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金融マンだけではない。マスコミ関係者もインサイダーに注意せよ

投稿日:2009/03/03更新日:2019/04/09

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「個人の運用はどんなポートフォリオですか」といったことをよく聞かれる筆者の山崎氏。かつてファンドマネージャーで大金を運用していた山崎氏だが、個人の金融資産は銀行預金とMRFのみ。その理由は……?(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2009年2月28日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)

証券会社や運用会社の社員は、仕事で得た情報を個人の投資に生かして、大いに稼いでいるのではないか。「インサイダー取引」という言葉がニュースにも登場するようになったので、最近は減ったかもしれないが、世間ではまだそう思っている人がいるようだ。筆者も「ところで、ヤマザキさん個人の運用は、どんなポートフォリオになっているのですか」という質問を受けることが、これまでにもあったし、これからも時々ありそうだ。

あらかじめお答えしておこう。筆者はたいした金融資産を持っているわけではないが、現在、自分の金融資産は複数の銀行の預金とMRF(マネー・リザーブ・ファンド)だけ。もっと正確に報告すると「楽天グループの全社員に」ということで三木谷浩史氏から贈与を受けた楽天の株式が1株(時価、約5万円程度)あるが、このほかに株式や投資信託などは持っていないし、個人年金保険(変額保険)もない。

自分のお金を運用する人は「プロではない」

一般論として考えると、ある程度の金額はリスク資産で運用した方がよかろうし、個別株への投資も含めて投資は好きだ。しかし仕事柄、マーケットの動向や運用の方法についてメディアでコメントすることが多いので、自分で投資することを控えている。

例えば、自分がA社の株式を持っているとする。そしてA社についてプラスの材料をコメントすると「自分の持ち株の値上がりのために、“買い推奨”している」と取られるだろう。逆に自分のコメントからA社を外すことにすると「本当はいいと思って持っている銘柄なのに、それを言わないは不誠実だろう」という自責にさいなまれる。この点がどうにも面倒なので、所属会社(楽天証券)のルール上、株式投資を全くやってはいけないということはないのだが(会社に届けて会社で売買し、会社の口座で一定期間以上保有するなら、持ってもいいことになっている)、現在、個人としては株式に投資していない。

証券会社や運用会社では、通常、社員の株式投資に何らかの規制を設けている。証券会社の場合、自社の口座でだけ取引をすることと買った株式は一定期間以上(短くて1カ月、長くて半年くらいの期間)保有すること、といった条件の下に、社員の株式投資を制限している。また引き受け部門(株式の引受・公開・審査)など、企業の内部情報に触れやすい部署では、全面禁止になっている場合が多いなど、部署によって社内規制を変えているケースもある。

業界用語では、自分が所属する以外の証券会社に口座を持って売買注文を出すことを「地場出し」(地場証券に隠し口座を持つことが多いからだろう)と称し、また個人資産で相場を張ることを「手張り」と称する。前者はルール違反だし、どちらにも「隠れてする悪いこと」のニュアンスがつきまとう。

運用会社の場合は、顧客のお金を動かしていることもあり、証券会社よりも厳しく社員の個人投資を規制している場合が多い。かつて筆者が在籍した投資信託運用会社では、個人の株式投資は全面禁止だった。

外資系の会社の方が社員の個人投資に甘い場合があるなど、意外なケースもあったが(小型株のファンドマネジャーの妻が夫のファンドの投資銘柄のワラント(発行会社の株式を買い付ける権利の付いた社債)を持っていて、これが社内で登録されていてあきれたことがある)、基本的には、個人投資は“御法度”といっていい。

多くの金融マンは投資に関わっている

筆者は基本的には、プロのファンドマネジャーとは「他人のお金を運用する人」だと思うので、「自分のお金も運用する人」を正しいプロとは認めたくない。ある外国人ファンドマネージャーは「ファンドで先に買って、ファンドで先に売る、ということならいいではないか」と筆者に言っていたが、「もし自分が自動車を買うために持ち株を売りたい場合は、ファンドの持ち株を売るのか? 個人資産の影響がファンドに及ばないという言い逃れには無理がある」と反論したことがある。

しかし証券マンにせよ、ファンドマネジャーにせよ、基本的には相場が好きだし、普通の人よりもお金が好きな人が多い(お金に熱心になれることは金融マンの重要な資質の1つだ)。親戚や友人の口座を借りて、株式投資をしている金融マンは、ゼロではないはずだ。自分のお金を預けて株式を売買してもらっているとなるとルール的にも問題だが、友人に売買をアドバイスして儲かった場合にお礼をもらっている、というような微妙なケースを含めると(厳密には「アウト」だと思う)、かなりの数の金融マンが個人的な運用に関わっているのではないか。

もっとも金融マンが金融ビジネスのプロであるからといって、自分の株式投資で普通の人よりも儲けられるかというと、どうもそうではないようだ。過去20年くらいの相場展開の影響もあるだろうが、「実は……」という打ち明け話にあっては、損をした話の方が多い。

マスコミ関係者も注意が必要

ところで話のついでに言っておきたいのだが、新聞・放送などのマスコミ関係者は社内ルールで株式投資を禁じられている場合が多いのだが、証券会社のように社内で社員をチェックするシステムがないせいもあるのだろうが、個人で投資に手を染めている社員がかなりいる。メディア関係社員のインサイダー取引が事件化して報道されることがあるから、気付いてはいるだろうが、経営者はもっと危機感を持った方がいいと思う。経済や投資を扱うテレビ番組のスタッフ(プロデューサークラスまで)の投資話などを聞くと、「これは危ない!」(会社として)と思うケースがままある。

米国ではアナリストのレポートの終わりに、証券会社が所有する株式銘柄の外に、「当アナリストは○○と××と△△の普通株式を保有している」といった注記が見られることがある。自分の持っているもの、利害を明らかにして、情報を発信するならそれでいいではないか、という考え方なのだろう。情報の受け手側にも成熟が必要だが、こういう整理の仕方もあるのかもしれない。ただ筆者は、自分の持ち株と発信する情報の間で“利益相反”を完全に取り除くことはできないと思うし、そうまでして個人資産で投資したいとは思わない。

筆者の世代では、金融マン、特に運用の関係者は、個人投資に意識的に距離を置く人が多かった。証券会社の友人によると、最近の若手証券マンの中には、社内ルールに則ってだが、自分で投資をする社員が昔よりも多いという。金融マンの個人投資に対する意識も変わりつつあるのかもしれない。

▼「Business Media 誠」とは

インターネット専業のメディア企業・アイティメディアが運営する、Webで読む、新しいスタイルのビジネス誌。仕事への高い意欲を持つビジネスパーソンを対象に、「ニュースを考える、ビジネスモデルを知る」をコンセプトとして掲げ、Felica電子マネー、環境問題、自動車、携帯電話ビジネスなどの業界・企業動向や新サービス、フィナンシャルリテラシーの向上に役立つ情報を発信している。

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