決定版 ハーバード流“NO”と言わせない交渉術 

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交渉は勝つか負けるかのサバイバル・ゲームではない――。日本人が苦手とされる「交渉術」。心の機敏に深く踏み込み、互いの主張に光を当てる。不毛な“交渉戦”を避けるハーバード流は、多くのビジネスパーソンにとって、公私ともに役立つはずだ。グロービス経営大学院で教鞭をとる嶋田毅が創造と変革の志士たちに送る読書ガイド。

「交渉は得意だ」という日本人は決して多くないはずだ。むしろ、「交渉は苦手」「できることなら避けたい」というのが多くの方の本音ではないだろうか。そうした問題意識を反映してか、書店には少なくない数の“交渉本”が並んでいる。それぞれ、もっともな交渉論やフレームワークを提示しているのだが、「なるほど」とひざを打つ箇所が幾つもある書籍は決して多くはない。

今回取り上げる『決定版 ハーバード流“NO”と言わせない交渉術』(元タイトルは""Getting past No/Negotiating with Difficult People"")はそうしたまれな1冊だ。執筆者のウィリアム・ユーリー氏は長年ハーバード大ロースクールなどで交渉について研究してきた。学生に教えるのみならず、経営者や外交官、政治家などにも数多くのクライアントを持つ、まさに斯界の権威である。本書は、同僚であるロジャー・フィッシャーらと書いた「ハーバード流交渉術」(元タイトルは""Getting to Yes/Negotiating Agreement without Giving in"")の続編・応用編の位置づけであり、前著同様、さまざまな国でベストセラーになっている。

本書のエッセンスを一言で言えば、タフな交渉相手であっても、相手の感情やプライドに配慮し、(敵ではなく)「パートナー」として適切に扱うことにより、望ましい結果が得られやすくなるというものだ。我々の交渉相手はロボットやコンピュータではない。感情や人格のある人間だ。常にその点に立ち返りながら、問題解決的なアプローチをとることが、長い目で見て交渉を実り多いものにするという議論は、豊富な実証もあって説得力がある。

個人的に本書で気に入っているのは2章だ。章タイトルは「こうすれば交渉相手が“最大の協力者”になる!」というもので、節タイトルは以下のようになっている。

1.聞く耳を持たない相手を“武装解除”させる方法
2.相手の“顔の立て方”一つでどんな難問もスンナリ解決!
3.相手の感情に100%共鳴してやれ
4.同意できる“一パーセント”の部分に焦点を当てよ
5.人格は立派に“独り歩き”する
6.すべてが“好意的”に解釈される人間関係つくりの秘訣
7.困難な交渉こそ力を発揮するハーバード流“三点セット”

見ての通り、交渉相手の感情やプライドといったものに配慮しつつ、良い関係作りに最大の注意を払っているのがお分かりいただけるだろう。その意味で、本書の立ち位置を端的に示した章といえよう。3章以降はどちらかといえば合理的側面に注目したテクニック論も多くなるのだが、ベースには概ねこの人間観、交渉に関するフィロソフィーがある。

さて、本書の説く内容や示されている実例は有用で示唆深いが、やはり実践に当たっては注意が必要だし、うわっ面だけ真似ると火傷しかねない、という点は指摘しておきたい。たとえば200ページに紹介されている「善玉悪玉戦術」(「良い警官/悪い警官戦術」とも言う)を使ってきた先輩への切り返しなどは、確かに爽快で聡明さを感じるが、これを実践できるためには、かなりの人間観察力と頭の回転が必要だ。ベストプラクティスとしてはよく理解できるのだが、どうすればそれを実行できるかについては詳細に語ってあるわけではないので、自身のスキルレベルなどを慎重に確認しておくことが必要だろう。

「バルコニーから見よ」(自分を冷静にメタの視点で見よ)という警句についても、それ自体にまったく反論の余地はないが、どうすればそこに近づけるのかは各自に委ねられている。なんとなく「分かったつもり」で読むのではなく、自分自身を振り返りながら参考にすべき本と感じた。

最後におまけ。本書には様々な交渉の事例が出てくるが、時代を反映して、かつてのソ連や中東ゲリラなどとの交渉事例などが数多く紹介されている。では日本あるいは日本人のケースは、というと、残念ながらそれほど多くはない。その中で目立つのが、日本人の名前として宮本武蔵と王貞治氏が出てくる点だ。王氏は最近、現場からの引退を表明され、各所で彼の業績についてさまざまな紹介がなされたばかりだが、こんなところで「世界の王」の存在感を再確認したのも、偶然ながら興味深い出来事であった。

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