3人の“セルフコーポレート”――私の起業物語 

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「郷は最近どうしているだろうか?」。プロフィールから勤務先の名前が消えたため、そんな疑問を抱いてくれる人がいた。10代、20代前半といった“アラウンドティーン”の時期に抱いた夢を実現するために独立したのだ。(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年11月13日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)

「郷は最近どうしているだろうか?」

そんな疑問を抱いてくれた人が数人いた。というのも1カ月半ほど前、私のブログのプロフィールから所属先企業名が消えたからだ。

その理由は9月末に会社を辞めて独立したから。退職あいさつのメールを送ると、返信で「郷さんは会社にいるころから独立していたようなもんだから」と励ましてくれた人もいた。でもそれって、社内で“孤立していた”ってことですか(笑)。

辞めた理由は、新事業を始めるから。とはいえ、孤立しても“個立”して生き抜けるほどの才覚もないし、寂しがり屋なので2人の仲間と一緒だ。また新事業と並行して、コンサルタント稼業と物書きも続ける。

世間から見れば、私の独立は小さな井戸の中の小さなさざなみに過ぎないだろう。でも独立の物語が誰かの参考になればいい。今回は、セルフポートレート(自画像)ならぬ、“セルフコーポレート(自分事業)”をテーマに書いてみたいと思う。

2枚の事業メモが出会った

きっかけは再会だった。

6月のある日、元同僚のnoirさん(ノワール、フランス語で黒の意味)から「お茶飲みませんか?」という誘い。ランチの後、カフェで語り合った。

「もんちほし、っていいよね」とnoirさん。
「うん、彼女はすごい」と私もうなずく。

“もんちほし”さんとは、私がBusiness Media 誠で取り上げたイラストレーター。彼女の作品とピュアなスピリットにほれ込んで、気合いを入れて書き上げた。もんちほしさんを知ったのは、noirさん経由。noirさんは高品質な印刷を得意とする印刷会社の取締役で、仕事柄クリエイターとの付き合いが多い。その彼の夢は、「クリエイターを支援したい」だった。

「それにはこうしたらいいんじゃないかな」と私は手元の紙片に、ちゃちゃっとあるプランを描いた。

「これがクリエイターがしてもらいたいことだと思うんだ」

「ほぉ郷さん、ボクと同じことを考えているんだ!」

サラサラッとプランを描けたのは、再会に先立つこと数カ月前から、相棒Cherryさんと私とで「こんなことできないだろうか?」と似た事業プランをずっと語り合っていたからだ。

カフェから戻り、Cherryさんにnoirさんとの話を伝えた。私のアイデアの評価尺度は、彼女の“YES/NO”。たいていNOを出す彼女だが、なぜだか即座に言った。

「やりましょう!」

なぜなら「面白そうだから」

そこで事業コンセプトやビジネスモデル、メニューやサイト開発など試行錯誤を重ねた。Cherryさんも私も会社を辞め、10月には小さなオフィスも構えた。新事業はイラスト、木工などさまざまな分野のクリエイターの作品展示と販売が軸だ。

今回のエッセイを書く上でCherryさんに聞いた。

「今さらだけど、なぜこの事業をやりたいと思ったの?」

「面白そうだから」、微笑んで彼女は言った。雑貨好きの彼女は雑貨ショップなら何時間でもいられる。あれこれ見て触わり、頭の中で身の回りをコーディネートする。「ここにしかないモノで生活シーンを彩りたい」という。

一方、noirさんや私は「1人ぼっちのクリエイターの支援をしたい」と語りだす。私なぞ「マス・マーケティングは終わり、ナノ・マーケティングの時代」なんて評論してしまう。男性は理性の動物で、女性は感性の動物。男は原点にこだわり、女は気持ちにこだわる。私たちの事業は、原点と感性の混合体として始まった。

ビジネスモデルとは“心の通り道”

経営の教科書に、ビジネスモデルとは「もうけを生み出す具体的な仕組み」とある。

ある人から“看板管理の請け負い”という事業アイデアを聞いた。ビルの屋上や壁面にトコロ狭しと並ぶ看板。数年に一度、設置場所や契約期間など管理状況を自治体に報告する義務がある。その報告業務を代行するビジネスだ。看板数の多さと管理報告が法令で必須という条件から、確実な収益が見込めるナイスアイデアだと直感した。

だが生来の看板好きならともかく、「お金の通り道が見える」だけでヤル気になれるだろうか? 「会社のために3年がんばれ」と言われてもツライだろう。まして独立するきっかけにはなりえない。

思うに、事業を始めるには「市場機会」と「自分の情念」の2つが重要ではないか。タイミングはマストだが、それだけではダメで、情念がなければ続かないように思う。市場ニーズだけで商売を始めると、いずれ痛い目に遭うだろう。お客さまの「いいね!」の心と、事業をする自分たちの「いいな!」の心を通わせる。ビジネスモデルとはそんな“心の通り道”を創ることだと思う。

“アラティーン”の原点

728ah roruke Cherryさんお手製のロールケーキ

情念とは何だろうか? Cherryさんの原点は料理だ。先日頂いたお手製のロールケーキは、しっとりとしたスポンジのまん中に焼きリンゴのフィリング(詰め物)、さらっとした生クリームが絶品だった。
“さらっとしていた”理由はラム酒。リンゴを煮る時にラム酒を使う。それなら「クリームにもラムを入れたら」と発想する。彼女にとって創作の原点は料理にある。

noirさんは絵が上手かった。小・中学生のころの絵はことごとく入選して、公共施設に飾られてしまいほとんど手元にない。かく言う私は何時間も美術館を漂う文化系のネクラだった。

やりたいことの芽はたいてい10代、20代前半までにある。やりたくても、やろうとさえしなかった夢がそこにある。情念からの事業とは“アラウンド・ティーンへの原点回帰”でもある

3人のよさ

「3人だと落ち着きますよ」

ある人が言った。2人だと議論の収拾がつかないが、3人なら「まあまあ」と合いの手も入る。
事業の名は“utte”とした。ネーミングのきっかけは、Cherryさんのひと言からだ。ちょっとアバンギャルドな名前だが、私は瞬時に賛成した。Webサイトデザインのある部分を私が変えたとき、noirさんは最初反対した。でも私はこう言った。

「ごめん、これは議論の余地なしなんだ」

「じゃあしょうがないな」とnoirさん苦笑。

Cherryさんが振り出し、私が広げ、noirさんが引き取って実行する。サッカーに例えればセンタリング、ポストプレー、シュート。役者がうまくそろった。理性も感性も体力も鍛えられる新事業のスタートである。

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