ロジックを超えるコミュニケーション(後編) 

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今回は、事例紹介をした前回に続き、「説得型コミュニケーションを成功させる3つのポイント」について具体的に解説していきます(この連載は、東洋経済新報社「Think!」2009年No.28号に寄稿の内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです)。

さて、改めて図1を見てほしい。説得型のコミュニケーションにおいて、相手の共感を呼び、動いてもらうためには、そもそもの目的を意識することや、内容面のロジックもさることながら、(1)「相手の『琴線』に触れる」こと、そして同時に、(2)「自らの強い『パッション』を込める」ことが必要だ。冒頭のケースは、この2つがほぼイコールにあると言えよう(なお、これはむしろ特殊な例であり、一般には別々の場合が多い)。そしてなおかつ、(3)「『琴線』と『パッション』に配慮した内容・デリバリー」が必要である。以下、順を追ってみていこう。

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ポイント(1) 相手の琴線に触れる

まずは、相手の琴線を知り、それに適切に触れることが必要だ。どれだけエネルギーを込めようと、相手の琴線を外してしまっては効果が薄くなる。このテーマは、突き詰めると、「人間はなぜ動くのか?」「人間が動く動機とは?」を考えることに等しい。これについては心理学や組織行動学にさまざまな理論があるが、そのすべてを網羅的に紹介することは誌面の都合上現実的ではない。ここでは、大きく2つの観点から、人を動かすものについて検討してみよう。

■「利益」vs.「大義・価値観」
ここで言う利益は、金銭的利益など、より数値化しやすい具体的な便益を指す。一方、大義・価値観とは、大げさに言えば「人間としての道」や「正義」など、相手が大事にしたいと考えている信念である。なお、図3の中にも示したように、この2つは180度反する、二律背反(トレードオフ)のものではない。両者をうまく交え、効果を高めることが肝要だ。

図3 「利益」vs.「大義・価値観」

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さて、一般に、利益は単純かつ分かりやすい。「○○をすれば▲▲万円のリターンが期待できる」「××を手伝ってくれればしかるべきポストで君を優遇しよう」といった具合だ。相手がこの利益を重視して動く場合には、それを極力数値化・具体化して「利益が見える形」に落とし込むのが有効だ。また、利益に関する説明は、ロジックで説明しやすいという特徴もある。「左脳的なアプローチ」とも言えよう。

留意事項として、利益を重視する相手は、不確実性を往々にして嫌う傾向がある。「どれだけのメリットがあるかを正確に予測することはできませんが、まずはやってみましょう」という説得は難しいことが多い。リサーチを厳密に行ったり、いざというときの代替案を用意しておくなど、可能な範囲で不確実性をつぶしておくことが求められる。

利益重視の相手はまた、それを前面に出すことを好まない場合も多い。つまり、金銭的価値を最重視しているにもかかわらず、回りからそう見られることは避けようとするのだ(常日頃からコミュニケーションをとったり、複数の評判を聞かないとなかなかそこまでは分からないものだが)。このような相手には、利益をしっかりと説明しつつも、それをオブラートで包み隠すような大義をあわせて提示すると有効である。

一方、大義・価値観は、利益に比べると「右脳的」なアプローチと言える。ただ、相対的に右脳的ではあるが、合理性はあり、理性に訴えかける部分が大きいので、情動にのみ訴えかけるやり方とは峻別しておく必要がある。

このアプローチは、うまく相手の琴線に触れられるようなものを発見できれば、非常に大きな梃子となって共感を生み出し、相手を動かすことが可能になる場合が多い。一般的には、以下のようなものがそれに該当する。

a) 社会全般においてに正義とされているもの(弱きを助ける、不正は許さない、など)
b) 特定の組織やコミュニティにおいて高く評価されるもの(リスクをとる、妥協せずに徹底的に考える、など)
c) 自分自身の強烈な原体験(子どもの頃に貧しい思いをした、親からずっとそういわれて育ってきた、など)

相手が一人の場合であれば、a)やc)が有効な場合が多い。例えば、元苦学生だった資産家に寄付を募るのであれば、「過去のあなたのような、可能性を持つ若者にチャンスを与えることが、成功者の義務なのではないでしょうか」といったアプローチが有効だろう。

相手が複数や組織の場合は、b)が効果的な場合が多い。例えば、「顧客のことを第一に考えつつ、彼らにイノベーティブな製品・サービスを提供する」ということを経営理念に掲げ、それが組織文化として定着している企業があるとする。そして、その会社の多くの従業員が、ある新しい経営手法に難色を示しているとしよう。この場合であれば、「この変革を怠ることは、長い眼で見れば顧客の信頼を裏切り、彼らに不利益を与えることになってしまうが、それでいいのか。そもそも、わが社はイノベーションに積極果敢に立ち向かう会社ではなかったのか」といった説得が有効となるだろう。

より右脳的なアプローチとして、理性ではなく、よりダイレクトに情動、感情に訴えかける方法論もある。金融機関から資金を引き上げられそうになったときに、「いま資金を引き上げられたら、家族ともども路頭に迷ってしまいます」と泣きつくような方法だ。

これについては、必ずしも否定されるべきものではないし、状況によっては有効となる場合も多い。しかし、こうしたアプローチの多用は、ビジネスリーダーが持つべき論理思考や合理的思考を損なう。基本的には、最後の最後に用いる伝家の宝刀として温存しておくのがよいだろう。先の金融機関相手の例であれば、いきなり感情的に迫るのではなく、まずは理性をもって、相手の大義に訴えかけ、たとえば、「金融機関たるもの、一時期の経営不振で方針を変えるのではなく、長期的視点を持ちながら全体最適を図るのが、公器としての役割ではないでしょうか」のように説得すべきであろう。

なお、いきなり感情を前面に出すことは勧めないが、まず相手の感情や立場を理解・尊重することは怠ってはならない。ここですれ違ってしまうと、むしろ、後段で合理的であれば合理的であるほど、逆に態度をより一層硬化させることにもなりかねないからだ。コツは、単純ではあるが、自分がそう扱われたくないようなやり方で相手を扱わないことだ。

■「危機感」vs.「明るい未来」
上記とはまったく別の観点だが、人を動かす大きな力となるのが、「危機感」と「明るい未来(ワクワク感)」だ(図4)。卑近な例で言えば、太っている人に対して、「このままだと長生きできないし、異性にもてないよ」というのが前者、「痩せると健康に良いし、もてるよ」というのが後者のアプローチである。

どちらのアプローチがより相手の琴線に触れるかは状況次第であるが、いくつかのコツを紹介しよう。

図4 「危機感」vs.「明るい未来」

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・どちらか一方に偏るのではなく、バランスよく提示すると有効である(特に、一度きりのコミュニケーションではなく、継続的にコミュニケーションする場合)。人間は同じことばかり言われていると感覚が鈍くなるし、感情に触れ幅を持たせることが、思考を活性化し、精神のバランスを保つことにもつながるからだ。

・企業変革などにおいては、職位が上の人間には危機感を強めに訴え、職位が下の者には「明るい未来」を強めに訴えると有効な場合が多い。

・調子の良いときには危機感を、調子が悪いときにこそ「明るい未来」を見せることが有効な場合が多い。

・危機感は往々にして悲壮感や疲弊感につながる。健全な危機感を訴える場合でも、雰囲気は明るく保つよう務める。

・特に危機感については事実(ファクト)で訴えると効果的である。重要な経営指標の時系列の変化や、満足していない顧客の生の声、競合を賞賛する顧客の声などをうまく取捨選択しながら示すことが必要だ。

・危機感も明るい未来も、「イメージが頭の中で動画イメージとして湧いてくる」程度にまで具体化するとよい。イメージが湧くと行動にも移しやすくなるし、記憶の中にも残りやすいからだ。これは、多くの人をさらに巻き込んでもらう上で重要なポイントとなる。

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