組織力を高めるファシリテーション 

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この間、ある企業で、私が育成に関与したファシリテーターが活躍する現場に立ち会う機会がありました。最初はぎこちないものの、だんだんと相手に考えさせ、発言を引き出すコツを掴み、その効果の大きさに手応えを感じ、さらに発言を引き出そう、考えさせようと成長されていく方々を見て、改めてファシリテーションのすばらしさを実感しました。

さて、前回は、ファシリテーションは単なる会議進行の技法ではなく、リーダーの必須スキルだ、というお話をしました。

なぜそうなのでしょうか?今回はその背景を考えてみたいと思います。私は企業の方々と戦略や組織のあり方についてディスカッションをする機会が多いのですが、その中で感じるのは、ファシリテーター型リーダーの必要性は今後ますます高まること、そしてそのスピードも加速していくだろう、ということです。

戦略も変え、組織も変えた。でも人が動かない・・・

たとえば、私がお付き合いしたあるメーカーでは、これまで屋台骨を支えてきた事業の競争力低下に直面し、新しい事業構造への転換に迫られていました。経営陣はまず明確なビジョンを打ち出し、業務プロセスを革新し、それにあわせて組織形態や人事制度も変えました。

変革にあたり、経営陣は各部門の部長達に方向転換の必要性や趣旨をじっくり説明しました。むろんその下の社員に対しても、様々な機会を捉えて繰り返し伝え、また部長達も部下に方向性を何度も説明しました。細かい話は省きますが、この会社がとった戦略自体は理にかなったものであり、新方針は投資家からも歓迎されました。

しかしいざ変革がスタートすると、組織のあちこちで不協和音が聞こえてきました。特に多いのは「総論賛成、各論反対」。変革の大きな方向性については皆よく理解し、同意しているにも拘らず、いざ自分の業務に関係する話になると、「そうはいっても・・」となかなか話が前に進まない。

「部門間の連携に問題がある」と判断した経営陣は、各機能を横串で束ね、調整・推進する新組織を立ち上げ、そのリーダーに強い権限を与えました。しかし状況は好転せず、かえって調整すべきことが増え、業務効率も落ち、ミスも目立つようになりました。適切なビジョンを示し、それを全体に伝え、組織や制度も変えたにもかかわらず、思ったような成果が出ないのです。

こうした課題を抱える企業は枚挙にいとまがありません。我々グロービスに持ち込まれる相談も、最近は「ビジョンを浸透させたい」「社員の問題意識を高めたい」「自分で考えて自律的に問題解決ができるマネージャを育てたい」といったテーマが大変多くなっています。

一昔前に比べると、企業の悩みが「どういった戦略を取るべきか?」から、「戦略も変え組織も変えた。でも人が動かない。どうしたら組織全体を目指す方向にすばやく動かし、戦略をやりきることができるか?」に、明らかに変わってきているのです。

「腹落ち感」が実現できているか?が改革成功のカギ

こうした悩みに応えるために必要なものは何か?を考えてみると、ある意味とても当たり前な話ですが、「腹落ち感」という言葉にたどり着きます。

この企業の例では、戦略の方向性を何度も説明し、理解しているはずなのに、社員は動きませんでした。こうした状況では、全体の方向性に賛成していても、それまで自分が経験したことがない新しい問題に対処しなければならず、自分の仕事に具体的に落とし込んでみると判断に迷ってしまうのです。

たとえば、将来に向けて戦略の方向性を変えたとしても、いきなり既存の事業がなくなるわけではありません。このため目の前の仕事を上手く廻すことを重視するのか?そこに多少の悪影響が出ても、将来を見越してやり方や資源配分の優先順位を変えるのか?といった様々なコンフリクトが生じます。その中で適切な判断をしていかなければなりません。

また、既存のやり方に適した組織を新しい組織に変えるとなると、役割分担の調整や何を優先すべきかの判断などさまざまな調整事項が発生します。当然多くの関係者から「なぜそうするのか?」「変えるとこういった問題が生じるがどうするのか?」といった疑問や懸念が噴出します。それに対して適切に答えていかなければなりません。

経営陣は当初「組織の横の連携に問題がある」と考えていましたが、むしろ問題は別のところにありました。組織の上から下への情報の縦の流れの中で、確かに方向性を「伝えて」はいたものの、組織階層を下りていくにつれ、個々の社員の中で事業変革に対応していかなければならないという「腹落ち」が、段階的に弱くなってしまっていたのです。その結果、多くの社員はこのような難易度の高い状況の中で、身動きが取れなくなっていました。

では、どうしたら組織メンバーに「腹落ち」させることができるのでしょうか?そしてそもそも「腹落ち感」とは何なのでしょうか?次回はここをもう少し掘り下げてみたいと思います。

(本稿は、グロービス経営大学院のサイト上に2007年12月に掲載された内容を、再掲するものです。既掲載分である第7回までを毎週木曜日に順次掲載のうえ、4月からは、いよいよ続編を開始の予定です。どうぞお楽しみに)

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