さあ“こだわり”を捨てよう! それが運用の弱点だから 

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2008年の12月に『超簡単 お金の運用術』という本を刊行した山崎元氏。超簡単な運用として分散投資を勧めているが、今回は読者が本を買わずに済むようにと、ちょっぴり種明かしをしてくれた。(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2009年1月29日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)

2008年の12月に、筆者は『超簡単 お金の運用術』(朝日新書)という本を出版した。これまでは、前提となる理屈を説明してから具体的な運用方法を説明するような本を書くことが多かったのだが、今回は、簡便法として割り切った具体的なマネー運用の方法をいきなり紹介した。

簡単な方法なので、読者が拙著を買わずに済むように種明かしをしてしまうと、日本株と外国株式の株価指数に連動するインデックスファンド(日本株は「TOPIX」、外国株は「MSCI-KOKUSAI」)を大まかに4対6の比率で買う方法だ。このリスク資産の組み合わせを、「借金しない範囲で好きなだけ買って」、「貯金箱代わり」に使おうというもの。具体的な運用商品選択は、日本株はETF(上場型投資信託)なら「TOPIX連動型上場投資信託」(コード番号1306)または「STAM・TOPIXインデックス・オープン」(設定は住信アセットマネジメント)、外国株の選択は、ETFでは「iShares MSCI-KOKUSAI」(ティッカー・コードはTOK)、普通の投信なら「STAMグローバル株式インデックス・オープン」(設定は住信アセットマネジメント)である。

ちなみに株式のリスクに投じたくない資金については、信用リスク上の優位性と利回りのそこそこの有利性の観点から、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)か個人向け国債(10年満期・変動金利型)を購入することをお勧めした。

人間は「勝ち負け」にこだわる

リスク資産(特に株式)の比率が高くても大丈夫なのか? と心配される人もいるだろうが、分散投資された株式の価値は案外安定していて、少なくともいきなりゼロにはならない。それが長期的に有利な投資対象で、かつ、いつでも容易に換金できるので、金融資産の大半をリスク資産に投入しても、案外大きな不都合はないはずだ。将来お金が必要になったら、必要なだけ解約して現金化すればいい。我々の多くは、長期のローンを組んだ住宅の購入とか、結婚(解約コストの非常に大きな「投資」だ)といった、株式投資よりも大きなリスクを平気で取っている。

ところが、読者の反応をお聞きしてみると「自分の買値よりも安い価格で投資信託を売ることにどうしても抵抗感がある」、「理屈は分かるのだけれども、私にはできないかもしれない」という声が相当数ある。

また、雑誌の取材や講演会などの質問でも、「現在、損をしてしまっているのですが、どうしたらいいですか?」というご質問が頻繁にある。

「正解」は簡単で、「自分の買値を気にせずに、現状の価格で売りたいか、買いたいかを判断すればいい」ということだ。含み損は既に起こってしまった現実である一方、問題はこれからどうするかということだ。そして、自分の買値は市場の今後の動きに影響を与えるファクターではないのだから、現状を起点に物事を考えるしかない。自分の買値にこだわらずに、考えることが重要だ。

しかし人間は、どうしても自分の運用の「損」、あえて中身を解釈すると「勝ち負け」にこだわるようだ。これは普遍的な傾向のようで、行動経済学の分野では「プロスペクト理論」という有名な理論で説明している。しかしプロスペクト理論も、人間が「なぜ」勝ち負けにこだわるのかを説明してはくれない。

運用に向かないのは「こだわりの強いタイプ」

世の中には、こだわりが強い人とそうでもない人がいるが、どうにも運用に向かないのは、当然、こだわりの強いタイプだ。このタイプの人は、全体ではなく個別の投資対象の単位で勝ち負けにこだわる傾向があり、買値よりも値下がりしている銘柄を買い増しして平均買いコストを下げて何とかプラスに持ち込もうとする、いわゆる「難平(ナンピン)買い」を行う。逆に、儲けの出ている投資対象に資金を集中するような行動は、集中投資のリスクを取ることになりやすいし、「負けないため」には大きなリスクを抱えることになりやすい。

この種のこだわりは、一面では性格的なものなので、矯正が難しいが、あえて1つだけ対策をアドバイスすると、自分の運用について他人と話すのを止めることだ。自分の運用について他人に話す状態をイメージすると、余計な言い訳を自分だけで考えたり(誰も聞きたくないのに)、自分の失敗に対する気まずさ、恥ずかしさのような感情がわいてきたりする。そうすると「純粋に、合理的に」という方向で考えることが難しくなってしまうことがある。

もっとも「他人に話す」ということは、儲けた場合の大きな楽しみでもある場合が多く、これを捨てるというのは味気ないと思う人がいるかもしれない。また運用のように不確実性のあるゲームでは、他人の意見を求めたい心境になるのが自然だし、特に他人の同意は、本当はそれが役に立たないはずだと分かっていても心強いものだ。親切なアドバイスのつもりでも、このアドバイスの実行がまた難しいのかもしれない。

行動経済学がまさに教えてくれるように、金銭的な損得の上で合理的な行動と、人間にとって自然な感情との間には、少なからぬ対立がある。だが、ことお金の運用を行う場合には、合理性の側に立つ方が得な場合が多い。実際、人間心理の弱点を巧みに突いた金融商品を買って損をしている人が多数いるし、「この方が気が済む」という風に自分の感情を甘やかしていることも多い。

個人のお金の運用に戻ると、「自分の買値にこだわらない」ということが徹底できると、一生を通じて、かなり得になるはずだ。

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