか?を考えておくことが必要です。

いろいろな状況があるのでなかなか難しいところではあるのですが、影響関係を把握していれば、突破口は見つけられるはずです。たとえば上司の前ではなかなか意見が言えない、もしくは異なる意見が出せないような場合は、「Aさん、B部長の意見に【より現場に近い立場から付け加える点】は無いですか?」「私はB部長の意見をこう受け取った(論点をより明確にする形で強調して言う)のですが、実際に実行されるAさんからするとそれで大丈夫ですか?(もしAさんがB部長の意見に反論を述べ、それにB部長が反発を覚えても、いざとなればファシリテーターのまとめ方のせいにできるようにする)」など、質問の仕方を工夫することで発言のハードルを下げることも可能です。

最後に押さえておくべきことは、ファシリテーターである自分と参加者の関係です。参加者がファシリテーターをよく知っていて、その考え方や判断力に信頼を寄せている場合はいきなり議論を始めても良いですが、たとえば、
・ 自分が参加者に知られていない・知っていたとしても初対面
・ ファシリテーター役として認識されていない
・ ファシリテーター役がある特定の意見や立場を代表していると見られている
といった場合には、まずは「自分と参加者の信頼関係をつくる」ことに注力すべきです。特に重要なのは、「この人は今回の議論の目的・趣旨をよく理解している」「参加者をよく理解している、もしくは理解しようと努力している」「この人は自分の話を熱心に聴こうとしている」「この人は様々な意見を公正に扱おうとしている」と感じてもらい、信頼を得ることです。そのためには本題に入る前にアイスブレイク・関係づくりの時間を取る、もしくはあえて最初は自分の意見とは異なる意見を積極的に引き出すなど、「はっきり見せる」工夫をするのも効果的です。

さて、いつのまにか少々「さばき」の世界にも入り込んでしまいまったようです。次回からは再度「議論の仕込み」にフォーカスを戻し、その中核部分である「論点の洗い出し・選択・深化」に入っていきたいと思います。

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