グロービス経営大学院研究科長ジョン・ベックが語る ~私の愚かな失敗とそこから得た学び~ vol.5正直‐それは孤独な響きを持つ言葉 

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仕事でミスをする。報告すれば、評価にひびく。黙っていれば分からないかもしれない――。誰にでもある経験。そのとき、どう行動してきただろうか。正直であることを、どれだけ大切にできるのだろうか。グロービス経営大学院の研究科長(Dean)を務めるベック氏が、自身の半生を振り返り、人生やキャリアに必要なエッセンスをひも解く連載企画第5回。(このコラムでは、読者の皆様の様々な意見や経験談をお待ちしております)

アメリカ大使館でのインターン、事件は起きた

ハーバードで学んでいたとき、東京にあるアメリカ大使館でシステム管理のアシスタントとして夏のインターンシップを経験したことがあります。伊藤さんというシステムマネージャーが働いていましたが、彼は日本語しか話せませんでした。大使館で重要なポジションに就く人たちの何人かはアメリカ人で、彼らは日本語を話せませんでした。そのため、誰か新しいコンピューターシステムの使い方を英語で教えてくれる人が必要だったのです。それが私の夏の仕事となりました。私は伊藤さんからどのようにコンピューターが作動するのかを学び、日本語を話せない大使館職員に個別のトレーニングやグループでのトレーニングを行いました。

その当時私たちは初期のコンピューターシステムを採用していました。現在では想像もできないでしょうが、毎日サーバーのスイッチを入れたり消したりしていました。当時は、コンピューターのバックアップ作業を行い、毎日の仕事の終わりにサーバーの電源を切り、翌朝再び電源を入れて起動させるということが一般的なことでした。コンピューター部門にいるのは私たち2人だけだったので、業務を分担し、コンピューターが順調に動くように起動させたり、メンテナンスを行っていました。

職員へのトレーニングに加え、私は毎朝コンピューターシステムを起動させる仕事を任されていました。夜には伊藤さんがコンピューターシステムの電源を切り、翌朝の6時頃に私が起動させていました。たまに職員が徹夜で仕事を行っていたときには、私が朝出勤するとシステムがそのまま起動だったこともありました。私はいつもそのような状況を喜んでいました。なぜなら、コンピューターが一晩稼動したままだと私の仕事が一つ減るわけですから。

9月初旬のある朝のことです。私が職場に到着すると、コンピューターのシステムが稼動中であることに気づきました。使用状況を見ると、特に翻訳部門での作業が集中していました。その時代、すべてのコンピューターのプログラムは一つのサーバーで集中管理されており、職員が使用する個々のパソコンは一台のサーバーにつながっていました。つまり、個々のパソコンはモニターとキーボードだけが備わっているだけで、すべてのパソコンはメインのサーバーコンピューター接続されていたわけです。そのため、誰がどのプログラムにアクセスしているか、どのパソコンが稼動しているかなど中央管理しているコンピューターから一目瞭然でした。翻訳部門の作業状況を見ると、彼らが締め切り期限に向けて、膨大な報告書と奮闘していることも分かりました。

そんなとき、事件が起こりました。

失うものは大きくても、正直さを貫く

午前7時。農務部の秘書から電話がかかってきたのです。彼女はいつも早く出勤して、パソコンでゲームをやっているような人でした。ゲームソフトに問題があるようで、彼女のパソコンが動かなくなってしまったのです。「またか」。彼女はいつも私に電話をし、パソコンを再起動するよう頼んでくるのです。メインサーバーの管理画面で彼女のパソコンを選択し、F7のキーを押せば、彼女のパソコンが再起動することになっています。私はいつものように「F7」のキーを押しました。しかし、突然、私が管理しているメインのサーバーコンピューターの電源が切れ、メインコンピューターが再起動を行い始めました。そのとき私は「F7」ではなく、本来は「F8」を押すべきだったことに気づきました。不幸なことに、「F8」キーは彼女のパソコンだけではなく、すべての接続されているパソコンの再起動も初めたのでした。

大使館職員が出勤する前の早朝の出来事だったので私は安堵しました。しかし、それからしばらくして、慌ただしい雰囲気が伝わってきました。最初に、伊藤さんが部屋に駆け込んでくると、いったい何が起ったのか私に尋ねました。いつもは遅くやってくる伊藤さんが午前9時にオフィスにいる。何事だろうか。そう考えながら、誤って処理した状況を伝えると、それを聞いた伊藤さんは不安そうな様子になりました。彼は何も言わずに部屋を出ると、ホールへと向かってきました。次に、大使館の管理部門の幹部であるジョンソン氏が部屋をのぞきこんで、伊藤さんがどこにいるか尋ねました。私がホールの方を指差すと、彼もそちらへ駆け込んでいきました。

コンピューターが再び起動して個々のパソコンとつながったとき、事態の深刻さが飲み込めました。100台以上のパソコンが使用中だったのです。その日の朝は、通常の朝とは状況が違っていたのでした。およそ10分後に苛立った様子のジョンソン氏が再びコンピューター室へ現われ、伊藤さんの椅子に腰かけました。そして、「伊藤さんを解雇しなければならなくなった」と話し、明日が伊藤さんにとって大使館での最後の日になると私に伝えました。

大韓航空機007便が、前日の夕方にソ連に撃ち落とされていたのです。すべての情報は日本語だったので、翻訳部は徹夜作業に追われていたのでした。当時はコンピューターの機能も初期の時代だったので、自動的に作業データを保存するような機能もありませんでした。そのため、システムの電源が切られたときに、何百時間も費やされた翻訳作業が一瞬のうちに消去されてしまったのです。ジョンソン氏は、「伊藤さんが間違ったキーボタンを押してしてしまったと認めている」と話し、彼を解雇するしかないと伝えてきました。

それを聞いた私は反射的に答えました。「伊藤さんはシステムを再起動させていません。私がやりました。彼は解雇されるべきではありません」。その言葉を聞くやいなや、ジョンソン氏は愕然としました。「自分のミスでないならなぜ、自分の過ちとして認めたのだろうか」。その質問に対して私が答えられる言葉は一つしかありませんでした。「たぶんそれは、彼が日本人だからではないでしょうか」。

その出来事から数日間にわたって、レーガン大統領は大韓航空機事件に対しての発表が遅れたことへの批判を受けました。実際に、大使館からの翻訳を受けずに行った政府の発表では、大韓航空機は爆破されることなく無事にシベリアに着陸したというものでした。その情報はまったく事実とは異なりましたが、誤解が推測を呼び、「乗客がロシアのどこかで拉致されているのでは」という説までまことしやかに報じられました。

結局、伊藤さんは解雇されることはありませんでした。彼は何も過ちをしてはいなかったのですから。

その出来事とは関係なく、その日をもって私はアメリカ大使館での仕事を終えました。私は仕事を解雇されたわけではありません。ちょうどその日が夏のインターンシップの最後の日だったのです。そうでなければ、解雇されるような状況になっていたのかもしれません。その翌日、私は荷物をまとめると、予定通り大学院へと戻っていきました。

その日、私は事実を語るということについて大切なレッスンを学びました。真実を語ることによって、たぶん、私は合衆国政府の部署やアメリカ大使館で職に就く可能性を生涯にわたって失ったと思います。しかし、もし私が事実を語らなかったならば、毅然とした態度で部下を擁護したために、伊藤さんの積み重ねてきたキャリアが崩れさったことでしょう。私はそのような結果になることを受け入れることはできませんでした。

真実を語る、確固たる信念を

私自身が自分のキャリアを積み重ねる中で、多くのリーダーが事実を覆い隠そうとしている場面に何度も遭遇しました。彼らは、リーダーに対して反論しないイエスマンで周囲を固め、真実が語られることが不可能とも思われるような組織を築き上げます。そのような環境の中では、都合の悪い報告をするのは難しいことです。良くない知らせを伝えるたびに、人々は定期的に解雇されます。あなたも、実際には失敗にも関わらず、あたかも前向きなように見せかけた情報がたらい回しにされているのを社内で見かけたことがあると思います。

金融危機を見ても、銀行業界の幹部が、彼ら自身が作り出したローンの返済額やそれに付随するリスクを正直に語っていたならば、現在、直面している苦しみのほとんどは、回避できたはずです。しかし、誰も真実を語りませんでした。そして、今日、私たちは取り返しのつかないような状況に追いつめられています。

私の父は科学者であり、大学教授でもありました。彼は多くのすばらしい業績を残しましたが、父の同僚の教授が私にある言葉を話してくれたとき、父を心の底から誇らしく感じました。「私が知っている人物の中で、君のお父さんほど正直な人はいないよ」。その日、私は一つのことを心に決めました。私も父のようになれるよう努力しようと。私は父のように立派に行ってきているとは思いません。しかし、毎日、父のようになれるよう努めています。

教訓:もし正直に生きようとするならば、人生は頂上に向かってまっすぐな直線ではないかもしれません。色々な遠回りを強いられるでしょう。しかし、周囲の多くの人々からは尊敬されるに違いありません。時が満ちたとき、そのようなあなたを慕う人々が現われ、あなたのために何かをしてくれるはずです。なぜならば、彼らは、あなたが決して嘘をつかず、彼らを道に迷わせることをしないと知っているからです。いかなるリーダーにとっても、清廉潔白であるということは、極めて稀な資質です。真実を語れるという確固とした能力を身につけることができたならば、真の意味で偉大なリーダーとなる道に踏み出しています。そしてさらに重要なことは、正直であることで、素晴らしい人間になれるということなのです。

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