「氣」と親和性の高い「経営」とは 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

はじめまして。中村知哉と申します。グロービス経営大学院や同・インターナショナルMBAプログラムなどで、リーダーシップや人的資源管理に関わる科目を中心に担当しています。

私が教鞭を執るグロービス経営大学院では、アジア社会および日本社会に「創造と変革」をもたらすリーダーを養成することを目指しています。ここで言う「創造」とは、ベンチャー起業や新規事業育成などを、「変革」とは、既存企業などにおいて事業戦略や構造を、社会のニーズに即応して大胆に変更することを想定しています。

このコラムでは、創造のように無から有を生じさせる、あるいは変革のように既存事業の方向性を大きく変える時などに、私が意識している「氣」ということと「経営」とのつながりについて書いてみたいと考えています。

「氣」と「経営」のつながり

商社勤務の父を持ったことから、私は幼少期をニューヨークやモントリオールといった北米で過ごしました。モントリオールの中学校に在籍していたとき、先生やませた同級生の「禅とは何?」、「世阿弥とはどのような人?」といった質問に答えられなかったことを恥ずかしく思い、14歳で日本に帰国してからは日本人としてのアイデンティティーを深めようと合気道の稽古に励み、雅楽を学び、社会地理学のゼミで日本の農村を歩いてきました。

大学時代には、体育会合気道部で一年間、主将を務めることとなり、ここで故・有川定輝師範の「受け」を取る機会に恵まれました。この一年間は、私の人生にとっては夢のような時間であり、武道について、身心の用い方について、日本人の心遣いについて本当にたくさんのことを教えていただきました。

大学卒業後は父に倣い、商社に就職しました。その後、幸運なことにも社費留学でハーバード経営大学院に進学する機会を得て、経営学を学びました。ただし実際に留学するまでは、経営大学院で学べるのは効率的にお金儲けをするための定石だろうと思っていました。

ハーバード経営大学院の看板科目であるGeneral Managementのクラス担当教官は、第一線の経営を退いたとは言え、80年代に中西部州でBest CEOに選出された実務家教員のTom Urban教授でした。Urban教授のクラスは驚きの連続で、ケースの主人公のCEOとして、オフィスに入って、まず何をする、次は何を、その次は何を、その次は何だ、どうしてそうするのだ、と、矢継ぎ早に行動を求められました。

不思議なことに、Urban教授の問いかけに応えながら、有川師範に合気道を教えていただいた時と同様に身心が震えることがありました。そこで私は思いきって、Urban教授に個人面談のアポイントをお願いしたのです。

「Urban先生のクラスにおいては、有川師範に合気道を教えていただいた時と同じように『氣』を感じるのです」

「ほぉー、君はその歳で『氣』が分かるのか。それは褒めてやろう。しかし、『経営』と『氣』をつなげることができないなら、ハーバードで経営を学ぶ意味はないぞ。出直して来い」

Urban先生は言われました。この面談は私にとって、とても衝撃的なものでした。西洋人の経営者が「氣」の概念を知っていた。しかも、「氣」と「経営」がつながると言い、これが出来ないならばそもそも経営を学ぶ意味はないぞと断言した。一体、経営とはいかなる世界なのか。私の興味は尽きなくなりました。

「氣」は宇宙に遍在する霊妙なエネルギー

そもそも「氣」と聞いてどのようなものを皆さんは想像されるでしょうか。私は、「氣」とは宇宙に遍く存在する霊妙なエネルギーであると理解しています。このエネルギーには不思議な性向があり、時に集まったり、時に離れたりします。良い身心の使い方をすると「氣」の通りは良くなり、自身のエネルギー量が増していく一方で、悪い身心の使い方をするとそうしたエネルギーが一気に離散してしまいます。

この感覚は、日本に古くから伝わる華道・茶道・書道などの稽古をされている方は、よくお分かりでしょう。身心を整えることなく美しいお花、味わい深いお茶や綺麗な書は生まれません。また、スポーツや格闘技をされている方には次のように申し上げたいと思います。相手と相対した時に、相手の手足の動きを追うのではなく、手足に先行する気配や呼吸の変化を察知できると、相手を組み止めたり、捌くことはそう難しくはなくなる。この一つひとつの動きの背景にありベースとなっているものが「氣」である、と。

では、「氣」と「経営」はどのようにつながるのでしょうか。

経営には大別して二通りの視座があります。一つは株主重視の経営であり、もう一つはステークホルダー(利害関係者)重視の経営です。一つめの株主重視の経営についての説明は不要でしょう。一方、二つめの「ステークホルダー」は一般的に、お客様、お取引先、従業員、株主、地域社会などのように、その企業に対して利害関係を持っている集団を総称します。すなわち、ステークホルダー重視の経営とは、各々に異なる利害を有するステークホルダー全てとの関係性において、経営を行っていくスタンスとなります。

それでは、株主重視の経営とステークホルダー重視の経営では、どちらがより「氣」が流れるでしょうか。

「氣」は、宇宙に存在するエネルギーであるので、宇宙の生成・発展に合致した動きを好みます。宇宙の成り立ちや姿を想像してみてください。そこでは、核となる星の周りを衛星群が取り巻き、それらが独立して、かつ全体と調和しながら回転することによってバランスが保たれています。

これと同じ状態を、経営になぞらえて考えるなら、たくさんのステークホルダー(利害関係者)に支えられる、ステークホルダー重視の経営との整合性のほうが高いのではないでしょうか。株主重視の経営のように、特定集団をのみ意識した経営では、結果的に安定した回転(エネルギー)を生んでいくのが難しくなると、私は考えています。

では、事業創造や事業変革の場面において、どのような経営を志向するとステークホルダーが集まってくださるでしょうか。どのような関係を結んでいくとステークホルダーの集積ができ始めるのでしょうか。そして、どうしたら一つのシステムとしてこれらが回転を始め、安定するのでしょうか。

本コラムでは、そんなことを皆さんとご一緒に考えていきたい、そして、「氣」ということを通じて日本的経営の可能性についても考えてみたいと思っています。

名言

PAGE
TOP