宇宙観と人間観 

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先日、グロービス経営大学院の学生クラブ活動において、パナソニック(旧松下電器産業)の北海道・東北販社で石油温風機の回収活動を統括された方からお話を伺う機会がありました。お話を伺いながら、私が考えたのは、「もし、石油温風機の瑕疵(かし)が、パナソニック以外の会社で起きたものだったとしたら、その社員は果たして冬の嵐の中、彼らほどの必死さでローラー作戦を遂行したであろうか」ということでした。

本稿では、わずか一代で、パナソニックを日本有数のエレクトロニクス企業に育て上げた松下幸之助氏の経営観について取り上げてみたいと思います。

松下幸之助氏が考える経営者の要諦とは

松下幸之助氏の名声は、日本のみならず米国においても高く、例えば、ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のジョン・コッター氏も、松下氏を「20世紀を代表する世界的経営者」と評しています。

中島孝志氏の著作にある松下氏の逸話を一つご紹介しましょう。ある講演会の席で、聴衆の方が質問をしたときのことです。

「経営者にとって一番大切なことを一つ挙げるとすると、それは何ですか」

松下幸之助さんは、「う〜ん」と唸なって長考したそうです。

「一つでないと、いけませんか。二つでもよろしいですか?」

そして、質問者がそれで良いことを確認すると、おもむろに次のように回答しました。

「宇宙観と人間観」。

皆さんからご覧になって、経営者にとって一番大切なことは何でしょうか? 「宇宙観と人間観」と聞いて、何を思いますか? どうして経営に「宇宙観」が必要なのでしょうか? そもそも「宇宙観」とは何なのでしょうか? また、どうして経営には「人間観」も求められるのでしょうか? ちょっと考察にお付き合いください。

正しい理念は宇宙からの追い風を受ける

「宇宙観」とは、宇宙の仕組みや哲理ということだと思います。では、宇宙にある哲理とは何でしょうか。これには様々な見方がありますが、総じて言えることは、一つは、「宇宙では、社会の進歩と調和に資することは発展するようできている」ということ、そして、もう一つは、「想いと現実はつながっている」ということではなかろうかと思います。

宇宙は、社会の進歩と調和に資する正しい想い、正しい行動には、そっと手を差し伸べて応援してくれます。これが、いわゆる「追い風が吹く」ということだと思います。ただ、それは常に一方向ということではなく、宇宙そのものが回転していることから寄せては還す波のように、追い風となることもあれば向かい風となることもあり、その絶え間ない繰り返しの中で、けれど全体としては前に向かって後押しされていく、そんなイメージであると思います。

「社会の進歩と調和に資する」ことが何であるかは、社会の成熟度によって変わってきます。資本主義の勃興期には例えば、富の蓄積を最大化しようとする者の方へと追い風が吹きます。それは、その蓄積が再投資を加速させ、結果として世の中全体の繁栄につながっていくからです。けれど、それが高じ、過剰なまでの富の独占が始まると、社会は揺り戻しを求めます。企業におけるCSR(社会的責任)活動やNPO(非営利団体)の興隆の一因は、このように説明することもできるのではないかと思います。

想いを飛ばすと、宇宙空間には抵抗がないので、その想いは物理的なエネルギーとして、宇宙空間を駆け巡ります。この想いというエネルギーに誘導される形で現実が創造されていくのではないかと思うのです。

ここで、会社とは、宇宙空間に漂う一隻の小船だと考えてみてください。もし、社会の進歩と調和に資するものを応援するという宇宙の追い風を感じ、これを受けるように帆を張ることができたならば、小船はもの凄いスピードで進んでいくことでしょう。更に、経営者が、正しい想い(経営理念)を持って社会の進歩の調和に資するために会社があると位置づけ、会社の行いをこの想い(経営理念)に揃えていけたならば、この小船は、追い風を受けるだけではなく、未来の時制からも自動誘導で引っ張られるのではないかと思います。

豊かな人間観がステークホルダーの共感をもたらす

次に、「人間観」について見てみましょう。「人間観」とは、読んで字のごとく、人間に対する考え方を言います。松下氏は、人間には、宇宙の動きに順応しつつ万物を支配する力が、その本性として与えられていると認識していました。

しかし、ここではもう少し一般的な人間観について見てみたいと思います。会社は、経営者一人でどうにかなるものではなく、従業員の働きやお取引先の協力、お客様からの愛顧などによって成り立っています。従って、人間を第一に事業運営をしていかなければ、たとえ良い戦略があったとしても実行されず、絵に描いた餅で終わってしまいます。

次に、機械とは異なり、人間の感情や能力は、時間や環境によって変動します。皆さんのご経験などに照らしてみても、ご自身の感情を安定させ、能力を最大化させるのは、「宇宙観」に合ったこと、すなわち、社会の進歩と調和に資することに取り組んでいる時と言えるのではないでしょうか。

ここまで考察していくと、松下幸之助氏が、経営者にとって大切なこととして「宇宙観と人間観」を挙げられた理由が、多少なりとも紐解けてきたのではないかと思います。

では最後に、「宇宙観と人間観」は、本コラムで取り上げる「氣」とはいかなる関係にあるのでしょうか。

「氣」とは、前回のコラムでご紹介したように、宇宙に偏在する霊妙なエネルギーです。「氣」は、「宇宙空間にある社会の進歩と調和に資する正しい行動に吹く追い風」とは、極めて相性が良いものです。従い、「宇宙観」を理解する経営者の下で経営された会社は「氣」が満ちてくることが多いと言えます。

人間のことを、「マイクロコスモス(小宇宙)」と呼ぶことがあります。武道的には、それは人間が自らの重心を丹田に置き、自然体で立つ時に、丹田を中心とした一つのマイクロコスモスとなり、自らの外と内が意識(氣)で交流している状態を言います。武道では、この状態を「捕らわれの無い状態」と言い、人間の最大能力が出ると認識しています。このような「宇宙観」と「人間観」を持つ経営者の下では、社員は一生懸命に働き、お取引先は共感によって力を貸してくださり、お客様もファンになってくださる確率が高まるのではないかと思います。パナソニック社員が石油温風器の回収活動を必死に行っている間、広告宣伝活動は石油温風器に関する陳謝と回収の呼びかけだけであったにも拘わらず、売上は落ちなかったと聞きました。

「氣」という概念だけで、勿論パナソニックの成功を説明できるわけではありませんが、国内外から稀代の経営者と評される松下幸之助氏が、経営者にとって一番大切なものとして、「宇宙観」と「人間観」を挙げておられたことには、一考の価値があるのではないかと思っています。

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