カメラマンに見る、デジタル時代の仕事事情 

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カメラマンという職業は現実に目指したことはないが、昔から「いいなあ」と思っている職業の1つだ。クリエイティブな仕事だし、何よりカメラのメカが好きだった。そういった訳で筆者は、ずっとカメラ雑誌の愛読者だし、少なくともカメラ製品動向は大まかに把握している(よくいるカメラ好きのオヤジの1人なのだ)。

一方、仕事の上では、恥ずかしながらよく写真を撮られる。雑誌のインタビューなどで、ここ数年、毎週1回程度、写真を撮られている。某政治家(さる自治体の首長だ)は、記者には丁寧に接するが、カメラマンを一段低く見てぞんざいに扱うことで有名だが、筆者はカメラマンが好きなので、取材を受ける際にカメラマンとも話し込むことが多い。顔写真やインタビューカットなど、サンプルとしては偏りがあるが、ここ数年、デジタル化が進む中で、カメラマンの仕事ぶりの変化を見てきた。今や、フィルムで撮るカメラマンは、ひと月に1人いるかどうかというくらいの割合だ。

収入が「減った」というカメラマンは51%

“感じ”だけでは、デジタル化が進む中でのカメラマンの仕事ぶりを論じるには心許ない。なので『コマーシャル・フォト』の2009年1月号に「フォトグラファーの仕事白書2009」という、全国の写真家を対象としたアンケートが掲載されていたので、この結果を紹介しながら、「デジタル化」について少々考えてみたい。回答者の平均像はキャリア20数年、年齢は40代後半だ。紙面には、1999年に行われた同様のアンケートの結果が一緒に載っている。

まず、「ここ1年の収入の変化」だが、収入が増えたのは17%で、51%は収入が減ったと回答している。企業が広告予算を削り、民放の番組制作費が対前年比3割ほどの減と思われる昨今の状況を考えると、商業撮影が多いカメラマンの収入が減っていても不思議はない。ただし1999年も収入増が13%、収入減が50%と、似たような回答結果だった。振り返ってみると、1999年は大まかには「失われた10年」の最中だった。いよいよ不況か、と感じる今年の回答結果だ。

回答者のコメントを見ると、デジタル化を理由にした値引きの要請や撮影カット数の増加に不満や嘆きを感じているカメラマンが多い。あるカメラマンは、そもそもかつてのフィルムや現像代は撮影料の3~5%程度であって、デジタル化はさしたる影響がないはずだと嘆くのだが、クライアントの値引き要求は厳しい。

調査によるデータを持っているわけではないので、正確なことはいえないのだが、文筆業に関する近年の筆者の経験からいって、紙媒体の原稿料よりも、デジタル媒体(発表はWeb)の原稿料の方が、字数当たりの原稿料が安い傾向にある。字数当たりの原稿料は、作家が特別な人だった時代から(例えば夏目漱石をイメージされたい)、紙の印刷効率が上がり、さらにデジタル媒体のコスト効率の改善と並行して、主に供給者が増えたからだろうが、実質価格ベースでは全体的に下落している。

「スキル」の価値観が変わりつつある

今回の調査への回答コメントでも「デザイナーでもデジタルカメラで撮影して仕事ができてしまう」というものがあった。カメラマンのスキルの価値が急になくなるとは思わないが、世の中の技術的な前提が変わることによって、「スキル」の価値も変わることがあることに、改めて気付かされる。

カメラマン達の回答と一緒に寄せられたコメントには、デジタル化で可能になったレタッチ(後からの画像の加工)の時間が掛かることと、この労働時間に対する対価が十分に払われないことに対する嘆きが多い。確かに、デジタルカメラで撮影すると、フィルム代は掛からないし、現像の代金と時間も必要ないのだが、写真を満足のいく状態にしようと思うと、随分手間が掛かる。写真に多少なりともこだわりのある多くのデジカメユーザーは、そう思っているのではないだろうか。また仕事の結果がデジタル化されていることから、二次使用、三次使用に悩まされているとのコメントもあった。

カメラマン達の営業活動に関する回答もはなかなか興味深い。日ごろの営業活動は何をしているかとの質問に対しては、「何もしていない」が一番多く(30%以上)、営業に苦しむ(顧客がいない)ようではフリーは苦しいことが結果に表れているが、この次に多かった活動は「ネットを活用したプロモーション」だった(10%台半ばの回答)。

ちなみに、自分の写真を掲載したWebサイトやブログを持っているカメラマンが43%、持っていない人が53%だった。回答者の年齢を考えると、Webサイトやブログが、フリーランスのローコストな営業手段として機能している様子が分かる。ただし、この問いに対する回答には「非常に有効」とする回答もあれば、かつて有効だったが「最近はほとんど反応がない」といった回答もあって、一様でない。ネットの活用の仕方の上手・下手が出ているようだ。

また回答者達が使っているデジタル一眼レフカメラのメーカーは、キヤノンが61%、ニコンが25%と、最近のニコンの新製品戦略の成功による両社の拮抗ぶりを考えると、随分キヤノンが優勢だ。プロの場合、交換レンズなど過去の資産があるので、素人ほど気軽にシステムを乗り換えられないことの結果だろう。商業写真のカメラマンは、かつてレンズとAF(オートフォーカス)の性能差から、キヤノンのユーザーが多かった(逆に報道ではニコンが多かった)と思う。

他人に仕事を任せることがポイント

今回のアンケートだけで結論を出すのは性急だが、カメラマンのような個人に依存する技術的サービス業の場合(例えばライターとかコンサルタントなどはこの部類に入る場合が多いだろう)、デジタル化の進展により、(1)同様のサービスの供給者のコストが下がり供給が増えると平均的な作業単価が下がりやすく(2)ある程度仕事が増えるとデジタル処理部分を自分でやることの機会コストが上がり(3)デジタル化・ネット化を営業上のメリットに結びつけられるかどうかでも差が付く、というようなことがいえると思う。

3つの中では、特にデジタル処理を誰に任せるかという課題について注目したい。カメラマンに限らず、小規模に起業すると、デジタル関連の仕事を自分でできることが初期の固定費を抑えてくれることはありがたいのだが、ある程度以上に仕事が増えてくると、自分でなければできない仕事以外の仕事をいかにうまく他人に任せるかが重要になる。この点を踏まえた上で、自分が、何をどこまでやるべきかを考えるべきだ。もちろん、これは筆者自身にとっての重要課題でもある。

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