情報の洪水の中で高まる目利きの重要性 

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IT技術の進歩は、誰でも簡単にしかもほとんど無コストで発信することを可能にした。これは単純明快な事実だ。発信する内容が人を呼び寄せるものであれば、そこに書き手と読み手という関係が生まれる。例えば、ケータイ小説というのもその1つだ。そしてケータイ小説から紙の小説が出版されたりもする。

しかしその一方で、そこに生み出されたのは情報の洪水である。個人がやっているブログはともかく、例えばWikipediaを見てほしい。このネット上の百科事典は、多くの人が執筆や編集に携わることによって、知識を共有しようという試みであり、それなりに効用もある。しかし同時に、微妙な事柄については、信用できる情報ソースとしては使えない。なぜならそこに書かれていることが「中立的で事実を大きく逸脱していない」という保証がどこにもないからである。

Wikipediaは「多くの人が編集に携わることによって、内容の客観性が保証される」という前提に立っていたということができるが、そうはなっていない項目も少なくない。むしろ書く人の立場によって、物事の見え方が変わってくるために、微妙な問題については、この記事は「編集中」であるというただし書きが目立つようになる。

情報の多さと情報の豊かさは違う

「情報の多さ」と「情報の豊かさ」は異なることであると筆者は考える。ITがもたらしたのは、基本的には参加者が増えたことによる「情報の多さ」である。もちろんそのあふれんばかりの情報には、豊かな情報が含まれているが、「豊かな情報にどう行き当たるか」「どのように手に入れるか」という、今までにはない新しい問題が生まれている。

従来なら、新聞の見出しを見るとか、雑誌の目次を見るなどして「自分の欲しい」情報に接することができた(はずだった)。しかし、ネットに流れている情報が“多すぎる”場合、かなり検索技術を磨かないと欲しい情報を入手することができない。筆者の検索技術に問題があるのかもしれないが、時には洪水のような情報の中で溺れそうになることもある。

紙メディアは、情報を伝えるというだけではなく、実はその前に情報を選んでいるということが、ITによる情報の洪水の中で改めて浮き彫りになったということが言えると思う。前回、ITが紙メディアを押しやっていることは間違いないが、このことがむしろ情報の価値を引き上げることにつながるのかもしれないと書いたのは、このことである。

つまりメディアが何であろうと(紙、電波、インターネットなど)、そこに伝えられる情報は、誰かがセレクトしたものであり、その意味ではセレクト(言葉を換えて言えば、編集)することの重要性がますます高まってくるということだ。

情報の価値とは何か

情報の価値とは、その選ぶ人間の目利きの価値でもある。ここで言う情報とは、例えば日々の株価の動きのようなものではなく、その株価がなぜ上がったのかといった、背景を分析したようなものを指している。単純なファクト(例えば株価)は、どうやって伝えられても別にそれによる差はない。そこには「時間差」があるだけだが、背景分析となるとどのようなファクトに基づいてどう分析したのか、極端なことを言えばアナリストの数だけ分析がある。その分析のどれが納得できるか、すべての分析を比較することはできないから、結局、どの目利きを信用するかという話になる。

フリーになってから、情報源はインターネットに頼ることが増えた。ネットは海外情報へのアクセスを容易にしてくれる。例えば、ホワイトハウスで毎週末行われている大統領の国民向けラジオ演説。一昔前だったら、例えば全文を掲載した新聞記事でも出ない限り、日本でそれを目にすることはほとんど不可能だっただろう。今では、ホワイトハウスのWebサイトに行って、数回クリックするだけで、オバマ大統領の演説動画を見ることができるし、スクリプトも当然読むことができる(mp3をダウンロードすることもできる)。

ホワイトハウスのWebサイトでは、大統領の国民向け演説が動画で配信されており、誰でも視聴できる(左)。
全文も公開されている(右)

しかし、例えばこの演説が持っている意味ということになると、米国の新聞や英国の新聞・雑誌がどう分析しているかを参考にせざるをえない。彼らはかなりの程度信頼できる「目利き」だからだ。

これらの「目利き」の人々がいるのは、現在のところはまだ紙や電波の世界だと筆者は思う。ネットにも信頼できる目利きが各分野で登場すれば、いよいよ紙メディアは衰退するだろうと思うが、実際にはどうなるだろうか。

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