第6回 カーボン・オフセットは温暖化の抑制に寄与するか? 

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三菱総合研究所・環境フロンティア事業推進グループ/環境・エネルギー研究本部の面々が、専門家ならではの知識・知見によってビジネスパーソンの環境リテラシー醸成を援ける連載講座。今回は、前回に引き続き、温室効果ガス発生量を直接、間接に相殺する「カーボン・オフセット」を取り上げ、その有効性に迫る。

前回は、企業・政府・消費者のそれぞれがカーボン・オフセットにかける思惑について解説した。今回は、その有効性を詳細に見ていこう。

そもそも、カーボン・オフセットは以下の3つのパターンに大別できる。

(1)商品使用・サービス利用のオフセット
(2)会議・イベント開催オフセット
(3)自己活動オフセット

(1)は前回、冒頭で紹介した「カーボン・オフセット付き乗用車」や「CO2ゼロ旅行」に代表される商品やサービスのことだ。自動車に使用したり、飛行機で旅行をしたりといった際に排出される温室効果ガスについて、これを相殺するだけのクレジット(排出権)を最初から乗せた形で販売される。考え方としては、(2)もこれに近い。会議・イベントの主催者が、会議開催に伴って使用されるエネルギーから想定される温室効果ガス排出量をクレジットで相殺する。08年7月に開催された北海道洞爺湖サミットが、その好例だ。(3)は、個人や企業が自らの活動による排出量を、自身でクレジットを購入することにより、相殺するものである。

いずれのパターンにおいても、カーボン・オフセット・プロバイダーと呼ばれる、排出権供給業者からクレジットを購入して実施する。オフセット・プロバイダーには、英カーボンニュートラル社や米テラパス社といった企業のほか、米Climate TrustのようにNPO法人として活動する団体もある。

では、このクレジットを購入する行為は、本当に温室効果ガスの削減に貢献しているのだろうか。

「削減の確実性」「削減量の正確性」「プロセスの透明性」が重要

現在、オフセット・プロバイダーが提供するクレジットの多くは、「京都クレジット」*1と呼ばれるもので、オフセット・プロバイダーは、それを小分けにして販売している。このクレジットは、プロジェクトが実際に削減を促進させているかといったチェックを国連の手続きのもとで行った上で発行しており、カーボン・オフセット付き商品・サービスを購入することは、「温室効果ガスの削減に貢献している」と言えるだろう。

しかし、ここで気を付けるべき点が一つある。それは、現在、市場に出ているカーボン・オフセット付き商品、サービスの大半が、取得したクレジットを政府に寄付する仕組みとなっている点である。これは、日本が「京都議定書」において約束している、1990年度比6%の温室効果ガスを削減するという目標の達成義務は一義的には政府が負っており(=企業や個人には現在、削減義務はない)、自主的なカーボン・オフセット活動もそれを支援すべきという発想からきている。これは一見、当然のようにも取れるが、オフセットによって取得したクレジットを政府に寄付するということは、政府のクレジット取得コスト削減には寄与しても、もし、このクレジットの寄付がなければ政府自らが取得していた分だと考えれば、政府への支援にはなっても、温室効果ガスの更なる削減にはならないとも言える。この「日本の目標である6%削減に貢献したいのか」、それとも「目標とは関係なく、さらに当該分の温室効果ガスを削減したいのか」は、改めて考えるべきであろう。

さらに、カーボン・オフセットにおいて重要な点は、「削減の確実性」と「削減量の正確性」、「プロセスの透明性」と考える。

「削減の確実性」については、先ほど、オフセット・プロバイダーが提供するクレジットの大半が京都クレジットであるから、一定の信頼が置けると述べた。ただ、最近では、国内での削減・吸収活動に対してクレジットを発行する制度も検討されている。これは海外のみならず、国内でもより削減を促進させるためのツールとして始めるものだが、もし実際に削減・吸収されていない、或いは追加的に実施されるのではないプロジェクトに対してクレジットを発行してしまったら、幾ら、そのクレジットを購入したところで更なる削減には貢献していないことになる。従って、クレジット対象となるプロジェクトが確実に温室効果ガスの削減に寄与していることをルールによって担保することが必要である*2。

次に「削減量の正確性」であるが、この“削減量”はあくまで計算上の数字であり、形がないため簡単に変えられる。同じ削減活動に対して、ある人が100トン削減したと言い、他の人は150トン削減したと言うようなことが認められてしまったら、この削減量に基づくクレジットの信頼性は無くなる。計算に関する統一的なルールと、削減量の計算結果に対する第三者機関による確認(検証)が必須である。

最後の「プロセスの透明性」もカーボン・オフセットが信頼性を得るためにはキーとなる。クレジットは物理的な形がないため、何度もクレジットを使い回す(ダブルカウントする)ことが簡単に出来てしまう。また、オフセット商品・サービスを販売する企業側においても同様に販売分のクレジットをきちんと確保せずに商品・サービスを販売する恐れもある。この偽装行為を防ぐには、オフセット・プロバイダーや、商品・サービスを販売する企業のクレジット確保量と販売量の確認などの一連の流れの透明性を確保し、政府により監視することが必要である。また、クレジットの二重発行や偽装行為を防ぐためにはクレジットを統一的なシステム*3で管理することが極めて重要である。

「排出量の見える化」もカーボン・オフセットの利点

筆者は、カーボン・オフセットの利点は、人や企業の活動によって発生する温室効果ガスを、クレジットの売買によって相殺し、±ゼロとすることに留まらないと期待している。排出量をオフセットするには、人も企業もまず、自らが排出する温室効果ガスの量を知らなければならない。例えば、オフセット付き旅行を買うときには、自分が旅行をすることによって、どれだけ環境に影響を及ぼしているかを自覚するし、例えば、それが企業であれば、自身の生産活動の排出する温室効果ガスを計測し、把握することになる。この「排出量の見える化」が、温室効果ガスの排出量そのものの削減の一歩になると筆者は考えている。

カーボン・オフセットは「削減量の見える化」にも役立つ。例えば現在、ビニールハウス農家で使う重油を木質ペレットに代替する事業が高知県で動き始めているが、この事業を進める中で農家は木質ペレットを使用することによる削減量を意識するようになっている。「どんな行動がどれだけの温室効果ガスの削減につながるのか」を数値で具体的に分かることも、更なる削減努力につながるだろう。一方で、環境省のガイドラインでも明記されているように、「カーボン・オフセットありき」となるのは理想的ではなく、自らの生活や消費活動を低炭素型のライフスタイルにするよう心がけることが並行して行われることが大切だ。

カーボン・オフセットは、まだ始まったばかりの取り組みであるが、非常に速いスピードでビジネス化されている。低炭素社会を達成するための一つの仕掛けになる可能性を秘めているからこそ、明確で統一的なルールを整備し、健全に成長していって欲しいと切に願っている。

<参考>
現在、政府ではカーボン・オフセットに関する制度整備を行っている。具体的な検討状況やガイドラインは以下のページより参照できる。
カーボン・オフセットフォーラム
環境省

*1 京都議定書における京都メカニズム制度の下で国連により発行されるクレジットで、主に発展途上国での温室効果ガス削減プロジェクトより発行される「CER(Certified Emission Reduction)」と、主に東欧諸国等でのプロジェクトより発行される「ERU(Emission Reduction Unit)」がある。
*2 環境省は国内でのクレジット創出制度を「オフセット・クレジット(J-VER)制度」として2008年11月14日に開始した。本制度では国内のクレジット創出プロジェクトについて国際基準に則った厳格なルールを定めている(http://www.4cj.org/jver.html)。
*3 クレジットを発行・移転・償却等の管理を行うシステムは「登録簿」と呼ばれ、京都クレジットもこの登録簿において管理されている。

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