グロービス経営大学院研究科長ジョン・ベックが語る ~私の愚かな失敗とそこから得た学び~ vol.3 ルールは破られるためにある 

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グロービス経営大学院の研究科長(Dean)を務めるベック氏が、自身の半生を振り返り、人生やキャリアに必要なエッセンスをひも解く新企画。ハーバードやIMD、サンダーバードなど世界のビジネススクールで教鞭をとり、名だたる大企業へのコンサルティングにも従事。カンボジア首相のアドバイザー役を務めるなど、幅広い経験を持つベック氏が、自身の失敗や成功からの学びを語る。第3回は「ルールは破られるためにある(責任を引き受けるのはあなたですが)」。(このコラムでは、読者の皆様の様々な意見や経験談をお待ちしております)

効率マニア心が芽生えた大学院生時代

「君はお決まりの人生を過ごすことはないだろうね」。ハーバードの修士、博士課程で学んでいたとき、何人もの教授が私にこのように語りました。今振り返ると、教授たちの言葉どおり、一般的なキャリアとは少し異なった人生を歩んで来ました。我が道を行くことを、少しばかり誇りに感じてもいます。

大学院で自分なりの道を選択して学生生活を送る私は、いつも教授たちの目にとまっていたのです。お気に入りの「ゲーム」がありました。それは、必修科目が二重に単位として認められる「ダブルカウント」と呼ばれる教科を見つけることでした。新入生のとき、一つの教科を履修することによって、それが同時に二つの必修科目の履修を満たすものがあることに気がつきました(例えば、科学史のクラスを受講すれば、それが社会学と科学の両方の履修として同時にカウントされるのです!)。

もともと効率的に物事をこなすことに情熱を燃やすタイプだった私ですが、それから数年間はあらゆる「近道」を探すこと自体が楽しくなってしまいました。例えば、数学を学んでいるときでも、単に問題を解くのではなく、近道となるより効率的な解き方を探してしまう、といった具合です。

教授とコンサルタントという2足のわらじ

大学院を卒業するまでに、数々の人たちと接する中で、あることに気づきました。それは、私が尊敬の念を感じた人たちの多くは、ビジネス経験をもった教授や、教授としての経験をもったビジネスパーソンであったということでした。理論と実務の二つを兼ね備えたキャリアに、憧れを感じていたのです。

大学院を卒業してすぐ、大学教授としてフルタイムで働きはじめました。それと同時に、なんと、フルタイムで経営コンサルタントとしても働きはじめたのです。分別のある人ならば、二つのキャリアを持つという目標を掲げたときに、一つの仕事をやり遂げてから、もう一つのキャリアを目指すと思います。しかし、「近道」を求めるマニアであった私は、愚かにも同時に両方の仕事をこなし、1週間に100時間も働くことを選択したのです。朝の5時にはオフィスに入り、夕方まで働き、夕食をとるために帰宅、子供たちをベッドに寝かせ、再びオフィスへ。そして真夜中過ぎまで働き続けました。

このような生活が4年間続くと、私は、完全に燃え尽きたようになってしまいました。あるとき、私は二つの仕事を同時にやめる決断をしました。そして、次に選んだのは、あろうことかパイロット免許を取得することでした。

私を教えた教授たちは、その時点での私の行動を「常軌を逸していた」と評したかもしれません。またある人は、明らかに精神が病んでいたと信じていたかもしれない。しかし、4年間に渡るストレスとプレッシャーの日々から解放されて空を飛ぶことは、世界の中で、もっとも自由を感じさせるものでした。大空に1人で飛び立ったとき、あたかもすべてのことを見渡せ、すべてのことを行えるような気分になりました。そこには私を追い立てるものはなにもありません。自分自身と自然だけしか、存在しませんでした。

パイロットの絶対のルールも破って・・・

しかし、そんな環境にあっても、「古い習慣」というものは、決して私から離れることはありませんでした。しばらくすると、パイロットとしても「効率的」な方法を見つけるようになっていたのです。その中の一つが、煩雑な多くの操作手順を暗記することでした。暗記することで、チェックリストを確認することもなく、比較的早く飛行準備を整えることができるようになりました。

「離着陸の際にチェックリストを見ながら操作をする」ことは、民間機、軍用機に関らず、パイロットならば誰もが守る、「絶対のルール」だったにもかかわらずです。

片手で電気系統の機器を確認している間に、もう一方の手でシートベルトを装着する早業を身につけた私は、飛行機に乗り込んでから飛び立つまで、私が知っている他のパイロットの誰よりも、迅速に行うことができるようになりました。

しかし、ある日突然、パイロットとしての冒険は終りを告げます。

夏の暑い日のことでした。乾ききった空気の中、私は砂漠の上空を飛行していました。たった一人で驚くほど美しい景色を堪能し、山肌に沿って飛行しながら着陸のために飛行場へと戻る時です。暗記していた着陸のためのチェックリストを頭の中で確認し、手順に沿って着陸態勢を整えました。ところが、滑走路が近づいたとき、飛行機は本来のあるべき着陸態勢とは明らかに異なった状況を示しました。

機体が振動している。まるで粉々に分解してしまうようでした。速度は通常よりはるかに速く、着陸段階で感じる機体への抵抗がまったくない。落下するように滑走路に着地し、滑走路を弾むように、機体が何度も跳ね上がりました。速度も中々落ちませんでしたが、幸いにも商業飛行機用の長い滑走路に着陸を試みていたため、滑走路の最終地点まで来て、やっと停止しました。

安堵のため息をつきながら、私は飛行機を格納庫に入れ、整備士に精密検査をしてもらうことを決め、「飛行機のどこかの機能に問題が生じているのではないか」などと考えをめぐらせていると、あることに気づきました。

着陸の際、飛行機が正常に減速できるよう浮力を発生させる「フラップ」を出さなければいけないのに、その重要なステップを忘れていたのです。大きなジェット機ならば、フラップを出さなければ確実に墜落する。私が効率的な近道を求めるマニアだったために、一歩誤れば、機体を破壊し、命を落としてしまうところだったのです。

この経験から学んだ教訓はきわめて重要なものでした。日々の生活の中でも思い起こすように心掛けるものとなっています。

教訓:世の中には長い年月を経て確立された手順やルール、方法論というものがある。しかし、どんなものでも、より効率的で、より大きな付加価値をもたらす余地は必ず残されており、常に新しい“近道”に挑戦すべきだ。ただし、ルールやチェックリストというものは、ごくまれに、それなりの理由があって存在することもある。そういうケースでは、ルールを破る事が非効率で、時には大きな危険さえ及ぼすことも、忘れてはいけない。

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