議論の出発点と到達点を明確にする 

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前回は、ビジネスにおける様々な議論が、「場の目的の共有・合意」→「アクションの理由の共有・合意」→「アクションの選択と合意」→「実行プラン・コミットの確認・共有」という4段階の「合意形成のステップ」を原型として捉えることができる、というお話をしました。では実際の「議論の仕込み」において、この大きな骨格を用いて具体的にどのように考えていけば良いのか? さらに深掘りしていきましょう。

「議論の仕込み」において、まずすべきことは、「合意形成のステップ」を踏まえ、それぞれの議論の場の「出発点と到達点を決める」ことです。今回の議論はどこから始めるべきなのか? そしてどこまでの結論を出すことを目指すのか? この2点を考えます。

このように書くと当たり前のように感じられるかもしれませんが、実は失敗する議論のほとんどが、「出発点と到達点」が適切に設定されていないことから生じています。設定以前に、そもそも議論の場の到達点は何か? 出発点はどこにすべきか?ということ自体、意識されていないケースが極めて多いのです。

議論の失敗は出発点と到達点の設定ミスが生む

到達点が不明確なままだと、議論の場において何を中心に議論すべきなのか? それぞれの論点にどれくらいの時間をかけるのか? どの段階で、どこに向かって議論を進めるのか?が、わかりません。結果、それぞれの発言をどう位置づけ、どう反応すべきか?を判断することもできません。その状態で議論を続けていると、参加者も、「何のためにこの議論をしているのか?」、「自分が言いたいことは今この場で言うべきことなのか、それとも別の機会に言うべきことなのか?」と迷いはじめ、相当にストレスを感じるようになります。

到達点が明確であっても、無理な設定をしてしまうと議論は上手く進行できません。よくあるのは、もっと前の段階に「出発点」を置くべきなのに、「ここまではわかっているはず」と、合意形成のステップの後ろから話を始めてしまう場合です。

たとえば、ほとんどの参加者がまだその件について問題意識すら感じていない段階、つまり「アクションの理由の共有・合意」が全く無い状態で、いきなり「実行プラン」を決めようとしても、「そもそも何でそんなことをやるのかわからない」となり、誰も納得しません。もしくは「ここに問題の原因があります」と言っても、そもそもその状況に問題があると認識していない人にとっては、何の話か理解できません。

出発点を間違ってしまうと、議論を進めている本人にはそのつもりがなくても「いきなり話を始めているが、何がなんだかわからない」、「結論を押し付けようとしている」ように見えてしまい、確実に反発を招きます。特に自分自身がその件についてずっと考えてきた事案であったりすると、他人も既に自分と同じ認識を持っていると錯覚し、出発点を後ろ倒しにして話を始めてしまうことが多いので注意が必要です。

出発点と到達点は、参加者の状況を予想しながら設定する

出発点と到達点の間を埋めるには、当然ある程度の時間がかかります。実際に議論をする時間だけでなく、議論の参加者が受け取った情報から話を理解するまでの時間、自分なりにいろいろな考え納得するまでの時間、もしくは自分以外の関係者と調整をする時間も必要です。こうした時間を十分にとらないと、たとえ結論自体には賛成であっても、「そんなにいきなり言われてもよく考えてみないと・・・」、「よろしいですか?と言われても部門に持ち帰って確認しないと今ここで返事はできない」、「そもそもそんなに性急に決めるのは無理だ、失礼だ」と、進め方自体に強い反発を持たれてしまいます。これは、人は自分が十分に理解・納得・検討する時間を与えられずに判断を求められることに強いストレスを感じるためです。自分がその立場になるとよくわかるのですが、逆の立場だと、つい人に強制してしまうのです。

では、出発点と到達点はどのように定めれば良いのでしょうか? これは、「到達点の仮置き」→「参加者の状況を予想し出発点を決める」→「間に必要な時間と実際にある時間を比較し、到達点を調整する」という流れを意識すると良いでしょう。

最初に到達点を仮置きします。ここでは議論しようとしているテーマを取り巻く状況から、「いつまでにどういった結論を出す必要があるか?」と考えれば良いでしょう。その際、到達点は具体的にすることが必要です。「問題意識を共有する」では、まだ抽象的です。「今回のわが社のWebサイトの変更に対して、関係するメンバーが現状の問題点を正しく認識し、ぜひ変えるべきだと感じるとともに、変更の目的と方針、時期について合意し、変更に向けての作業にそれぞれが着手できるようになること」くらい具体的にすべきです。つまり、「その議論が終わった時点で、参加者・自分がどのような状態になっていれば良いのか?」を言語化するということです。

次に「参加者の状況を予想し出発点を」考えます。出発点はその議論に参加する人が、その話に関してどういう認識レベルにいるのか?によって決まります。そもそも話自体を全く知らないのか? 問題意識は持っているのか? 判断するのに十分な知識や情報を持っているのか?などです。それらをイメージしながら、その場で決めたいことについて、合意形成のステップのどの段階から始める必要があるか?を考えていきます。ここでは「こんなことは皆わかっているに違いない」などと考えがちですが、むしろ慎重に判断すべきです。

たとえば、あなたが現状の自社のWebサイトについて問題意識を持っていたとしても、他の人はそもそもWebサイトをほとんど見たこともないかもしれません。またWebサイトがどういった目的や役割を持って存在しているのか? そしてその目的を果たすためには本来どのようなWebサイトでなければならないのか?ということを理解していなければ、あなたがいくら「問題だ」と言っても理解や共感は得られないでしょう。そしてWebサイトを取り巻く技術的な環境や、他の優れたWebサイトの姿を知らなければ、イメージが湧かないかもしれません。そうすると、まずはこうした点について参加者の理解を得るステップが必要になります。

最後に、出発点から到達点に至るまでに、どれくらいの議論の時間、納得のための「間」が必要かを考え、それと議論に使える時間を比較し、どうするか?を決めていきます。1回の議論の場で出発点から到達点に至るのが難しければ、
・議論の場を複数回に分け、最初の場での出発点と到達点を決める
・事前に参加者に情報を提供したり、個別に話をするなどして、ステップを進めておき、議論の場の出発点を後ろに持って行かれないかを考える
といった調整をすることになります。

参加者には「見積もり+α」の到達点を伝える

出発点・到達点をどう決めるか?はケースバイケースですが、(1)到達点がはっきりしない (2)出発点を甘く(後ろ倒し)見すぎる、の2つが極めて多い誤りです。この誤りに陥らないためには、「この議論の場では、何がどのようになることが必要か?」、「いきなりこの話を始めて参加者に違和感はないか?」の2つを何度も自問すると良いでしょう。特に「アクションの理由の共有・合意」はされているのか?は、必ずチェックすべき問いです。議論がかみ合わず、混乱が生じるのは、そもそものこの部分での現状認識や問題意識の共有がされていないことが非常に多いためです。

なお議論に参加者する人に対しては、実際の見積もりよりも「少し先の到達点まで議論したい」旨を予め伝えておくと良いでしょう。実際に議論を始めてみると、出発点が前すぎる(すでにその段階は合意されていて議論する必要がない)という状況も起こりえます。このとき合意されている部分は「ではここは皆さんお分かりということで先に進めます」と即座に省略して先に進めれば良いのです。

一方で到達点を後ろに持っていくのは、参加者に事前に心づもりや準備が無いと難しく、「今日はそこまで決めるとは思っていなかった」、「そこまで進めるのであれば事前に言ってくれないと困る」といった反応になりがちです。到達点を少し先まで示して参加者に心の準備をさせておくと、事前の予想に対し実際の議論の場の状況が異なっても、参加者の対応できる幅が広がります。

このように議論の出発点と到達点を明確にすることと併せて、議論の中身に入る前にファシリテーターが押さえるべきことがあります。次回はそれをご紹介したいと思います。

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