看板に偽りあり?映画「幸せの1ページ」は誰のため? 

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9月16日看板に偽りあり!映画「幸せの1ページ」は誰のため?

マーケティングの要諦は「整合性」である。

ターゲットを明確にし、サービスや商品の魅力を、製品と価格、販路とプロモーションという要素を組み合わせて提供する。重要なのは、そのバランスであり、どこか一つだけを突出させてもおかしい。ましてや、安易にその整合性を部分的に変更することは全体に大きな悪影響を及ぼすことになる。

「自分を変えたい」「最初の一歩を踏み出したい」と予告編でモノローグするのは、2度のアカデミー賞主演女優賞に輝くジョディ・フォスター演じる「引きこもりのベストセラー冒険小説家」。「人生なんて、たった一行で変えられる」「最高でハッピーでチャーミングな冒険(アドベンチャー)をあなたに!」というコピーに惹かれ、映画館に足を運んだ。

彼女は南海の孤島に父と暮らす少女からの、「父が海で行方不明になった」と助けを求めるEメールに応え、「引きこもりで極度の潔癖症」という自分の殻を破る旅に出るのだ。彼女がどのような冒険の末に変身を果たすのかワクワクした。

シネコンの観客の多くは若い女性。カップルもいるが、女性同士か1人で見に来ている女性も多い。中年男性1人でビール片手に座席に座った筆者は、少々居心地が悪かった。しかし、「悪と戦うタフネスな女性主人公」の役が多かったジョディ・フォスターの、ちょっと共感できる姿に期待していた。ジョディ・フォスターファン歴は、長いのだ。

しかし……。

上映が始まってすぐにいやな予感はした。原題の「NIM'SISLAND」という文字がスクリーンに映し出された。邦題とずいぶん違う。こういう時はだいたい要注意なのだ。

「セミスイートな大人向け」という広告が目について、珍しくチョコレートを食べてみた。すると、口の中になんとも甘い味が広がった。よく見ると、子供向け商品のパッケージを入れ替えたようだ。つまり、プロダクトをはそのままで、ターゲティングとポジショニングを変更し、プロモーションの力で売る作戦だったのだろう。「はじめからそう言ってくれれば、自分で食べずに娘へのプレゼントに買ったのに」とちょっと残念な思いがした。

……例えて言うなら、それがこの映画の感想だ。

筆者はあまり「映画評」をするのは好まない。多くの人が汗水垂らして苦労して作り上げた作品を、たかだか1800円を投資しただけで、ビールを片手に鑑賞して云々批判するのは失礼極まりない話だと思っている。しかし、今回は映画の中身ではなく、「売り方」について少々苦言を呈したい。

作品そのものは良くできている。南海の孤島の少女「ニム(NIM)」を演じるアビゲイル・ブレスリンは天真爛漫で行動的ながら、知的でちょっと多感な少女の役を見事に演じている。無人島の自然もすばらしく、また、重要な役回りを演じる動物たちも良く調教され、ユーモラスな魅力を余すところなく披露してくれる。

つまり、この映画は「幸せの1ページ」ではなく、「NIM'SISLAND」なのだ。あくまで、少女が主役なのである。

日米の公式サイトを見てみよう。「幸せの1ページ」。「NIM'SISLAND」。それぞれの、登場人物の立ち位置に注目して欲しい。

「NIM'SISLAND」では左下に小さくなっているが、DVDのパッケージにもあるように、中央は少女「ニム」だ。対して、日本はジョディが微妙に前に立ち、なんとなく彼女とのロマンスを感じさせるかのような男性がシルエットとなってバックに写っている。このことからも、日米におけるこの映画のターゲティングとポジショニングの違いがわかる。

恐らく、この映画のあるべきポジショニングは、米国における「NIM'SISLAND」の「少女の冒険譚」である。鑑賞後に知ったのだが、原作は「秘密の島のニム」という児童冒険小説だというから間違いないだろう。つまり、「引きこもりで潔癖症の冒険小説家」はあくまで脇役。ターゲットも本来「家族向け」であり、「自分を変えたい」に共感する若い女性ではないはずだ。

ではなぜ、このようなことが起きているのか。ここからは全くの推測であるが、少し考えてみたい。

全米公開は今年の4月4日であった。子供にも観せたい家族向け映画としては、日米同時公開をするにしても春休みを外している。では、夏休みに公開するかというと、今年はジブリの「崖の上のポニョ」という強大な競合の存在がある。ゆえに、時期をずらし、ターゲットとポジショニングを変更して公開することにしたのではないだろうか。

しかし、冒頭記したように、「マーケティングの要諦は整合性」である。チョコレート菓子に例えたように、売る側の都合で一部を変更しただけでは、本来の魅力が失われることになってしまうのだ。

ポジショニングだけでなく、「製品コンセプト」という観点でも考えてみよう。「誰が」「どのようなシーンで」「どのようなベネフィット」が得られるのを生活者にわかりやすく伝えるのが製品コンセプトである。

「幸せの1ページ」は「(若い)女性が」「ちょっと元気がなかったり、何か迷ったりしている時に」「主人公に共感して元気をもらえる」というコンセプトが予告編からは感じられる。しかし、実際の内容は、「子供と家族が」「一緒にワクワクするような体験をしたい時に」「映画を観てみんなで楽しくなれる」という内容であった。

この作品は良い映画であることは間違いない。オススメだ。しかし、観に行くならば前述の通り、本来のターゲットとポジショニングを知った上で行くことをお勧めする。あくまで「幸せの1ページ」ではなく、「NIM'SISLAND」として。

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