“オレのカッコいい”を語れるデザイン経営 

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「大企業のクルマ作りでは創造性が加わる余地がない」。そんな不満を持って大手自動車メーカーを飛び出した林田浩一氏。そんな彼がデザインコンサルタントとして夢をかなえたクルマが、チューニングカーの「IDING F460GT」だ。(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年12月11日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)

まずはこのクルマを見てほしい。チューニングカーの「IDING F460GT」、ベース車両は2004年にデビューしたフェラーリF430だ。

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チューニングカーの「IDING F460GT」(林田氏提供)

マニアならずとも、この洗練されたスタイリングにはため息が出る。オリジナルでは2つあるフロントのエアインテーク*1。あえて1つにして“フェラーリらしさ”を追求、そして12点にのぼるエアロダイナミック・ボディキット*2がスポーツドライビング魂をかき立てる。

走りの真骨頂は“腰下”にある。エンジンの腰から下には、新設計のクランクシャフト、チタンコンロッドが収まる。「エンジンレスポンスはシャフトが命」という開発者の熱い思いが込められている。

車体の下半分のエキゾーストマニホールド、サスペンション、ブレーキもオリジナル開発。マグネシウム鍛造ワンピース・ホイールもフェラーリ専用の開発だ。重量は純正が12.9キログラム、IDING F460GTの開発品では9.3キログラム。

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F460GTには開発者たちの10年越しの夢が詰まっている。自動車業界で伝説のチューニング会社と言われるIDING POWERの井手新勝社長の夢、そして外部コンサルタントとしてF460GTのデザインとマーケティングに携わるデザインコンサルタントの林田浩一さんの夢。2人とも大量生産では味わえないクルマデザインを追いかけてきた。

私もコンサルタントだが、林田さんと同じく仕事の軸をデザインにシフトしている。それは「ビジネスの起点は今やデザインにあり」という思いから。経営とデザインの融合は大きなテーマだと感じている。今回は林田さんのデザイン観、コンサルタント業の活躍から、経営とデザインの関係を見ていきたい。

繰り返しのモノ作りにはワクワクがない

もともとモノ作りが好きだった林田さん、1980年代後半に京都工芸繊維大学を卒業し、大手自動車メーカーのデザイン部に造形デザイナーとして入社する。

自動車会社のデザイン部といえば花形部署、そこでは主にワンボックスカーの内装を手がけた。その仕事でのデザイン部担当者の役割は、スケッチでのプレゼンから量産開始まで、一貫して携わるというものだった。

コンセプトを元にまず粘土でモデルを作り、CAD*3で粘土のモデルを3次元デジタルデータに変換。設計部門とともに製品計画を行い、製造部門と生産工程計画、そして部品メーカーと部品開発。テスト、品質管理、そして量産開始まで4~5年のサイクルだ。

林田さんはその2周目、つまり2車種目の開発で「繰り返しはもういい」と思うようになった。次に何をするか見えてしまうからだ。加えて創造性を加えられる余地も少ないのだという。

「自動車は1点(こだわる)ポイントを決めると、全部(のデザインが)決まるんです」

そう言うと、林田さんはホワイトボードに自動車の断面図をスラスラと描いた。エンジンと車軸はデザイン前に決まる。車体フレームにも決まり事がある。その前提条件を踏まえた上で、お尻つまり骨盤の位置を決める。すると人間工学的にシートも屋根もフロントガラスの位置も決まる。スタイリング上のシルエットはあらかた固定されてしまう。

個性化を図ろうとしても別のハードルがある。「ゆったりとしたシートを入れて他車と差別化しよう」と提案すると、営業から「フルリクライニングは絶対なくすな」と注文が入ってくる。すると、大きなシートではリクライニングができないので断念せざるを得ない。こうして無難なクルマが完成する。

「これが本当のデザインだろうか?」

小林さんは不満がつのった。仕事の守備範囲がスタイリング部分にとどまることに満足できず、お客さまが喜ぶモノ作り、ニーズを製品化できる上流の仕事をやろうと考えてメーカーを退職した。1990年代後半のことだ。

アートとデザインの間に入るもの

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そして、少量生産のチューニングカー・デザインを行っていたアイディング(当時)に参画する。同社はBMWのチューニングカーで熱狂的なファンを持っており、1991年にはフェラーリテスタロッサをべースにしたIDING F54-SIIIも発表。さらに1995年にはフランクフルト国際自動車ショーへも出展。フェラーリF355をベースとするIDING F365-SIIIとBMW M3をベースとするIDING M3-SIIIの2台を発表し、世界へ向けての発売も開始した。

ところが当時はバブルが崩壊しており、スーパーカーの購入層が消えていた。そのため、アイディングの事業もいったん縮小せざるを得なかった。

デザインへの憧れだけではダメ。林田さんはこの経験からデザインと経営を深く考えた。そして“デザインコンサルタント”として活動を始めたのだ。

「アートとデザインの間に“マネジメント”が入らないとダメなんです」(林田さん)

デザイナーとは「マネジメントは自分の領分じゃない」と考えている生き物、アートに徹していたいのだ。だがビジネスでは、自分視点ではなく、顧客に受け入れてもらうことが大事。「こういう人に買ってもらいたい。使ってもらって、こんな風に感じてもらいたい」とデザイナーはマネジメントを考えるべきなのだ。

そして逆に「経営者が“自分のところのカッコいい”を語れることが大事です」と林田さん。
自社のクルマのカッコよさを語れずに経営はできない。ハマる単語でなくても、「世の中の“あれ”と“これ”を足すとオレのカッコいいデザインだ」と語ってほしい。私はそのコンセプトに“MOD(Management of Design)”と名前をつけた。MOT(Management of Technology=技術経営)のパクリですが何か?(笑)

オレのうれしい=お客さまのうれしい

F460GTは、“オレたちのカッコいい夢の再挑戦”である。そのボディと腰下は“カッコいいデザイン経営”そのものだ。

F460GTのお値段は1620万円。べースのF430の2600万円と合わせて4220万円。しかし、金融恐慌のさなかに関わらず3台の予約があるという。カッコいい経営に響いてくれる顧客がいるのだ。

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カッコいいを社長が常に語り、社員がさらに深める。みんなで共有してデザイナーはカタチにする。続ければ“オレのうれしい”と“お客さまのうれしい”が一致する経営になる。それがMODの浸透であり、コンサルタント林田さんの想いでもある。

*1 エンジンの吸気や各部の冷却のために設けている空気取り入れ口
*2 空気抵抗を減らすためのパーツ
*3「Computer Aided Design」の略。工業製品などの設計に、コンピュータを用いること

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