キーエンス「顧客の欲しいというモノは創らない」 

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■キーエンスの価値観・仕事観
・製品を通じて、世の中のありようを変えたい
・最小の資本と人で最大の付加価値をあげる
・市場原理・経済原則が判断基準
・目的意識を伴った行動が成果を挙げる
・顧客の欲しいというモノは創らない
・環境の変化を先取りし、自らも進化する
・オープンな社風
・夢中になって楽しむ
・KeyofScience

平均年収1400万企業の強さ

工場用センサーの開発・販売を主事業とするキーエンスの高収益性はつとに有名だ。売上高営業利益率は常に50%前後を維持している。50%といえば、通常のメーカーであれば、粗利率としてもかなり高い部類に入る数字である。(ちなみに、2007年3月期のわが国の製造業の売上高営業利益率の平均は約5%、粗利率は約21%)

そしてもう一つ同時に知られているのが、従業員(2000人弱、単独)の平均年収およそ1400万円(平均年齢32.0歳。かなりの部分をボーナスが占める)という高給だ。同じくセンサー等を扱うオムロンのそれが、従業員数およそ5200人(単独)、平均年収約800万円(平均年齢39.3歳)であるから、いかにキーエンスが高給かわかる。それだけの給与を支払った後に、さらに営業利益率50%を実現しているということだ。

価値観や仕事観を深堀りする前に、少し戦略、マーケティング論の側面から見てみよう。キーエンスの高収益の理由は、しばしば経済誌などでも言及される。シンプルにまとめると次のような点が挙げられよう。

付加価値の源泉はヒト

・営業、マーケティングと研究開発に機能を特化し、製造は外注化するファブレス
経営
・直販による顧客DMU(購買意思決定者)へのコンサルティング営業
・顧客の生産性アップ(経済的価値)を徹底的に高めるソリューション追求アプ
ローチ
・顧客の現場の問題点を発見し、スピーディに「他の企業にはない」製品開発に結
びつける開発力
・製品開発に加え、スピーディな納品やサービス体制により、価格維持を実現

面白いのは、徹底的に「価値(Value)」を生み出す、という点にこだわっていることだ(同社のホームページでも、Valueは1つのキーワードになっている)。キーエンスの特徴として、開発担当者が何度も営業担当者と同行して顧客の現場に足を運ぶことが指摘されるが、現場に足を運ぶこと自体に意味があるのでがない。センサーという製品を扱って顧客に価値を生み出そうとしたら、おのずと顧客の現場に行かざるを得ない、という発想である。

ところで、「価値」は非常に多様な意味を持つ言葉だ。「付加価値」と同様の意味合いで用いられることも多いが、実は付加価値という言葉はやや曲者である。積上法の計算式によると、付加価値=労務費・人件費+賃借料+租税公課(印紙代など)+特許権使用料+純金利費用+利払後事業利益となる。この式からも分かるとおり、利益率が高くない会社の場合(多くの日本企業はこれに該当する)、付加価値は概ね原価以外のコストと一致する。

つまり、付加価値、付加価値と騒ぎながら、結局、かけたコスト以上の価値を顧客に認めさせることが出来ず、何とかコスト割れ寸前で踏みとどまっている——付加価値ではなく単なる「付加コスト」、というのが実態なのだ。

それに対して、キーエンスは付加コスト以上の、価格に反映されるだけの真の価値を生み出し、高収益を続けている。その根源にあるのは間違いなく「ヒト」の要素だ。しかも、それはスキルだけではなく、マインドの面に及ぶことが予想される。スキルだけで説明できるのなら、多くの企業がベンチマークし、キーエンス的なやり方を模倣するはずであるが、そうした現象は目立っては見られないからだ。

事実、キーエンスは、従業員のハードワークや粘り強さでも知られている。価値観や、それと整合した企業文化、経営システムなど、模倣しにくい要素がそこにあることが強く推測される。その観点で冒頭の価値感・仕事感を見ると、面白いことに気づく。

プレッシャーが生み出す潜在能力

「最小の資本と人で最大の付加価値をあげる(≒無駄は許されない)」
「市場原理・経済原則が判断基準(≒何事も合理的に。最終的には数字を残さないとダメ)」
「目的意識を伴った行動が成果を挙げる(≒目的意識はもって当然)」
「顧客の欲しいというモノは創らないる(≒顧客が自分でも気づくような提案しか出せないようならば存在価値がない)」
「環境の変化を先取りし、自らも進化する(≒進化できない人間は不要)」
「夢中になって楽しむ(≒夢中になれない人間は通用しない)」

オープン、楽しいという側面を打ち出しながらも、一方で、強烈なプレッシャーがその裏側にあることが見えてくる。

GEやマイクロソフトなど高収益企業の共通点として、「強いプレッシャー」というものがある。それは社内外のライバルとの競争である場合もあれば、ストレッチした目標の場合もあるだろう。あるいはカリスマ的経営者の存在がプレッシャーを生む場合もある。

いずれにせよ、従業員を強く駆り立てる「何か」があり、実際に目に見えやすいリターン(金銭や自分自身の成長など)があると、人間は大きな力を出す。

企業文化(当然、先輩の態度や行動、経営者のメッセージ、評価制度、採用での人材の見極めなどによって維持・強化されていく)も含め、その設計がうまくいっているからこそ、稀有な収益性が実現できていることは、想像に難くない(キーエンスは、離職率も業界平均と比べて低い)。

なお、プレッシャーには良きプレッシャーと悪しきプレッシャーがある、と私は考えている。どのようなときに人々が駆り立てられ、どのようなときに人々は疲弊したりしらけたりするか、ぜひ考えてみてほしい。

ちなみに、キーエンスの採用関連サイトには以下のようなQ&Aがある。

Q:仕事が大変だと聞いたのですが・・・?
A:まず、時間的な側面では社員の健康管理面や仕事の効率等を考慮し、21:45以降の
残業は禁止しています。また、機密情報管理の側面から資料を家に持ち帰って仕事を
することも厳禁です。一方、精神的な側面ではハードな会社だと思っておいてくださ
い。キーエンスは若い人に仕事を任せる会社ですから、多かれ少なかれ社員はプレッ
シャーを感じながら仕事をしています。それをやりがいと感じられるかどうか、よく
考えてみてください。

採用前の候補者にまでこうした説明をするところに、同社の「キーエンスの価値観に
合うヒトこそが収益性の源泉」という強固な意志が表れているように感じられてなら
ない。

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