「天下り」に「渡り」……いろいろあるけど、官僚問題の“急所”は 

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825yd kokkai

「天下り」や「渡り」の問題で、公務員の人事制度が揺れている。官庁による斡旋の禁止などが議論されているが、そもそも「公務員の人事制度をどうすべきか」という基本的なことを忘れているのではないか。(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2009年2月5日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)

公務員の人事制度が揺れている。「天下り」(官庁から民間への再就職)を禁止するかどうか、天下りや「渡り」(民間から民間への再就職)の官庁による斡旋を禁止するかどうか、幹部人事を内閣府に集約するかどうかなど、いくつかの争点があるが、政府・与党の態度がすっきりしない。手続きも大事だが、それ以前に、公務員の人事制度をどうするのがいいかという基本的な考え方がはっきりしない点が物足りない。

そもそも公務員に再就職の斡旋があることが奇妙だが(ハローワークに行けばいいのに!)、制度を廃止しても水面下での就職紹介はなくならないだろうから、この点にこだわることに価値があるとは思えない。天下りの可否こそが根本的な問題だし、管理職のポストが不足していてコストにもシビアなはずの民間会社が、なぜこれを受け入れるのかという点をよく考える必要がある。

人事制度こそが官僚問題の急所

筆者は公務員になったことはないが、かつて公務員の人事制度について文章を書いたことがある。1994年に東洋経済新報社の高橋亀吉記念賞という懸賞論文に「官僚を逃がさない官僚制度改革」という論文を書いた(ありがたいことに優秀賞をいただいた)。

この論文では、官僚制度の問題をエージェンシー問題(国民が依頼主、官僚が代理人となる構造に付随する問題)だと位置付けて、キャリア官僚に成果に応じた報酬(かなりの高収入も含む)を払う代わりに、クビもありということにして、官僚の在任期間と同期間の天下りを禁じる、という組み合わせを提案した。選評では分析の枠組みをほめられたが、官僚の人事制度を詳しく論じたことは、問題の矮小(わいしょう)化だとあまり評判が良くなかった。しかしその後の展開を考えると、人事制度こそが官僚問題の急所だという筆者の考えは変わらない。

今、改めて考えると、クビは「あり」にしなければならないと思うし、優秀な官僚の報酬はかなり高くても構わないと思うが、「天下り禁止」は少し微妙だ。

人材の入れ替えの可能性、端的にいって「クビ」の可能性は必要だと思う。行政組織にも時には「CHANGE」が必要だし、そのためには人材に流動性がなければならない。

官僚はいったん就職すると、基本的に同じメンバーが上下関係も含めてずっと維持される。利益集団としてみると、これは強力で、官僚は自分たちの長期的な利益のために結束できるが、会社が傾くと職を失う民間人、あるいは選挙に落ちるとただの人になる政治家などは、集団として長期的な利益のために結束することが難しい。長期的な駆け引きにあって、利益集団としての官僚には有力な対抗勢力がない。

一方、国の運営にあたって影響の大きな重職なのだから、終身雇用を剥奪する代わりに、優秀な人材にはそれなりの報酬が必要だろう。優れた官僚の仕事には、高給を払う価値があると思う。その代わり、人事評価や報酬は国民に完全に公開されるべきだ。

官僚の仕事ぶりを評価する人は誰? 正当な評価ができるか? 仲間内の「お手盛り」にならないか? という問題もある。しかし金銭的なコストは高く見えても、優秀な仕事と清潔さ(民間と癒着しないこと)をお金で買えるのだとすれば、こうしたやり方は制度の組み合わ方の1つとしてあり得るのではないか。

微妙な問題を残す「天下り禁止」

825yd souri 総理大臣官邸

「天下り禁止」が微妙なのは、関連する民間会社への転職を封じられると、官僚という就職先の魅力が大きく減少するからだ。将来の働き方の可能性を制限されるのは痛い。「回転ドア」と呼ばれる米国式の官民交流型の人事制度は、官民の癒着に問題はあるかもしれないが、働く側からすると魅力的だ。関連業界への再就職を認めつつも、官民の癒着には刑事・民事両方で大きなペナルティを課するという制度の組み合わせにも一考の余地があるかもしれない。

官僚問題の論文を書いた当時は、実効性のある官民癒着の防止策は現実的には不可能だから監督する側(官)とされる側(民)の人事交流には一定の制限が必要だと考えた。だが先日、キャリア官僚出身の政治家と話していたら、「天下りを認めても認めなくても癒着なんてあるんだから、天下りを認めてもいいのではないか」という、がくぜんとするけれども、現実的な反論をいただいた。人事制度の問題とは別に、官民の癒着に対する対策を考えなければならないということだろう。

就職先として公務員は魅力的か?

「天下りの可否」と「官僚の報酬」が官僚という就職先の魅力全般を通じてつながっているように、官僚の人事制度問題では、(1)官民の人材交流の有無とルール(天下り制限の有無と、制限する場合のルール)、(2)官僚における「クビ」の有無、(3)公務員の報酬制度・評価制度など、複数のポイントをセットで考える必要がある。

就職先としての公務員の魅力は、現在落ちているはずだ。昨今の不況で、就職先としての公務員の人気が高まっているようだが、キャリア官僚(上級職)については、ここ数年、優秀な学生が公務員をあまり希望しなくなったと言われている。後者については、外資系金融機関の魅力の急低下などで、公務員人気の一時的な復活もあるかもしれないが、世間的なムードとして“公務員叩き”は止む気配がない。そのためプライドや夢を抱いて公務員に応募しようとする学生が減っている可能性がある。

学生当時の筆者は、価値観の持ち方として公務員に共感を感じなかったので民間企業への就職しか考えなかったが(結局、総合商社に就職した)、後から転職することも考慮に入れると、経験として公務員は面白かったかなとも思う。

これから就職を考える学生も、公務員、留学、民間企業といったキャリアパスには一考の余地があるだろう。ただし、あまり長期間公務員でいると、民間企業に馴染むことが難しくなりそうだから、キャリアの作り方は難しい。もちろんその場合も、公務員の経験を仕事に有効に使うのはいいが、官民のアンフェアな癒着には手を染めない節度を期待したい。

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